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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
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観光(2)


 一通り『ロベルトの塔』を眺め終わったセノディアは来た道を引き返し、中心街へと歩き出した。アトリア達と合流するためだ。

 道中には食べ物の屋台が出ていたり、呪術師がアイテム鑑定をしたり、大道芸人がストリートパフォーマンスで日銭を稼いだりと、商業と観光の混ざり合った通りになっている。

 露天商を眺めては「あのマジックアイテムの使い方はこうだろう」と推理したり、刀匠が鍛えた武器を手にとっては「そろそろ武器を斧から鞍替えしようかな」なんて武器の相性を比べたり、それなりに一人で満喫していた。


(……なんか口元が寂しいな)


 しかし歩けば腹は減るもので、セノディアは香ばしい甘さとしょっぱさの混じった匂いに釣られとある屋台の前に立った。

 『キルケー焼き』とだけ簡素に書かれた看板の横に小さな文字で殴り書きされた説明文によると、店主の男性が海岸沿いの町から仕入れた海魚をブロック状にして串に刺し、それを焼いているらしい。

 山育ちで中々海魚を食べる機会の無かったセノディアは、『キルケー』という名前に既視感を覚えながらも店主に声を掛けて人差し指を突き立てた。


「おっちゃん、一つください」

「はいよ。一つ20Gね」


 パン一個で3Gと考えるとそこそこ値が張るなと思いつつ、セノディアは大銅貨二枚丁度をポケットから取り出して男に手渡した。店主は渡されたお金を勘定すると、焼き鳥の要領でブロック状の魚肉が刺さった竹串を差し出した。見た目は完全に鮪の照り焼きだ。

 セノディアは受け取ると即座にぱくりと齧り付く。食べ歩きとはなんだったのか。


「うんま」


 久しぶりに食べる海魚の美味しさに目を見張るが、特筆すべきはその味付けだった。香ばしい醤油ベースに甘辛い味付けが食欲をそそる。当初は食べ歩きする予定だったが食べ盛りの年齢なのも相まって、これくらいなら二つ三つは入ると見越し夢中でガツガツと店先で全部食べてしまった。先ほどカフェで朝食を済ませお腹も膨れているハズなのだが空腹感は「まだ食べろ」と訴えてくる。


「兄ちゃん良い食いっぷりだねぇ。よっぽど腹が減ってたのか?」


 露店の男ははにかんでセノディアに話しかけた。


「いやいや、さっき朝飯食ったばっかなんであんま腹減って無いんですけど単純にうんまいッスよこれ。なんでしたっけこれ、『照り焼き』って言うんでしたっけか。あんま海魚も食べなかったし」

「そうそう。『照り焼き』ってのは、かの勇者様が考案した味付けでな。『マヨネーズ』や『ケチャップ』なんかの調味料も勇者様が生み出したんだが、今じゃすっかり俺達にも親しまれるようになった『醤油』を使った調理法さ。まぁ『照り焼き』って名称までは普及してないが……。しかし、ほぉー……兄ちゃんは海魚は久しぶりなのかい」

「えぇ、実家は山中の田舎で、しかも農業やってたんで基本野菜と肉でしたから。たまに食べる魚は川魚だったし、拠点にしてる酒場に海魚のメニューもあったけど、そっちでも肉ばっか食ってましたからね」

「ハハッ! そうかそうか、まぁ海魚っつっても『キルケー』っつーモンスターの肉なんだがな」

「あ、そうか思い出した! 『キルケー』ってどっかで聞いたと思ったらモンスターだったんだ……。てことはこれ、海魚じゃなくてモンスターの肉ですよね?」

「そう言うなって。『キルケー』ってのは、でっけぇ目玉が胴体に余分に二つくっついてる以外は普通の魚の見た目してんだ。魚として扱っても問題無いだろ」

「そんなもんなんスねぇ」

「そんなもんさ」


 そう言われれば確かにと、セノディアは納得する。Gランクで最高金銭効率を叩き出している『赤狐』は便宜上モンスターとして扱われているが、アレも部位によって値段は変動するものの本質は『獣肉』だ。それと似たようなものだろう。

 串に付いた『キルケー焼き』を食べ終わったセノは、露店の横に置かれたゴミ箱に串を放り捨てた。ポケットからハンカチを取り出して手を拭くと、ついでに二枚の大銅貨を取り出す。


「そんなもんついでにおっちゃん、もう一個ください」

「はいよ。……ところで兄ちゃんの付けている鳥の冒険者バッジはここらじゃ見慣れないけど、新しいギルドでもできたのか? それとも余所のギルドかい?」

「余所のギルドですね。隣町のリンハンスから、一応観光目的でこの町に来ました。ほら、俺のバッジは『鷹』ですよ、『鷹』」


 そう言ってセノディアは、串を持っていない方の手で服に付いたバッジをグイッと見せつける。『鷹』が雄々しく翼を広げたエンブレムこそ、リンハンスが誇る名ギルド『黒骨の集い』の証だ。最も、その色は最低ランクを現す銅だったが――――。


