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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
80/139

孤児院を訪ねて(2)


「……どうぞ、お入り下さい」


 犬猿の仲であるはずの兵士と冒険者が組んで訪問されたことからのっぴきならない話になるなと老婆は予期し、二人は孤児院内に招き入れられた。


「すぐに行きますので先に応接間でお待ちください。ミリア、この人達を応接間に案内してあげな。あとお茶もね」

「は、はい。こちらです」


 ミリアと呼ばれたショートカットの女の子に応接間まで案内された。院長は書きかけの書類を片付けてから来るということで、二人は少女が運んできたお茶を飲んで待った。ほどなくして老婆がやってきて、シアは本題を切り出す。


「獣人族の孤児――――ショーンの事ね」

「そのショーン君は今どこに?」

「あの子はまだ帰ってきてないわ」


 獣人族の子供が消え去ったと老婆に告げると、彼女はしわくちゃな顔を一層顰めて答えた。セノディアとシアは顔を合わせて具体的にショーン少年の素行について聞く。


「とにかくやんちゃで元気が取り柄な子なのよ。悪い事はしない良い子なのだけれど……失踪癖が困りものね」

「失踪癖……ですか」

「えぇ、今回みたいに偶に二日三日姿を眩ますことは珍しくないの。あの子、普段は明るく振る舞ってるけど、孤児は人間ばかりで自分が獣人族って事を気にしてる節があったから……。一人になりたいという書き置きを残してフラッとどこかに行ってしまうの」

「あぁそれは……僕たちのパーティにも異種族の子がいますから、よく分かります。そうなんですよね、僕たちが何を言っても本人が一番気にするんですよね……」


 シュゼットはドワーフ族のモミジがパーティメンバーにいることから、人間が中心の社会で異人族が暮らすのは色々と不都合が多いことを知っている。特に『獣人族』という種族はその傾向が顕著だ。

 子供の獣人族はとても体毛が濃く、頭から褄先まで肌が露出しないほど毛深いのだが、大人になるにつれて毛が抜け去り露出される肌が人間らしくなっていくという『換毛』に似た成長期が訪れる。そのため、10歳前後の獣人族が食事をする際は毛が食べ物に混入しないよう気をつけなければいけないし、風呂に入るなら一番最後にしないと毛が浮きたい放題。おまけにベッドで一日眠るだけで毛が布団に大量に付着してしまう。

 とにかく獣人族は不衛生ということで、街中の飲食店などで獣人族が飲み食い、または働けるケースはほとんど無い。それは異人族差別を無くそうと奮闘する王都レッドバリも例外ではなかった。こればかりは対応のしようが無いのだ。


「すみません。私達も異種族問題には力を入れていますが、中々難しい問題でして……」

「いえいえ、兵士さんの頑張りを私達庶民はよく知ってるわ。謝ること無いのよ」


 老婆はお茶を啜った。

 ここは孤児院だ。両親はショーンをどうしたのだろう。異人族差別に耐えきれなくて死に別れたのか、不幸な事故に巻き込まれたのか、はたまた育成費が稼げなくなってしまったのか――――。『異人族』というだけで人々に忌避されてしまう上に、一番甘えたい時期に両親が不在という現実に、シアはショーン少年に同情してやりきれない気持ちを抱えてしまう。それが失踪癖に繋がったのだろう。


「ただいま先生!」

「先生ー終わりましたー!」


 項垂れるセノディアだったが、応接間を小さな二人の子供が走り抜いた。背丈は行方の知れないショーン少年と同じくらいだが、彼らは人間かそれに近い種族のようだ。少なくともエルフや獣人族の特徴は見受けられない。

 二人の子供の服と手は土で汚れ、額には汗が浮かんでいる。しかしその顔は充足感に満ちていた。


「トマ、コハル、お帰りなさい。何時も通り手を洗って、汚れた服は洗濯籠の中に入れて頂戴」

「はい先生!」

「先生、今日もショーンはいないの? 早く言いたいことがあるんだ!」

「えぇ……いつもの家出かもしれないわね。二人は気にしなくていいわよ」

「家出? そんなことないけど……。だっていっつもショーンがいなくなる時は僕らの秘密基地にいるし……」

「コハル! それ言っちゃダメだよ!」

「あ――――あぁ! しまった!」

「ちょっと二人とも……もしかしてショーンの家出先を知ってたの?」

「ご、ごめんなさい先生……。でも、ショーンから完成するまで誰にも言わない約束だったから……」

「うん……ずっと『周りの人達に迷惑はかけたくない』って言ってて……。それで秘密基地を作ってそこに住もうとしてたんだ……。で、でもショーンは今日そこにいなかったよ!」

「そう……。この人たちがショーンが事件に巻き込まれたか調査して助けてくれるから、貴方達は早くお風呂に入りなさい。それと、しばらくは人気の無い所には行かないこと。いいわね?」

「「ハァーイ」」


 二人の子供は先生と慕う老婆の言いつけ通り、駄々を捏ねることなく孤児院の奥に走っていった。


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