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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
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二人の王(4)


 《魔王》と口頭で和平を結ぶ――――。

 この宣言が公になれば、庶民や貴族や諸外国に対してどのような影響力を持つのかは、王様が一番理解しているだろう。

 500年という時は、長寿種族以外の人間にとって余りにも長すぎた。その間に受け継がれる文化やがあれば失われる歴史ものもある。勿論、魔族と人類・異人族の戦いによって風化させてはいけない戦禍もある。いや――――あるにはあるが、それにしても500年という時間で世代が替われば替わるほど多恨が薄まるには十分すぎた。

 国民や国土を守る王として《魔王》は目の敵であるべきなのだが、当時の戦争に自分が生きて戦を経験していたのならまだしも、モンスターという脅威以外は平和的に暮らしているせいで、平和ボケしていると捉えられるような宣言だ。現実問題として、今は政治による他国との小競り合いこそあるものの争いらしい争いに発展したことはないからそう思われるのも仕方がない。

 だが500年前は勇者が自ら名乗りを上げて《魔王》を討伐――――いや、封印したが、今は勇者も、その血筋も失われてしまっている。ならば和平を結ぶ以外にどうすればいい?

 和平とは、悩みに悩んだ末に打ち出した苦肉の策だった。


「じゃ、じゃあ、リリーちゃんとはこれからも私達と、一緒にパーティにいてもいいってこと……?」

「うむ。今後とも《魔王》をよろしく頼むぞ」

「よ、良かったぁ……!」


 ホッとしたモミジは緊張の糸が切れ、息を大きく吐いて杖にしなだれた。アトリアは「よしよし」と頭をなで続けている。よろしく頼むの意味に色んな意味が含まれているのだが、これからもリリーと一緒にいられるというだけで、モミジは深い安堵感に包まれていた。

 だが、王はまだリリーを見据えたまま動かない。まだ半信半疑なのだろうか。


「あの……王様……? まだリリーに何か……?」

「うむ、少々……いや余りにも古書に描かれる《魔王》とかけ離れた姿をしていると思っての」

「あーそれって、手足が十本あってめちゃくちゃ体がでかくて口から火を噴く化け物っていうあの……?」

「うむ」


 モリノティス11世は頷く。

 セノディアも、かつては御伽噺の挿絵に出てくる魔王の姿に恐怖していたが、褐色ロリで――――しかも半裸のリリーと邂逅した当初はイメージしていた魔王のギャップに驚いたものだ。というかギャップ云々ではなく、そもそも褐色銀髪ロリが魔王などと名乗ったところで誰が信じられようか。


「ですよね、俺も……あ、えと、僕もリリーを見たときは同じ感想でした。《魔王》ってこんな姿だったっけって……」

「歴史の改変や誇張は勝者の特権だからねー。500年も経てば、文献は都合の良いように書き換えられて、当時の戦火を生き抜いた生者がいたとしても記憶は曖昧になっちゃうだろうし」

「……そんなもんなの?」

「そんなもんだよ? だって私が『封印』じゃなくて『討伐』って事にされてたでしょ?」

「あぁーそっか……」


 そんな調子で"老いた予言者"という謎を残しつつも、《魔王リリー》の身の安全が確保された新米冒険者一行は、これ以上不発弾リリーを刺激したくないという王の意向で謁見は終わった。





「……もうよいぞ」


 『王座の間』から新米冒険者が去った後、王が合図を送ると天井から白い何かが落ちてきた。音もなく絨毯の上に着地したそれは、白いフードにくるまった長身痩躯のエルフだった。顔立ちはフードに隠れて見えないが、頭部のサイドにある二つの突起がエルフ特有の長い耳であることを示していた。

