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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
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二人の王(3)


「あーあ、お兄ちゃんのせいで白けちゃったー」

「それは良かった。お前マジで大人しくしてろな?」

「えー」

「えーじゃねぇよ……」


 リリーはこれ以上威圧するのも無駄と悟り、具現化していた魔力をフッと消した。口調もいつもの妹キャラに戻す


「……あの、王様、それでその、《魔王》を――――リリーをどうしたいんですか……?」

「ふむ……」


 そんな彼女を窘めながら、いよいよ核心に触れた質問に対してモリノティス11世は真剣な面持ちで玉座に座り直す。


「改めて復活した《魔王》を討伐する――――つもりじゃよ。儂以外に唯一事情を知るボードンは……な」

「では王様は違うと……?」

「それを話す前に一つ、其方に告白しなければならんことがある」

「……俺に?」

「実はの、老人が残したもう一つの予言に従って、其方が冒険者になってから今の今まで監視を付けさせていたのじゃ」

「うぇ!? マジッスか!?」

「セノに……監視を……?」

「じゃあセノディアさんのあんなとこやこんなとこを……あわわわわ……」

「いや、監視っつったって流石に風呂とかトイレとか私生活までは見てないでしょ。……見てませんよね?」


 監視というワードで何を想起したのか、アトリアは驚いたような羨ましそうな声をあげ、モミジは顔を赤くしながらわたわたしている。しかしセノディアは、プライベートまでは見ないだろとバッサリと切り捨てた。


「うむ。流石に四六時中見張っておらんでな。本人の報告によれば、其方達がクエストを受領した後を付け、危険かどうか様子を見つつ、二度三度ほど助言しておったそうじゃ」

「あ――――あーアレ……あ、あーそっか」


 セノディアは思い当たる節があった。スヴェンの嗾けたアストレイベアに襲われ助けられたときも、ハトラ洞窟に来るよう示唆されたのも、『休憩所』で意味ありげに置かれた石碑に触れたときも、自分にだけ聞こえていた中性的な声があった。

 あの声の主が王の下手任らしい。


「そう言えば、声がするとか何とか言ってましたね……」

「あー、言ってた言ってた。その人が」


 一時は四六時中頭を悩ませていた謎が一つ解けたことで、スッキリとした。他の面々も相づちを打つ。


「話を戻すが……儂はその報告で事を構える必要は無いとの結論に至ったのじゃよ。『500年振りに復活した《魔王》は現代を謳歌し、冒険者として充実した日々を送っているから手出し不要。余計な刺激を与えるべからず』と。ボードンは再度封印すべきと最後まで反対しておったが、こちらには人類の切り札たる《勇者》がおらんでな。折衷案として儂が何かしらの対策を考えることを約束して黙らせたわ」

「で、その対策とは……?」

「ふぉふぉふぉ。実はの、まだ決まっておらんのじゃ。かと言ってボードンの言うとおり、再封印を施す封術も無し。今も一国の王と大臣の意見が宙ぶらりんになっておる。《勇者》を秘密裏に探したが、何の収穫が無いのも響いたわ! ふぉっふぉっふぉ!」

「えぇ……」


 一行は「笑っている場合じゃないだろう」と突っ込みたかったが、脳天気だったり日和っているのではない。仮にも一国一城の主であり、国と国民の未来を預かっているという自覚はありながらも《魔王》に有効打を持たない王様からしてみれば逆に笑うしかないのだ。


「あの王様、もう一つだけ聞いてもよろしいでしょうか?」

「うむ、よいぞ」

「俺を監視してた人はどうしてリリーのの封印を解かせるよう俺を唆した……というかその、促したんですか? 普通逆じゃないですか? 封印されてるならそのままにしとけばいいじゃないですか」


 セノディアは一つだけしっくり来ない事があった。

 ハトラ洞窟に《魔王》がいるというのは老人の予言で知ったのだろうが、どうしてわざわざ自分を《魔王》を封印から解放させるように仕向けたのだろう。あそこに封印されているのが《魔王》と分かっているならば放っておけばいいじゃないか。

 自分が王様の立場なら絶対にそうする。触らぬ神に祟り無しだ。

 大体、老人の予言も詳細まで聞けていない。ただ「《魔王》が復活する」という至極フワッとした内容だ。ハトラ洞窟で王の差し向けた監視の言葉に従わないでスルーしていたら、一体全体どうなっていたのだろう。


「うむ……。至極当然の疑問じゃのう……実はじゃな……」

「実は……?」

「――――内緒じゃ」


 王は茶目っ気たっぷりにウィンクをした。この期に及んでおちゃらける態度に一同はイラッとしたものの、誤魔化す物言いは真偽を深追いするなと暗に示しているのだろう。


「んーと、とりあえず話を纏めるとぉ、王様は今後一切私に干渉しないってことでいいのかな?」

「何度も釘を刺すが、其方が大人しくしてればの」

「はーい! 私、お兄ちゃん困らせたくないから大人しくしまーす!」


 彼女からすれば全盛期の力を取り戻しておらず、また魔族などの行方も知れないので、一国家を興しても長続きしないと分かっている。今はセノディアの庇護の元で静かに暮らすようだ。


「うむ、その言葉が聞きたかった……。いやはや……こんなに緊張したのは何時以来か……」


 佳境を乗り越えたことで、王様は緊張感の抜けた雰囲気に安堵の溜息を吐いた。近衛兵も大臣も部屋から追い出したのは、《魔王》の復活を無意味に知らせてパニックの感染を避けたかったからという意味もあったが、何よりも大事なのは、こちらに戦闘する意思がないという誠意を見せたからだった。

 しかし、護衛が誰一人としていない中で魔王と対談するのは相当なプレッシャーだったに違いない。


「では改めて……。其方が新たに魔族の国を建国するであったり、500年前の大災厄のように大それた事をせんというのであれば、こちらから手を出すことはしないと誓おう」


 モリノティス11世は《魔王》に宣言した。その宣言とは、たった一人の《魔王》と交わす和平である――――。

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