冒険者の在り方(5)
『――――奴隷商人がのさばって秘密裏に子供を攫ってるそうだ』
カフェで耳にした噂話。もしもあの時の獣人族の子供が家に帰られていないのならばその線が高い。そうなったら完全に自分達の埒外だ。いくら何でも気軽に関わって良い案件ではないし、口にするのも憚られる。
「セノの言いたいことくらい分かってる。『人身売買』が絡んでるって言いたいんでしょ」
「……あぁそうだ。杞憂ならいいが、これは俺達が思っている以上に闇が深すぎる。冒険者としての領分を完全に逸脱してる。深入りは危険だ。俺達は明日明後日にはリンハンスに帰ろう」
「うん……でも……」
アトリアは流し目でシュゼットを見やる。二人が口論している最中も、シュゼット・メーラはただ無言で頭を下げ続けていた。それが人に物を頼む最低限の礼儀だと知っているからだ。もしもここで自分達が帰ってしまったら、それは信用に対する不義理ではないか――――。そう思わずにはいられなかった。
「もうこの件は忘れろ。俺達は本来の目的は果たしたんだ、王様に謁見するっていうな。さ、行くぞ」
セノディアとしても内心ではシュゼットの期待に応えたいとは思っていたが、それは冒険者の領分ではないため諦めざるを得ない。後ろ髪引かれながらも無視して四阿の外に出た。無視をするということは、キッパリ断るという意思の裏返しだ。追随して、モミジとリリーも兵士二人と近衛兵様にお辞儀をして四阿を出る。
だがアトリアだけはまだ中に居座っていた。王都への道中、アトリアと馬車内で供に過ごしたベッティはセノディア達を顎で指した。
「いいの、アンタは行かなくて」
「うん……」
「アイツ達がいなくても?」
「うん。これ以上セノディア達に迷惑掛けられないから僕一人で手伝う事にする。元はと言えば僕が首を突っ込んだからこうなったんだし、僕がケジメを付けないとね」
「……そ。アンタは顔だけじゃなくて心意気まで男前なのね」
「別に顔は良いでしょ!」
「なによ褒めてやったのに。私が冒険者を褒めるなんて金輪際無いわよ?」
冗談めかすベッティに釣られてシアも声を上げて笑った。
「ハハッ。そうだな、アトリアさん、ベッティが冒険者どころかシュゼットさん以外を褒めるなんて初めて見たよ。いつも訓練の相手してる俺が言うんだ、間違いない」
「私だって偶には褒めるわよ?」
「訓練で負けた兵士に『どうやったらそこから負けられるの? 凄いわね、尊敬するわ』って? それは皮肉だ」
「うわ、性格悪いなぁ」
昨日の啀み合いは何処へやら。歳が近いこともあって和気藹々と打ち解けるアトリアと兵士二人。
(……やはり私達は、歩み寄れるじゃないか)
シュゼットも顔を上げ、兵士と冒険者という相容れないはずの間柄が崩壊する一部始終を見ていた。この状況を、未だに柵に囚われ冒険者と溝を深める事しかしない騎士・兵士・貴族・王族諸君に見せてやりたい衝動に駆られたが、それができないのを残念そうに頭を振った。
「……ま、性格悪いのは、僕も同じかな……」
「え……?」
「それってどういう――――」
二人はアトリアの自虐的な口ぶりに疑問が沸くが、その意味がすぐに理解できた。
「おいアトリアァ!」
モミジとリリーを連れて庭園から出て行ったはずのセノディアが一人で戻ってきたからだ。その眼には覚悟が満ちている。
「お前一人だけ置いてけねぇっつの! 三日だ、三日ッ!! 三日だけなら俺達も手伝ってやるけど、それが期限だかんな!」
「ありがとう、セノ」
いつだってそう。アトリアの根気に負けて折れるのは彼の方だ――――。




