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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
86/139

追跡(2)


「そこの冒険者止まれぇーッ!!」

「ッてやオ゛ラ゛ァッ!」


 ショーン少年の唯一の手がかりである男を追いかけ続ける冒険者一行は全力疾走を続けていた。アトリアは軽やかに走るが、セノディアに至っては鬼の形相で声も枯れ枯れになりつつ追いかけている。


「ヒィ……フゥ……ま、待てー……ハァ……待ってください二人とも……」

「モミジちゃん大丈夫?」


 知能と魔力が資本のモミジは短距離が苦手ですぐにバテてしまい、また走るのが単純に怠いリリーも小走りで追いかけることにしていたが――――。

 男はでかい図体に見合わないスピードで逃げるが冒険者一行のが足が速く、追いつかれるのは時間の問題に思えた。しかしホームが王都であり地形を知り尽くしている男との距離は中々縮まらず、また人混みの多い大通りから人気のない入り組んだ路地裏になっていく。そのため徐々に徐々に立場が逆転し、冒険者が追いつくか追いつかないかの勝負よりも、男を見失わないように着いていくのが精一杯になっていた。


「おい絶対に見失うんじゃねぇぞ!」

「分かってるって! セノこそ喋るより追いかけるのに集中してよ!」


 日のあまり差し込まない裏路地を、お互いがちゃんと着いてきているかどうかの確認しつつ必死に追いかけた。


「セノそこ左に曲がった!」

「わぁーってるって!!」


 だが――――。


「次は右に――――っておい……マジか……?」

「は、ハアアアァァー!? 行き止まりー!? どしてェッ!?」


 二人が行き着いた先は袋小路だった――――。

 眼前と左右には集合住宅の壁、逃げられるはずが無いのに煙のように姿を消してしまった。セノディアとアトリアは狐につままれたような気分に陥る。周囲を見渡すも、壁と壁に阻まれて逃げ場などどこにもない。

 じゃあ翼でも生えて空にでも飛んで逃げたか――――?

 そんなの考えるまでもなく不可能だろう。袋小路周辺の集合住宅は高くそびえ立ち、足場となる物も1mくらいの木箱程度。ギリギリで物見櫓――――東側に位置する『ロベルトの塔』が視界に入る程度で、翼でも生えていない限り屋根を飛び越えることも、飛び乗ることもできない。スキルでも使えばハイジャンプは可能だが、それは《シーフマスタリー》に適正のあるスキルであり、他の《マスタリー》所持者が使うためには詠唱や触媒が必要になるため時間がかかる。

 一体全体、冒険者の男はどこに逃げたのだろう。


「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……セノディアさん……アトリアさん……どうして立ち止まって……?」

「あれ、もしかしてお兄ちゃん達見失ったのー?」


 モミジはクタクタになりながらも先導する二人を見失わないよう必死で走ってきたので、二人が件の男を見失ったことに気づいていない。しかしリリーはにやけ面でからかった。彼女は二人の困惑する表情から事態を察したようだ。


「フゥ……。ようやく追いついたがやっぱりここか……」


 それからしばらくして、追いついたシアが憎々しげに呟く。


「ハァー……。あぁやっぱり……」

「またか……」


 次々に到着した兵士達も殺風景な袋小路を見て項垂れてしまう。彼らの言う『また』とは何なのだろうか。セノディアは、彼らが逃げおおせた男についてまだ情報を隠し持っているのではと疑う。


「シアさん、何か、随分ゆっくりと追いかけてきてましたけど……あぁいや、鎧が重いから仕方ないのかも知れませんが――――『また』ってどういうことですか? こういうのって一度や二度じゃないんですか?」


 シアは頷いた。


「実は、何度か騒ぎを起こした冒険者を追ってここまで来たことがある。ベッティも、他の兵士達もそうだ」

「シアの言うとおりよ。私達が追跡した冒険者の何人かはここに来ると姿を消すの。彼らしか分からない隠し通路があると考えているのだけれど……周辺の建物は住人に許可を取って調べさせてもらったけどそんな形跡は無かった。一日中見張った仲間もいたけれど、何の成果も上がらなくて諦めたらしいし……」

「既に手は尽くしていた……って事ですか」

「そうなるな」

「だから探しても無駄よ」

「でも折角追いかけたんだ……。とりあえず無駄足にしたくないし、俺達も調べてみても?」

「構わんが……ベッティの言うとおり何も出ないぞ」


 セノディアは周囲の壁を手探りで調べ始めた。アトリアもモミジもそれに倣って地面や壁などを調べ始める。だが彼らの言うとおり、何も怪しい物や隠し扉などは見つからなかった。


「……」


 ――――だが、リリーだけは違ったようだ。袋小路の正面にある一点の壁を凝視している。その目は甘えたがりで育ち盛りな可愛い妹ではなく、魔族を統べる《魔王》の鋭い目つきに変わっていた。セノディアはリリーの隣に立って同じ壁を見つめた。


「この壁がどうかしたか? リリー」

「――――うぅん、なんでも無いよお兄ちゃん!」

「バーカ嘘つけ。ぜってぇーなんかあんだろ」


 身に纏う雰囲気を180度変えたリリーを訝しんだセノディアは、試しに壁をコンコンと叩いてみる。押したり、斧の柄で殴ったり、耳を押しつけて音を聞いたり、色々と試してはみたが何の手がかりも得られなかった。


「だから何も無いってばぁ~」


 リリーはその様子をケラケラと笑っている。


「何々? 何か見つけた?」

「どうかしましたか……?」

「あぁ、何かここにありそう……だった。リリーの反応を見るにね」


 アトリアとモミジも、セノディアの奇行について尋ねる。リリーがこの壁を見ていたのだと告げると、やはり二人とも壁に向かって色々と試し始めた。掌サイズの魔法を放ったり、剣で斬り付けたり、そしてまたリリーが愉快そうに笑うのだ。


「……待て、止めてくれ三人とも。何か聞こえないか……?」


 シアが冒険者達に手を止めるよう促す。

 冒険者がおかしなことをし始めたことで兵士達は完全に興味を無くしていたが、彼らは剣を構え始めた。――――エマージェンシーの合図だ。


「――――キャアアアァァッー!!」

「――――ッ!!」


 今度は冒険者達の耳にもバッチリ届いた。表通りから女性の叫び声が上がり、路地裏に木霊する。それに混ざって男達の喧騒も聞こえてきた。


「おいおいおい……また冒険者が暴れてるんじゃないだろうな!」

「その可能性が高いわね」


 兵士の一人が呟く。その可能性が高いだろうとベッティは頷いた。『ラビット・フット』か、『バダスの矢束』か――――。どうやら表通りでまた冒険者が騒ぎを起こしたようだ。兵士達は溜息を吐いて、ウンザリしながら表通りに走っていった。

 ベッティは四人の顔を見渡して手招きをする。


「ねぇ貴方達も手伝ってくれる? 確かシュゼット隊長にそう言われてたわよね。『道中で冒険者同士が諍いを起こしたら手を貸してくれ』って」

「あぁ言われてましたね。……しゃーない、みんな行こう」

「うん……」


 どこか釈然としない様子だったが、シュゼットには"同業者が騒ぎを起こしたら沈静化に手を貸す"という約束を交わしていたため、四人は兵士達の後を追いながら路地裏の袋小路をあとにした。



「――――目標、姿を消しました。と」



 一連の行動を監視していた影にも気づかずに――――。

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