 このエルフこそ、セノディアを《魔王》復活に誘った"中性的な声"の主だ。


「どうであった? 其方から見てあの娘は」

「……どうもこうもありません。本物ですよ彼女は……!」

「じゃからそう言うたであろう……。変に勘ぐるからそうなるのじゃ。あの老人の言いなりになりとうない気持ちは分からんでもないが」

「……肝に銘じておきます」


 深くお辞儀するその体は小刻みに震えていた。普段は朱色の肌色も血の気が失せ、青白い色に変色している。

 最初は好奇心だった。

 12年前――――予言を残した老人が、王家と親しい身内にのみ知られている隠し通路を通ってきた時も、エルフはそこにいた。

 しかしすぐに動くことはなかった。隠し通路を通ってきたということは、王家の血を引く人間であると考えたからだ。だから当初は手を出さず静観に徹していた。

 しかし驚愕の表情を浮かべる王と側近のボードンと、我関せず話を進める老人の距離感は、初対面のソレに近い。むしろ神経質のボードンは、今すぐにでも近衛兵を呼ぼうとすらしていた。

 これが予期せぬ緊急事態であると察したエルフは、悠長に話を続ける老人の背後に察そうと飛び降りると短刀を突きつけた。

 ――――いや、突きつけようとした。


『……ワシに手を出せば、お主もタダでは済まさんぞ』


 老人の背後に着地したエルフが短刀を突きつけるよりも早く、老人は杖をエルフの腹にグリグリと押し当てていた。その杖の先端は赤黒く光って仄かに熱を有している。炎系魔法の代名詞である《ファイアボール》が舌を出していたのだ。呪文も唱えずに魔法を撃てるということから《メイジマスタリー》であることが推測できたが、結局それっきり老人の正体は分からずじまいだった。

 先制攻撃に失敗したままエルフは反撃に転じることが許されず、これ以上老人を刺激しないよう引き下ががり、事の顛末を見届けることしかできなかった。

 その後、老人は件の予言を残して煙のように姿を消した。

 元来た通路を戻らずに、だ。


『《魔王》の復活……。よりによって儂の代でか……』

「王よ、まさかほら吹き老人の言うことを信じると!? 《魔王》は封印ではない、討伐されたと、代々そう伝えられてきたではありませんか!』

『ボードンよ……。儂も端から端まで信じるつもりは毛頭無いが……かの者が我々しかり得ない通路を通ってきたというのが何よりの証。杞憂であればそれで良いが、記憶の片隅に留めておくべきじゃろうて』

『ぬぐぐ……!』

『真相が明らかになるのは12年後……。それまで二人とも、この事は決して口外するでないぞ』


 ボードンはともかく、敬愛する王は年端もいかぬ幼女を魔王であると信じて疑わない。だがエルフはボードン側の考えをもっていた。

 だから《魔王》と揶揄する幼女を試してみたくなったのだ。

 自己の力を過信していないが、かと言って老人に後れを取るほど弱いつもりもなかった。それでもエルフは負けた。そんな戦闘経験あらたかな老人が忌避する《魔王》ともなれば、天井に隠れている自分に気づかないはずがない。それで気づかなければパチモン、気づいたなら本物――――。

 そういう好奇心の延長線上で遊びのつもりだった。出来心だった。


『妾こそが《魔王》である』


 結論から言えば――――彼女は本物だった。

 王に真偽を尋ねられた際、《魔王》はこれ見よがしに魔力を纏ったのだが、あの時、天井に身を潜めていた自分と一瞬だけ眼が合ったのだ。

 その瞬間うぶ毛が総立ちし、まるで『魂』を鷲づかみにされたような寒気に襲われ、たった一瞬だけだったが彼女は生きた心地がしなかった。エルフは数々の修羅場を潜り抜けてきたという自負があるが、あれ以上の恐怖はこれまで味わったことはないし、これから先も無いと断言できる。それほどの恐怖体験だった。


「……とにかく彼女にはできる限り楽しんでもらって、野望とは無縁の生活を送ってもらいましょう」


 そう告げると、モリノティス11世は苦虫を噛み潰した顔になった。


「うむ……。しかし彼女が本物となると、老人の予言は全て現実になると考えるべきか……。少々厄介なことになりそうじゃのぉ」

「こうなると『新たな勇者が現れる』という予言まで実現しそうですね……」

「もしもハトラ洞窟に《魔王》を封印しっぱなしにしとったらどうなってたんじゃろうな」

「予言通りなら――――『勇者が《魔王》を復活させて一緒に世界を滅ぼす』――――でしたよね……」

「……予言、信じてよかったの」

「ですね……」


 冒険者には語っていない老人の予言を思い出し、二人は項垂れ、今日一番の深い溜息を吐いた。


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