冒険者の在り方(1)
――――王族の心のオアシスである庭園。その一角に、雅な外観を損なわないよう設けられた四阿に彼らはいた。
「では、始めるとしよう」
魅力的なハスキーボイスが木漏れ日の差す四阿に響いた――――。
『税』と一言に言っても、金銭や労働や生産など様々な税がある。日本において有名な『年貢』では米や銭貨などを収めていたが、一方で関税や賦役などもある。時代や地域によって徴収の仕方や税の内容は様々だが、セノディア達の暮らす王領モリノティスでの主な税は『金』だ。今から500年前、《勇者》の発案によって税制に手が加えられており様々な職種の人間から現代の『税金』に近い形で貢納されている。あちこちに粗は目立つが、昔に比べて物納や農奴などは減ったと言えよう。
税金の使い道は現代と少し違い、国や貴族が公共サービスに役立てたり、手柄を立てた部下への報酬として使われている。税を私兵に使っていいのかと眉を顰めるかもしれないが、無駄に税を貪って私利私欲に走らないだけでも名君と呼ばれているのだ。
「だが《勇者》は、次第に政への関心が薄まっていったらしい――――」
しかし口出しした勇者は政治への興味が薄れ、封建制そのものの根本的な見直しはしなかった。知人の一説によれば政治の知識に疎いので『しなかった』ではなく、『できなかった』のではと言われている。そのため、徴収した税を私腹を肥やすために使う領主などの悪代官も少なくはない。これが、税を部下への報酬として――――と言うよりも、税の使い道が可視化されているだけで名君と呼ばれる所以だ。
一般的に暴君を裁くのは難しいと言われている。なぜなら不正を暴くのが困難を極めるからだ。
『黒骨の集い』の加入試験で使われるように特殊なマジックアイテムや魔法などで書類改竄や記憶改竄なども見抜けるが、スヴェンの件を見るに100%とはならない。必ずどこかに抜け道があることが証明されてしまった。
抜け道を見出して私腹を肥やされていたとしても、昔のように過度な徴収で領民を苦しめたり、収められた税金を私利私欲に使ったりなど、傍目から見て明らかに圧政とバレるようなヘマはしない。年代を重ねるに連れて税を徴収・隠蔽する方法は狡猾になっていく。
「知らず知らずの間に生活が苦しくなっていく。そうなったら領民はどうなると思う?」
「そりゃ、領主が怪しいと見て反乱を起こすか泣き寝入りか……。それともなんか対抗策を思いつくか……」
「そんな勇気を持てるのは一握りの者だけだ。現実はそうはいかなかった――――」
領民達は気づかぬうちに生活水準が下がっていき、金銭に困るようになる。そうなるとやがて、家族の誰かが出稼ぎに行く者も増加した。
こうして、他方の領土で圧政を苦しめられるという共通のプロセスを経て、王都へと出稼ぎに来た労働者が集まり、冒険者へと転換したのが『ラビットフッド』と呼ばれるギルドの前身だ。ちなみにシンボルはギルド名の通り『兎の足』。
元は小さなギルドだったのだが「来る者拒まず去る者追わず」をモットーにし、各地方から来る出稼ぎ労働者を雇い続け、今や所属人数だけで言えば王都において1・2を争う有数なギルドになっている。
「それとは別に、もう一つのギルドが王都では有名だ――――」
兵士の中には昔から続く仕来り――――『冒険者嫌い』を嫌う人間もいる。近衛兵のシュゼット・メーラがソレだ。
全ての人間が同一の思想に染まる事はないが、一つの思想に染まらない人間を排除していけば、全員が一つの意思の元で一丸となれる。それが王領モリノティスの『兵』だった。
近衛兵になれるのはそう簡単ではない。一般卒の兵士が手柄を立てて功績を収めるか、騎士学校を優秀な成績を修めて卒業した者が『騎士』となれるのだが、その中でも選りすぐりの者だけが『近衛兵』にランクアップできるのだ。
話が少々脱線してしまったが、とにかくそういった兵士の中には希に『冒険者嫌い』をごり押しを続ける老人を嫌った『冒険者嫌い嫌い』がいた。
しかしそれらはまだ日の浅い反骨精神溢れる新兵だったり、貴族の中でも階級が低かったりと、行動原理が感情的且つ反抗的な若者と相場が決まっている。なれば必然、権威を持った人間によって糸も容易く除名させられてしまうだろう。
こうして除名された元兵士の若者はあてもなく彷徨うこととなった。――――謂わば世捨て人やホームレスのような存在だ。
「彼らはどうなったと思う?」
「うーん……僕だったら家族の元に帰るかなぁ」
「アトリア君、残念ながらそうはできなかった。……モミジ君はどうだ?」
「その、騎士になる学校に通わせてもらうにはお金が要りますよね? それなのに帰れって言われても……私だったら、その、帰れないです……」
「正解だ」
そのままのこのこと故郷に帰ったら、金に限らず、貴族社会においても好ましくない噂が広まってしまうだろう。排斥された兵士の心境を考えるならば騎士学校に通わせてくれた家族に会わせる顔が無いから仕方ないのかもしれない。帰りたくても帰れないのだ。
しかし不幸中の幸いか。
ある時、除名された兵士の中に《マスタリー》を付与できる《ミディエーター》がいることが判明した。
除名した老人の手違いか、はたまた運命の巡り合わせか――――。
こうして排除されて行き場を失った兵士が集い、《ミディエーター》を中心に設立したギルドが『バダスの矢束』。シンボルは矢ではなく、弓矢を手にしてクロスさせた腕。
集まった人間が元兵士という事だけあって、『戦』という一点に絞ってみれば知識も鍛錬も他のギルドよりも一歩先を行っていた。そのためモンスターとの集団戦における立ち回りで言えば、王都のみならず王領モリノティス全体でもNo.1を誇るギルドと呼ばれている。
また、冒険者を差別する用語として王都の兵士が使う『崩れ者』は、『バダスの矢束』が元兵士の集合体からできているという生い立ちが由来だったりもする。「彼らは兵士になれなかった、崩れてしまった者」という意味だ。
『ラビットフット』は東側に、『バダスの矢束』は西側に別れそれなりに距離が離れているのだが、その距離すらも埋めてしまうほどに因縁は深かった――――。
「ふぅ……失礼」
語り手――――兜だけを脱いだシュゼット・メーラは紅茶を一飲みし、喉を潤した。ウェーブがかったブロンドヘアに木漏れ日が美しく反射する。




