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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
67/139

深まる謎(3)


「……」

「……」


 セノディアとアトリアは、適当に見繕ってきた本を机の上にドサリと積み上げて黙々と読み耽る。前例が無さ過ぎて希少な《エクスプローラーマスタリー》を調べるためだ。黒髪と金髪がページを捲る度に微動する。

 『マスタリー全集』『冒険者の歩き方』『勇者はなぜ全てのマスタリーを使えたのか』『魔力取り扱い書』『スキルの使い方・コツ』『マジックアイテムの作り方』『マスタリーシステムにミディエーターは必要か』『女神新書』『女神とミディエーターの関連性』etc……。とにかく目に付いたそれらしきタイトルの本に目を通していく。

 内容は各種マスタリーについて解説がなされていたり、適正のあるスキルをどう効率的に使うか、魔力が人体へ及ぼす影響や下級ポーションなどの簡単な《マジックアイテム》の作成方法など、冒険者としてステップアップできる知識が書かれていた。

 流し読みを始めてから2時間ほどが立ち、セノディアは軽いノビをする。


「アトリアどうよ、何かそれっぽい記述あった……?」

「うーん……一応エクスプローラーって記述があったけど……。ほらこれ」

「お、マジであったの!? でかしたアトリア!」


 ウキウキするセノディアを横目に、浮かない顔のアトリアは分厚い羊皮紙の束に記載された1ページを指さした。

 そこには『《エクスプローラーマスタリー》なる珍妙な《マスタリー》があり、『宝』を探してダンジョンを探索して回っていた』とだけ書かれ、その横に杖をついてダンジョンを彷徨う老人の挿絵があった。


「……え、これだけ? いやこれは俺も知ってるっつーの……フェリシーさんに教えてもらったし」


 そう、これらは全てセノディアが《マスタリー》を授かる際にフェリシーから教えてもらった既知の情報だった。


「フェリシーさんが最初に言ってた通り、ここにも目新しい情報は無さそうだね……」

「そうだなぁ……」


 例えば《エクスプローラーマスタリー》所持者がどのような人間でどのように生きてきたのか、所有者にどのような影響を及ぼすのか、特殊なスキルが使えるようになるのかなど、彼らの役に立ちそうな情報は何一つとして記載されていなかった。フェリシーの言っていたことが正しく、彼女が裏表のない称賛されるべき人物であると改めて評価しただけに終わってしまった。

 セノディアは椅子にもたれ掛かり眉間を指で摘んだ。ほんの2時間流し読みしただけであり、王様から許可をもらって一般開放されていない書庫を、本腰を入れて調査すれば更なる情報が得られるだろう。だがそれは《魔王》が口添えしてこそ叶う望みであり、天の邪鬼な彼女が自分達に素直に協力してくれるとは考えられない。


「うーん……結局、何も収穫無しっぽいね……」

「もしかしたらフェリシーさんの見落としかもと思って調べたけど、徒労に終わっちったな……。なークロエー」


 途方に暮れ天井を見上げたセノディアは、バッグの中に手を突っ込んでクロエを擽って遊んだ。図書館に来てから時間が経ち、昼下がりで人も疎らになった部屋の中に鱗と指が触れあって衣擦れのような音が木霊する。

 しばらくそうして戯れた後、クロエのご主人様である《魔王リリー》と王様の会話を思い出した。その元凶となった予言を言い残したのは《老人》――――。


「……アトリア、もっかいさっきのページ開いてくんね?」

「ん」


 アトリアは先ほどまで読んでいた本をパラパラとめくり、《エクスプローラーマスタリー》の項目を開いた。そこには先ほど掻い摘んで説明された一文と杖をついた老人の挿絵があった。何度開いて何度閉じても変化はない。

 だが閃いた彼の視線は挿絵に釘付けにされた。


「……なぁアトリア、この老人さ、この本が出版された当時の《エクスプローラー》の持ち主ってことでいいんだよね?」

「そうだと思うよ、じゃないとそのページに描かれないでしょ。誰かが悪戯で描いたわけでもあるまいし。それかそれより前の時代に生きた人が伝聞で描かれたのかもね」

「……フェリシーさんさ、持ち主がご老人だなんて言ってなかったよね」

「あー確かに……。でもそんなの一々言う必要あるのかなぁ、ご高齢でも冒険者続ける人は続けるじゃない? 風の噂で聞いたけど、他国に最高ランクのAランクおじいさんがいるみたいだし」

