ラビット・フット(3)
「あ」
ショーン少年の足取りが一つ潰えたかに思えたが、先日一騎打ちした冒険者を思い出した。あの冒険者は、己の肉体一つでモンスターと渡り合える《マーシャルアーツマスタリー》を持っており、またこのギルドの所属していると声高らかに宣言していたことを思い出した。
「それじゃあ質問を変えますがもう少し具体的に……そうだな、例えば身体的な特徴や《マスタリー》を挙げたら答えられますか?」
「現在、私達のギルド長は遠方に出かけておりますので、お答えできる範囲であればお答えします」
受付嬢はそう言ってちらりと兵士達を見た。後ろめたいことに手を染めていないのに、ここで拒否して兵士にありもしない噂を流されるのは都合が悪いからだ。それはきっと『ラビット・フット』のギルド長も快く思わないだろう。冒険者に襲われる危険性を孕みながらも彼らを連れてきたのは正解だったようだ。
了承を得られたセノディアは自分の黒髪を弄りながら質問した。
「うーん、髪の毛はブラウンで俺よりも短髪だったような……。あと大柄で、アトリアの――――あー、この金髪イケメンの1.5倍くらいタッパがありそうで、獣人族の子供を『毛むくじゃら』と呼ぶようなアウトローな冒険者さんなんですけれど」
「……」
受付嬢の眉毛が吊り上がる。異人族の差別は御法度、ましてやそれが王都を代表する冒険者であれば尚更だ。監督不行届で街中での評判も悪くなるだろう。また兵士達も今の話は初耳だったようで、各々鎧を揺らして受付嬢に圧力をかける。
「街中で《マーシャルアーツマスタリー》のスキルをブッパしてたんで、《マスタリー》は《マーシャルアーツマスタリー》だと思います。あとランクはEランクでしたね」
「……少々お待ち下さい」
受付嬢は諦めたように立ち上がってカウンターの奥に引っ込み、表紙に『拳』のマークが付いた二冊の本を手にして戻ってきた。恐らくこのギルドに所属している冒険者の名簿だろう。彼女は無言でページを開きペラペラとめくり始めた。《マーシャルアーツマスタリー》を選択する冒険者は少ないので、幸いにも時間はかからなそうだ。慣れた手つきで一冊目、二冊目と読み進めていく。やがて最後のページをめくり終わるとパタンと閉じた。
「大柄、茶の短髪、粗暴、Eランクの《マーシャルアーツマスタリー》……。該当する冒険者がいましたが、当人は昨日から長期クエストに出かけております」
「昨日から……?」
「しかも長期らしいですね……」
ボソボソと小声で話し合うアトリアとモミジ。どう考えても怪しさ満点な情報に、二人は不信感を募らせていた。
「……ちょっと、ソイツ何のクエストを受けて何処に行ったの?」
素っ気ない受付嬢にベッティが苛立つも、彼女は兵士に臆することなく態度を変えなかった。
「申し訳ありませんが、これ以上の個人情報はお教えすることができません。クエストを依頼された方にも迷惑が掛かってしまいますし……そちらの方達も冒険者なら分かるでしょう?」
「そッスね」
そこら辺は王命があったならともかく兵士がいるくらいじゃ開示できる内容ではない。クエストを受けた冒険者だけでなく、クエストを発注した側にまで迷惑が及ぶ可能性があるからだ。「情報管理はしっかりしてるなぁ」と受付嬢に関心しながら頷くしかなかった。
「あー、じゃあせめてそいつの名前だけでも――――」
「おいどけよ余所者。クエスト受注すんのに邪魔だぜ」
なおも食い下がるセノディアは、背後からやってきた男に力任せに退かされてしまった。周囲にはパーティメンバーと思わしきガタイの良い男や色気のある女冒険者が群れをなして威圧していた。兵士達も負けじと帯剣に手をかけ、いつでも抜けるよう準備をする。
先に手を出して正当防衛の大義名分を与えたくないが、かと言って相手に譲ると面子が潰れる。互いに一触即発の睨み合いが続いた――――。
「……しゃーねぇ。出よう」
一階からは先ほどの静寂が嘘のように騒々しさを増していた。これ以上ここに留まると興奮した冒険者達が何をするか分からなくなる。ピリピリとするムードに負け、これ以上の騒ぎに発展しないためにも諦めるしかなかった。




