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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
89/139

闇々(3)


 路地は家々を避けるようにくねくねと入り乱れており、何度左右に曲がったか忘れてしまうほどだった。あっちでもない、こっちでもないと四苦八苦しつつ、袋小路にぶち当たりつつも手探りで何とか『秘密基地』に辿り着くことができた。


「……多分、ここだよな」

「うん。昼に見たときはここだったけど……」


 最後に見つけた時はベニヤ板で作られた小さなトンネルがあり、継ぎ接ぎのレンガや石材で粗末な壁があった。それが今では壁が崩落し、見るも無惨な瓦礫の山と化している。自分達が表通りの冒険者達の仲裁に行っている間に誰かがここを壊したのだろう。


「ここも手がかり無しですね……」

「だな。でも一体誰が、何の目的でここを襲撃したんだ? 子供が作ったただの遊び場だぞ? それも人目に付きづらいような場所だ。わざわざ壊す理由が意味分からん」

「……ただ一つ分かっておるのは、"獣人族のガキの手がかりを失った"という事くらいかの」

「リリーちゃんの言うとおりだね……。となると、あとはあの冒険者を見失った袋小路かな?」

「だな。そこまで行って、あの冒険者がどこへ消えたかルートを探そう」



 セノディアは諦め混じりに、『ラビット・フットの』冒険者が逃げ込んだ袋小路へと探索を進めようとした。


「……あん……?」


 しかし去り際に、瓦礫の上部から白い"角"のようなオブジェクトを見つけた。暗がりの中で異彩感を放つそれに、角度を変えて僅かな瓦礫の隙間から手を伸ばす。


「んっ……クッ……!」


 しかし途中で肩がつっかえてしまい届く気がしない。石と木が無造作に積まれた瓦礫を退かすことも考えたが相当な労力と時間を必要とするだろう。無駄に物音を立てて見回りの憲兵に見つかるのも面倒だ。


「セノディアさん、どうかしました?」

「瓦礫の中に腕なんか突っ込んでどうしたの?」

「あぁ、瓦礫の中によく分からん物を見つけたんだが……。多分、孤児院の子供達が持ち寄ったがらくたか玩具だろう」


 不思議そうに覗き込んでくるアトリア達に助力を頼もうと考えるがそこまで固執する理由もない。明日兵士を顎で使って瓦礫を撤去させればいいかと画作しつつ先へ進むリリーの背を追った――――。






 『ラビット・フット』の冒険者が姿を消した袋小路へは苦労しなかった。昼間に『ロベルトの塔』が見えたことから東へ進めば着くことが分かり切っていたからだ。しかし複雑な裏路地を進んでいたことに違いなく、この道筋から帰りがスムーズに行えるとは到底思えない。フロントとの「一時間で帰る」という取り決めは反故になるなと一同は心の中で謝罪した。


「にしても……一体どうやってここから逃げたんだろうね?」

「さぁな。上か下か……もしくは隠し扉か」

「で、でも、私達も調べましたよね?」


 モミジの言う通り彼らはくまなく周辺を散策した。だが、何度見ても綺麗な袋小路だ。前方左右は壁で阻まれて逃げ道は無い。ならばミッドナイトブルーに塗りつぶされた上空にと見上げるが、昼とは違った不気味さを漂わせる物見櫓『ロベルトの塔』と、眩き輝く星々が顔を覗かせていた。排気ガスのない世界では、田舎と都会でも見上げる空は同じだと改めて思わせてくれるほどに澄んでいる。

 もしも冒険者の男に特殊な《マスタリー》でもあるなら話は別だが、彼は《マーシャルアーツマスタリー》だった。アトリアとの戦いで悔し紛れに放った一発がそれを物語っていた。しかし肉弾戦の武闘派スキルなら勢揃いしているが、ここから逃げられるだけのスキルを持ち合わせているとは到底思えない。

 勿論、適正の《マスタリー》ではなくても他のスキルは使える。だが兵士の話によると他の冒険者もここで見失うパターンが多いのだそうな。ならばこの路地そのものに秘密があると考えられるのが妥当な推理であり、冒険者達の間で結論として導き出された答えだった。


「……そう言えばリリー、お前昼間この壁を見つめてたよな」


 セノディアが問いかけながら、リリーが昼間に視線を注いでいた土壁を手でなぞる。冷たくザラザラとした手触り。何の変哲もない土壁だった。リリーは口角を僅かに上げた――――。


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