孤児院を訪ねて(3)
「……これで、ショーン君がただの家出じゃないことが分かりましたね」
シアが淡々と情報を整理する。獣人族の少年ショーンは度々家出をしていたが、それは秘密基地に籠もっていたこと。そして今回は秘密基地にショーンがいなかったこと。つまりショーンが、何らかの事件に巻き込まれた可能性が一気に高くなった。
「どうしてショーンが……。それに迷惑なんてそんなこと……子供達は誰も、ショーンが獣人族だって気にしてないのに……」
「良い子達じゃないですか」
「本当に良い子に育ってくれてるわ……。子供達はとても素直なのよ、だから悪い大人に影響されて悪事に手を染めないように、学校に行けなくても誰かが教育しなければならない。私達にはその責任があるの。全ての孤児院がその町の将来を決める分水嶺なのよ……。それなのにショーンが思い詰めてる事にも気づかなかったなんて……」
老婆は物憂げに手を顎にやって憂いだ。来客がいるから建前を装っているのではなく、本心で言っていることは『雪解けの涙』が無くても明らかだ。これで孤児院が子供を売り払っている線は消えた。
「そう、子供を……貴方だって十分若いんだから、冒険者なんてやめて兵士さんみたいに親御さんを安心させてあげなさい」
セノディアの胸に光る冒険者バッジが目に止まったのだろう。この町を騒がせているのが同業者だからか、やはり良い印象を持たれていないようだ。彼の隣に座るシアを具体例に出して、安定した職につけという老婆心からアドバイスを送る。これで指摘されたのがアトリアだったら「職業で差別しないでよ」とか一言二言いらないことを言いだしただろう。
「ハハッ。それもう両親に散々言われました、ここまで来てお説教は勘弁してくださいよ。それでショーン君の事ですが、秘密基地のある場所をあの二人の子供から聞きたいのですが可能ですか?」
セノディアはこの手の話を受け流すのに長けており、個人の事情にこれ以上突っ込むなと暗示しながら元の話題へと修正する。
「そうね。二人はお風呂に入っちゃったから後で私が聞いておくけど、一つだけ心当たりがあるわ」
「……その場所は?」
「東のギルド――――『ラビット・フット』の近くの空き家……。前にショーンがあそこにトマとコハルと一緒に入って行ったのを見かけたわ。もう行かないようにって口を酸っぱくして言ったのだけれど、無駄だったみたいね」
「もう少し具体的な場所は分かりますか?」
「『ラビット・フット』の脇道を逸れた裏路地にあるのだれど、そこから詳しくはあの二人から聞き出さないと分からないわ。ごめんなさいね。あそこは入り組んでて迷いやすいし、あの『ラビット・フット』が近くにあるから危険なの。でも、子供達にとってはただの遊び場としか思われてないのよ……」
「口頭注意程度じゃ止まらないでしょうね。子供達にとっては目に映る全てが遊び道具ですから」
「あら、よく分かってるじゃない」
「僕には丁度あの子供達と同い年くらいの姪がいるもので。……ちなみに、秘密基地以外にショーン少年が行きそうな場所に心当たりは?」
老婆は眉間に皺を寄せて熟考するも、有力的な候補などは挙げられなかった。
「あとは畑くらいしか思い浮かばないけれど、あそこに隠れられる場所なんか無いものね」
「『畑』……ですか?」
「えぇ、孤児院の裏手に畑があってね。小さいけれど、そこで子供達が野菜を育てて売ってるの」
「野菜を栽培して売ってるんですか? 何の野菜を?」
農家出自のセノディアは興味に惹かれたようで、本筋の獣人族の子の捜索とは別物になってしまうが、身を乗り出して詳しく聞き出す。
「大根や人参、トマト……。色々栽培してるわ。この畑で取れた野菜をお得意様の『始まりの宿』や近くのカフェに卸売りするか、露店で直売してなんとかこの孤児院はやっていけてるの」
「あそこで出しているお野菜、ここのだったんですか!?」
「えぇ。あのお宿の繁栄って勇者様が密接に関わってるじゃない? その時に勇者様が『今後この宿直系の飲食店はここの孤児院から野菜を買うようにしよう』って言いだしたのが始まりらしいの。今でもその約束を守ってくれている『始まりの宿』には頭が上がらないわ」
「へぇ~……」
意外な繋がりに関心するセノディアだったが、隣でお茶を飲んでいたシアが小脇を突っつく。これ以上孤児院で獣人族の子の手がかりは掴めそうにないと判断したからだ。
「じゃあ……そろそろ僕たちはこれで失礼します。貴重な情報ありがとうございました」
「……私はここを離れられないから、ショーンのことで何か分かったらまたここに来てちょうだい」
セノディアとシアは孤児院長に別れを告げ、外に待たせていた仲間達と合流した。その後、中心街でここ数日の間に他に行方不明となった人たちについて聞き込みをし、この日は終わりとなった――――。




