ラビット・フット(1)
獣人族・ショーン少年の捜索二日目――――。
『ノアの止まり木』で聞き込みをし、また他の行方不明となった人たちについて情報を集めた一行は『ある場所』を目指して歩いている。同行する兵士は昨日と同じメンバーだが浮かない表情だ。
「……で、今日はどこに行くの?」
「お前達明日には王都を出てくんだろ。まさか適当に歩いてるんじゃないだろうな」
「適当でこんな道歩かねぇよ。最後に俺達に嫌がらせしようって魂胆だろ」
兵士達が不満げな声を上げた。昨日に寄った『ノアの止まり木』をスルーした彼らは、このまま道なりに進むと彼女達が最も嫌う『ある場所』へと辿り着いてしまうことを知っているからだ。
「その通り俺達は適当に歩いていません。――――行き着き先は『ラビット・フット』です」
セノディアは当たり前のように返した。その言葉に諦めとどよめきが起こる。
『ラビット・フット』は、王都の東側に位置する巷を騒がす巨大ギルド。もう一つの巨大ギルド『バダスの矢束』と対立関係にあるため、所属する冒険者はことあるごとに王都の兵士の厄介になっている。そのため兵士達は冒険者の中でも特に彼らを疎ましく思っており、兵士、『ラビット・フット』、『バダスの矢束』の三つどもえだ。
その本拠地に少数編成で、それも腕が立ち、権力もある上司――――近衛兵様のシュゼット・メーラを連れずに乗り込むなど正気の沙汰ではない。
また、行方不明になった子供を追っているのにどうして『ラビット・フット』に行かねばならないのか、それについても問いつめると代わりにシアが答えた。
「昨日、ショーン少年の他に攫われた人間がいないかどうか中心街で聞き込みを行った。覚えているな?」
「あぁ」
「その情報を昨日彼らと整理し、今朝になってある共通点を絞り込めた。まず一つ、攫われたのは種族、孤児、遺児、両親健在、あらゆる境遇問わず全て『子供』であること。もう一つは、最後の目撃証言が王都の東に寄っている――――つまり『ラビット・フット』周辺で消息を絶ったこと。この二点だ」
兵士達は目をひん剥いた。冒険者の取り締まりで天手古舞いな彼らは行方不明者の情報の共有が末端までされておらず、こうして現地に赴いて実際に聞き取りをしないと知り得ない新報だったからだ。
「ちょっと待てよ、『ラビット・フット』周辺てことは……」
それに、まるでその言い方だと『ラビット・フット』が中心となって幼気な子供を攫っているようにしか聞こえないではないか――――。
「それ、隊長には報告したのか?」
「俺達は護衛を一任されただけだが、一応は隊長に一言入れておいた方がいいんじゃ……」
遠回しに「『ラビット・フット』に行くのは止めよう」と口を揃える兵士だったが、シアは首を振った。
「いや、これは彼らと相談して決めたことだが、シュゼット隊長には事後報告で済まそうと思う。……多分、隊長がいたら『慎重に行動するように』と仰るだろう。ここでいざこざを起こしたら私達と《崩れ者》――――冒険者との溝が深まって決定的な物になるのが明白だからだ。隊長は冒険者と対立するのは好まない。だが……、だが、それと同じくらい行方不明になった子供を救出するのが我々に科せられた使命だ。違うか?」
『ノアの止まり木』で老婆から直接話を聞かされたシアは使命感に燃えていた。彼もセノディアと同じく、行方不明になったショーン少年の境遇を不遇に思い、早く保護して老婆を安心させてあげたいからだ。それが冒険者同士の喧嘩を諫めることと同じくらい一兵士としてやるべき正しい行いだと、彼は考えている。
「……仕方ないわね。貴男がそこまで言うからには、何かあったら責任取るのよ」
「お、おいベッティ!? 止めなくていいのか!?」
「そうだ! あそこに俺達兵士が行ったら大騒ぎになるぞ!」
「分かってるわよ! けど、コイツもそれくらい覚悟してるわ。そうでしょ?」
「あぁ」
シアはぶっきらぼうに返事をしながらも、新米冒険者達を先導して悠然と歩き続けた。観念したのか、他の兵士達は胃をキリキリと痛めながらも付いていくしかなかった。
「よかったねセノ、僕たちだけにならなくて。凄い心強いじゃん」
「うーん……俺達だけなら同業者だから警戒心なく話してくれそうだったけど……。まぁ俺達Gランクの冒険者だから聞き出せる情報に制限があっただろうし、兵士さんがいるならスムーズに行けそう」
「あの、王都の冒険者と兵士さんは仲が悪いんですよね……? だったら、逆に意地になって何も話さないんじゃ……」
「いーや、俺の予想だと素直に話してくれるんじゃないかな。モミジの言うとおりお互い嫌ってるけど、そんな露骨に情報を隠蔽したら『ウチはやましいことしてます~!』って暗に言ってるようなもんだろ? どっちみち、あっちが話そうが話さなかろうがこれ意外に選択肢無いんだししょーがない。当たって砕けろさ」
「んむむ……難しいです……」
一生懸命頭を働かせるモミジを、百姓の出で学のないセノディアが「その内人付き合いにも慣れるさ」と言いながら肩を叩いた。モミジよりも人生を歩んでいるからか少し得意げに語るも、他の面々は『ラビット・フット』での身の振り方を考えてばかりでそれを咎める者はいなかった。