「俺が言いたいのはそこじゃなくて、王様が言ってたろ」

「何を?」

「『魔王が復活すると予言を告げたのは自分よりもジジィ――――』みたいなさ」


 玉座の間での王様の話を思い出す。自分達を呼び出したのは、王族しか知り得ない秘密の通路を通ってきたお爺さんが「《魔王》が復活するよ」という予言を残したからだ。

 セノディアは二つの話題に関連するワードが符合したことに運命めいたものを感じた。戦うべくして戦った《勇者》と《魔王》のように。希少な《マスタリー》が自分の元に授けられたように。予言を残した人物と挿絵の老人が一致しているのではないかと、直感的にそう感じていた――――。


「王城に侵入し予言を残した老人と、この本に描かれた老人。何となく切っても切れない関連性があると思うんだけど……。いや、もしかしたら同一人物かもしれない」

「う、うーん……そう考えるのは早計じゃないかな。だってほら、本も結構古いし、この本の挿絵の人が当時でお爺さんならもうとっくに寿命で死んでてもおかしくないんだよ? それなのに予言を残した人と同一人物なんてあり得ないよ。捜すだけ無駄だって」

「そりゃ普通に考えればそうだけど普通じゃないだろう。だからこうやって古ぼけたレアマスタリーを探ってんだ。この爺さんも絶対に普通じゃない、今もどっかで生きてる可能性があると思う。いや、死んでたら死んでたでいいさ。俺の思い過ごしなら思い過ごしで終わればいい。でも他に手がかりは無いんだ。このお爺さんを捜して見つけることが、俺の《マスタリー》を解明するヒントになるんじゃないか?」

「うーん……仮に挿絵の老人と、予言を残した老人が同一人物だとしてもさ、王様も老人を捜したけど見つからなかったーみたいなこと言ってなかった? だったらさ、今すぐ躍起になって捜さなくてもいいじゃん。だって僕たち冒険者だよ? 旅だってするだろうし、クエストで世界各地を回ることになるんだからさ」

「まぁ確かに、急ぐ必要は無いのかもな……。いやでも、うーん……気になるなぁ……。けど先延ばしにしてもいいっちゃいいんだよなぁ……。ランクを上げたり、パーティーのこれからを考えなくちゃ行けないし……」

「ほっ……」


 セノディアの興奮が収まっていくとアトリアは胸を撫で下ろした。

 王様に予言を残した老人とアトリアは、別件で接点があるという確信があった。何せ王様が口にした『12年前に現れた』というワードが彼女の過去と符合していたからだ。

 それは彼が5歳までの記憶を失うほどの惨劇――――。


(でも……絶対に言えないよね……)


 全て洗いざらい吐けば《エクスプローラーマスタリー》を解明する上で有益になるのは確かだろう。しかしそれは、セノディアという人格を壊してしまう劇薬にもなりかねない。彼が当時の記憶を失った12年前まで遡るということは、当時の記憶はアトリアにとっても忌まわしいものであったが、セノディアに思い出させてしまうとトラウマになるレベルの出来事があった。だから思い出させてはならない。

 それに、件の老人とアトリアは約束を交わしていた。『記憶を忘れたならそうさせておきなさい。思い出させてはいけないよ』、と。


「まーひとまず保留かなぁー。それにしても、なーんで『宝』を探していたんだろう?」


 セノディアは《エクスプローラーマスタリー》に記された一文を指さしてなぞった。


「フェリシーさんから教えてもらった時も疑問だったんだけど、冒険者なら魔族の遺産である『宝』を探すのって当たり前じゃん。それなのに何で意味深にわざわざ記述したのかな」

「次から次に僕に聞かれても分かんないよー……。でも確かに気になるし、いっそのこと老人を捜すよりダンジョンを中心に探索してみよっか?」


 なんとか老人とセノディアを遠ざけたいアトリアはそう提案した。


「そうしてみるのも悪くないな。モンスター退治も兼ねられて実入りいいし、『宝』や老人の足取りが見つかれば万々歳だ」


 口車に乗せられたと気づかないセノディアは冒険者らしい発案に肯定的だった。


「《エクスプローラーマスタリー》には、もしかしたら『宝』を感知できる特殊なスキルがあったりするかもよ?」

「そんな限定的な……。いやでも、うーん、否定はできないよな。あり得るもん。これだけそれっぽい事書かれてたら」

「ちなみにセノはお宝感知できるの?」

「試したことねーっつーの」

「案外できたりして!」

「できたら楽しいだろうなー。魔族の財宝ザックザクで老後も安心!」

「詩人に詩とか書かれるくらい有名になっちゃったりして」

「また王様に呼び出されて褒められちゃったりして」

「夢があるねぇ」

「そうだな」


 二人は小声で談笑しながら本を元の場所に戻し、《メイジマスタリー》関連の書籍と睨めっこしながら重要な箇所をメモに書き写すモミジと、山のように高く積まれた史書に囲まれたリリーに声をかけ、図書館を去ることにした。


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