「あぁ、『白銀のダフト』が跡を継いだギルドの冒険者さんか。最近、王都じゃめっきり見なくなったから忘れてたよ……」

「そうなんですか? 隣町なんだからギルドとギルド同士で交流とかあると思ってたんですけど」

「俺の知る限りじゃ多分ねぇな。この町のギルド連中は、余所様のギルドと事を構えてらんねぇ事情があっからよ……。つっても、俺達にとっちゃイイ迷惑だが」

「……風の噂で聞きましたけどギルド同士で喧嘩してるんですって?」


 愚痴のような世間話に付き合わされるなと悟ったセノディアは、また食べ歩きするために買った『キルケー焼き』にかぶりついた。

 カフェで商人達が話していた内容と酷似した愚痴だろうが、それはそれで同業者として聞き逃せなかったという理由が大半を占めていた。パーティメンバーの前でこそ素っ気ない態度だったセノディアだが、アトリアの言っていた通り内心では興味津々だった。


「リンハンスじゃギルド同士の抗争なんて無いんスけどね」

「そっちの町は、Aランク冒険者のダフト在籍してる『黒骨の集い』が頭一つ抜けた発言権を持ってるからな。他のギルドなんざ歯牙にもかけんのだろうが、こっちはそうはいかねぇ。こっちにゃ力のつえぇギルドが二つあって、そいつらがお互いいがみ合っててな……。最近じゃ騎士様や近衛兵様まで出張ってるんだが根本的な解決にはほど遠いらしくてよ。王様が何かしら新しいお触れでも出さないと沈静化は図れねぇだろってさ」

「ふーん、大変そッスねぇ……」


 相づちを打ちながら確かにと頷く。言われてみれば、リンハンスには『黒骨の集い』以外のギルドは見たこと無いし、クエストを受注して現地でばったり出会う冒険者は同ギルドの冒険者だけだった。

 それに、セノディアはシュゼットが馬車の中で最後に言おうとしていた言葉を思い出す。複数人の近衛兵を連れてこられなかった云々だ。それは今この男が口にしたように、ギルド同士がいがみ合うから離れられないのが原因だろう。


「おーよ、大変も大変! この間はウチの前の店が被害にあってなぁ……」


 店主がセノディアの背後を指さす。くるりと振り向くと、そこには商売に使われたであろう鍋や屋台の骨組みが散乱していた。


「うわ何スかこれ……屋台ぶっ壊されたんですか?」

「それだけじゃねぇ、そこの店主はギルドメンバー同士の喧嘩に巻き込まれて怪我しちまったのさ」

「そりゃご愁傷様で……。でも喧嘩って何でまた」

「事の始まりは可愛いもんだったよ」


 目の前の店で起きたということで、その一部始終を見ていた店主は苦虫を噛み潰したような顔で当時を振り返った。


「新しい商品をアイツが仕入れてな、それをどっから聞きつけたのか……。二つのでけぇギルドがあるっつったろ? そこのギルドメンバーがそれぞれやってきて、『この商品は俺が最初に見つけたから買う権利がある』『そんなのを決める権利はお前達にない。金は俺達のが多く払う』だのなんだのって、しょーもない諍いおっぱじめて。終いにゃ《マスタリー》のスキルに物言わせた揉め事にまで発展……。結果、店主は療養中よ」

「そこの店主さんは、そんな取り合いになるほど珍しい物を仕入れたんですか?」

「いや全然。見てた感じ、お互いに同じ物がダブったけどライバルに譲りたくねぇっつー意地の張り合いだろうな」

「うわしょーもな……」

「だろ? しょーもねーことでしょっちゅう喧嘩すんのさ」


 セノディアはその場に自分がいたらどうしていただろうと想像しつつ、同業者同士の喧嘩をバッサリと切り捨てた。自分だったら、ライバルと喧嘩なんかしないで徹頭徹尾無視を決め込み、その商品をさっさと買ってその場を去るだろうと。

 そうしてまた食べ終わった串をゴミ箱に捨ててハンカチで手を拭くと、また大銅貨二枚を取り出した。もうこれ以上食べ物に費やしたくはないので、今度こそ食べ歩きを遂行するつもりだ。

 それを見た店主は苦笑し、『ケルキー焼き』と掌に収まる小さな白い球体をセノディアに渡した。


「愚痴に付き合わせちまって悪ぃな。これはサービスだ」

「え、マジ? もらっちゃって良いんスか? てか何ですかこれ?」

「そいつが件の入荷した商品だったんだってよ。『シュラウド・ハイド』っつーマジックアイテムでな、魔力を込めると5秒間だけ透明になれるらしい。兄ちゃんなら仕事上で使い道があんだろ、遠慮無く受け取ってくれ」

「……これ、抱き合わせ商法って奴ですよね? 厄介の種を捨てようとしてません?」

「ハハハッ! 兄ちゃん、人が良さそうに見えて鋭い勘してるな。ままま、便利なマジックアイテムには違いないだろ?」

「確かに戦術の幅が広がるマジックアイテムには違いないですが……これ、俺がもらったって誰にも言わないでくださいね? そのギルドとやらに絡まれたくないんで」

「安心しろって言わねぇよ。俺だって絡まれたくねぇからな」


 じゃあなと手を振り、惜しまれることなくセノディアと店主は別れた。


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