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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
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冒険者の在り方(2)



「わぁ、とても綺麗……」


 肩にかかるブロンドヘアを掻き上げ、優雅に紅茶を飲むシュゼットにアトリアは吐息を漏らした。


「ありがとうアトリア君。君には負けるけどね」

「確かに……アンタ冒険者よね、なんでそんな髪の毛サラサラなのよ。肌もハリいいし……」

「あーベッティそこ気になっちゃうんだ~? 例え毎日が忙しい冒険者でもね、僕はちゃーんと宿に帰ったらお風呂に入ってるし、なによりもウチのギルドで売られてる石鹸使ってるんだ! 一般販売されてるんだけど近所のおばちゃんにも評判いいんだよ。植物モンスターのオイルを混ぜ混ぜしてるから、普通の石鹸よりも魔力が豊富で肌が潤うんだって!」

「ふーん……。その石鹸はこっちでも売ってるかしら」

「私も欲しいな。ベッティ、後で町を散策して探そう」

「あ、僕予備の石鹸持ってきてるから後で一個あげるよ! なんなら今ここで渡してあげても――――」

「んん゛ッ!」


 早口で熱の入りかけた美容トークに脱線してしまい、セノディアはわざとらしく咳払いして中断を求める。


「すまないセノディア。すぐに話を始めよう」

「あれ……何でセノだけ呼び捨て?」

「俺が女性から君付けされんの嫌いだからやめてって言ったらやめてくれた。さ、話の続きをどうぞ」

「では再開しよう」


 ――――『ラビットフッド』と『バダスの矢束』。この二つのギルドは犬猿の仲と言っても良い。

 お互いに成り立ちは不幸な者達が集まってできたギルドなだけあって、昔は手を取り合ってモンスターと戦う仲の良いギルドだったのだが、王都に様々な目的を持った冒険者ギルドが発足するにつれて二つのギルドはある危機感を募らせていった。

 いつか自分達のギルドが隅に追いやられるかも知れない。いつか自分達のギルドが分裂して別のギルドに暖簾を分けることになるかもしれない。いつか自分達のギルドが他のギルドに吸収されるかもしれない――――。

 『吸収』、その一つの結論に気づいた二つのギルドの行動は早かった。簡単な事だ。相手に吸収されるよりも早くこちらが取り込んでしまえばいい。傘下に置かずに全てを取り込む、M&Aではなく完全なるA。

 手始めに『ラビットフッド』と『バダスの矢束』のギルドは、王都で成長を始めていた多種多様なギルドを、人脈で、金で、力づくで、合法だろうが非合法だろうがありとあらゆる手段で吸収していった。その傍らで表面上はあくまでも正しいギルドであるかのように振る舞っていた。

 やがて他のギルドが脅威でなくなっても、それでも二つのギルドはお互いに牽制し合うことを止めなかった。どちらがより強大で強力なギルドかの競り合いは頻繁に行われ、今では立派なライバルギルドにまで変貌してしまっている。

 しかし決して王都の住民に手を挙げなかった。何故なら王都とはモリノティスの王がいる町、不届き千万な真似をして王族や貴族の怒りを買うようなことはしたくない。そのため住民からの評価は高く、良識のあるギルドであり勢いが衰えることのない老舗の巨大ギルドという考えを持たれていた。――――つい最近までは。

 若いギルドメンバー同士の喧嘩は昔からあったが、それはその場での罵り合いや場所を変えての決闘などで他人に迷惑をかけず当人同士で決着をつけていたから苦情が上がることは少なかった。それらがここ3ヶ月ほど前から過激になりつつあり、2週間前から人的被害を及ぼすまでになっていた。

 昔は小さな小競り合いだったのが、近年では街中であろうが食堂であろうが目と目が合えば即バトル。そうなった場合、じゃあ誰が仲裁する事になるのか――――国を守る『兵士』にお鉢が回ってくるわけだ。

 この二つのギルドのいがみ合いは、以前記述した通り500年という長い年月を経た今でも若い兵士すらも『冒険者嫌い』に染めてしまう理由と謳われていたが、それは住民の声もあって些細な影響だった。

 しかし味方になっていた住民すら敵に回ると話は別で、老輩の冒険者嫌いは正しかったのではないかと価値観を翻してしまうほどに影響力は増していた。


「――――詳細はかなり省いたが、以上が王都の悩みの種になっているの二つのギルド。そして君たちが煙たがられている理由だ」

「へえぇ~……」


 新米冒険者一行に、机を挟んで座っているシュゼットは王都を賑わすギルドの成り立ちから相関について、知り得る限りの知識を懇切丁寧に伝えた。

 彼女としては、王が招いた賓客だから大人しくしていてほしいというのが本音なのだが、巻き込まれてしまった当事者がいる以上、無知のまま王都に放り出すことはできない。どちらかと言うと「巻き込まれに行った」というのが正しいが……。


「ハイ、一つ質問あります! 王都には他にもギルドはあるんですよね。そのギルドはどうしているんですか?」


 アトリアがピシッと手を挙げて質問する。

 アトリアの言うとおり、他にも大小様々なギルドが存在している。中には、手を組めば『ラビットフット』や『バダスの矢束』に匹敵するギルドもちらほらと生き残っていた。

 では二つのギルドの喧嘩を、他のギルドはただ傍観しているだけなのかと言うと――――。


「何もしないわ。なーんにも。目の前で『ラビットフット』と『バダスの矢束』が鉢合わせしようと、そのせいで周囲に被害が及ぼうが知らぬ存じぬを決め込むの」


 右隣に控えていたベッティがうんざりして答えた。彼女もその現場に鉢合わせたことはあるし、仲裁したのは一度や二度ではない。


「同じ仕事をしてる人間が迷惑をかけてるっていうのに、報復が怖くて手出ししないのよ。同じギルドの仲間だってそれを止めようとしない……。冒険者は腰抜けばっかりよ」

「ふーん……」


 他の面々が真剣な表情で聞いている中、セノディアは興味半分無関心半分の空返事で紅茶を飲んだ。男に殴られた時にできた傷に「あいたたた」と口をすぼめる。


「……何よ、何か言いたそうじゃない」


 その態度が気にくわないのか、ベッティは突っかかって本意を問い質した。


「俺は――――勘違いしてほしくないですけど、別に貴方達を責めるつもりはないし市民の人も大変だなぁと思います。でも、他の冒険者が手を出さないのは賢明な判断だと思いますけどね。……このアホを除いて」

「いやごめんて……。本ッ当にごめん……」

「バーカ、おいこういう時は強気に言い返せって。『僕は悪くない!』くらいにな。お前は正しい事をしたんだから胸を張ってりゃいいんだよ。野次馬共がお前に味方してたのがその証拠なんだし」

「でも僕のせいでセノ達に迷惑かけちゃったし……」

「お前正義感で突っ走る癖にそういう生真面目な所あるよな」


 本気で落ち込むアトリアにを責めたり、また元気づけたりと忙しないセノディアだったが、ベッティはその物言いを良しとしなかった。


「つまり、貴方は何が言いたいの?」

「話が逸れちゃいましたね。普通に考えて、それだけおっきなギルドにいちゃもんつけて『報復』されるのは怖いでしょってことです。マジックアイテムとか、装備とか、クエストの発注とか。その他諸々圧力かけられたらお終いですから。手は出さないで正解だと思います。それに……」

「それに……?」


 一呼吸置いてベルトに挟んだ腰の斧を机の上に投げた。


「俺達はモンスターなら殺し慣れてます。でも――――人は殺したく無いんですよね」


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