ラビット・フット(2)
「ここだ」
重い足取りで王都の東に歩いた冒険者&兵士のパーティは、胸中に不安と事態の進展に希望を持って『黒骨の集い』の倍近い大きさを誇る建物に着いた。
四階層から連なる石造りのギルドハウス。正面に掲げられた看板には兎の脚部が描かれており、王領モリノティス各地から食い扶持に困った者が出稼ぎに来る巨大ギルド――――『ラビット・フット』の所在をアピールしていた。およそ200年前に発足してから数々の武勇伝を打ち立てた冒険者が名を連ねており、王領モリノティスの各ギルドを語る上で欠かせない巨大ギルドである。
「……緊張するな」
兵士の一人がポツリと零した。まだ外にいるのだが、出入りをする『ラビット・フット』の冒険者達が、すわ何事かと立ち往生する彼らを睨み付けている。
「……入るぞ」
先導していたシアが返事を待たずして『ラビット・フット』の入り口を開けた。ギィと軋むドアを開ける。入室一歩目からアルコールの匂いが鼻を突いた。
ギルドカウンターが立ち並ぶ『黒骨の集い』と違い、大型の丸テーブルが等間隔で配置されている。机上には酒瓶や料理が並べられ、一様に笑い声を上げながら飲み食いし、談笑する。
パブだ――――。
一行は同じ感想を抱いた。『黒骨の集い』を基盤に思い描いていたギルドと違い来たところを間違えたのかと思ったが、それまで賑わっていた声がピタリと止んだ。
異物、異質、異様――――。誰も彼もが舐め回すようにねちっこい視線を彼らに向けている。「兵士が入ってくるとは良い度胸だ」「どうでもいいから面倒ごとになる前に早く出て行け」といった高圧的なものから、「どうして兵士がここにいる」という困惑的なものまで様々だった。
針のむしろに座らされた気分のセノディアは、つかつかと棒立ちでこちらを見やる給仕に話しかけた。
「こんにちは」
まさか自分に話しかけられることは無いだろうと思っていた給仕は、後ろにいる兵士と冒険者を交互に見て口を開いた。
「……『黒骨の集い』の冒険者さんですね。当ギルドのギルドカウンターは二階にありますので、そちらにどうぞ」
給仕に一発で冒険者と看破されたセノディアは面食らうも、その視線が胸部に注がれていることに気づく。『黒骨の集い』の象徴たる鷹のバッジだ。受付嬢は背後に立つ兵士に警戒している様子だったが、直接話しているのがGランク冒険者のセノディアということもあってファーストコンタクトは至って普通。むしろ兵士に話しかけられなかったことで安堵していた。
しかし、大事は自分が担当したくないのか二階に行くよう促した。もしくは冒険者が全員聞き耳を立てていたからため、彼らを気遣っての発言かのどちらかだ。
「行こうセノ。ここの人達、何か怖い……」
アトリアが耳打ちする。酒を煽っていた冒険者達は兵士に対して明らかに敵意を剥き出しにし、隙あらば今すぐにでも飛びかかろうという姿勢を取っている者までいる。短気で酔いの回りきった冒険者がここにいないのが幸いだ。
セノディア達はそそくさと二階に上がっていった。
◇
二階はパブとは違い清潔感のあるロビーだった。だが、相も変わらず『ラビット・フット』の冒険者から懐疑の視線を注がれている。彼らは、賑やかだった一階が急に静まったので不思議がっていたが、上がってきた一行を見て納得していた。
セノディアは再び代表してギルドカウンターに座る受付嬢に話しかけた。
「こんにちは、隣町の冒険者さん。『ラビット・フット』に何かご用でしょうか?」
「すみませんお訪ねしたいことがありまして……。最近、ここら辺で小さい獣人族の子供を見ませんでしたか?」
「子供……ですか……?」
受付嬢は緊張から一転、拍子抜けたように思案する。その落差をチャンスと見たセノディアはなるべく軋轢を生まないよう、彼らに疑いがあることを隠しながら本題を切り出した。
「実は、獣人族の子供がここ近辺で行方不明になったという情報がありまして、辺り一帯を調査しているんですけど……」
「獣人族の子供……。獣人族かどうかは分かりませんし私は直接見たことはありませんが、路地裏の空き家に孤児院の子供が出入りしているとの噂なら耳にしましたよ」
「本当ですか!? その噂をした人は今どこに?」
「さぁ……。噂が流れている……程度にした聞いたことですから……」
「頼みますよ、事態は一刻を争うんです」
「……申し訳ありません。当ギルドは御覧の通り常日頃から冒険者の出入りが激しくて、私達受付嬢ですら全ての冒険者を把握していないほどなんです。それなのに一々噂をした人物など探し当てる暇も無いんです。ご理解ください」
「そうですか……」
そう言って深々と頭を下げた。こうも下手に出られたらこちらとしてもこれ以上の追求はできない。そんな時、アトリアが再び耳打ちをする。
「セノ……僕と戦ってた冒険者ってここの人じゃなかった?」




