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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
62/139

二人の王(2)


 王の語る老人が残した予言は正しく、冒険者の間に緊張が走った。

 加入当時は『自称魔王』という扱いだった。しかし《マスタリーシステム》を使わずに多彩なスキルを使うリリーに、三人は彼女の印象を『自称魔王』から『マジモンの魔王』に格上げせざるをえなかった。それに《マスタリー》が一つしか選択できない代わりに魔力が大幅に上昇したモミジすらも、彼女は魔力を上回っていたからだ。


「そんなッ……だ、ダメ!」


 真っ先に身構えたのは当事者である《魔王リリー》――――ではなく、またパーティリーダーのセノディアでもなく、やたらセノディアにべっとりと甘えるからという理由でライバル心を燃やすアトリアではなく、リリーと一番仲が良く同年代の友達のような関係性を築いているモミジだった――――。

 小心者で知られる彼女はすかさず杖を横にすると、庇うようにしてリリーの前に突きだした。魔法で攻撃するでもなく、かと言って障壁を貼るでもない。幼い顔を混乱一色に歪ませていた。考えるよりも反射的に体が動いてしまい自分自身が何をやっているのか分かっておらず、頭の中が真っ白になっているのだろう。


「落ち着いてモミジちゃん!」

「落ち着けモミジ!」


 アトリアとセノディアは慌てて声をハモらせながら静止した。


「で、でもリリーちゃんが! 何で、王様が……!」


 話の前後が繋がっていないが、どうやらモミジはリリーを守るために杖を構えたらしい。

 なにせ《魔王》は全ての人類・異人族の敵であり、そして国のトップが《魔王》の存在を知りつつ召集したのだから、それを討伐する手管は整っているだろうという考えに至るのは極々自然だった。


「ふぉっふぉっふぉ……」


 王は、慌てふためく冒険者をほくそ笑んで見ていた。

 部屋の四隅に一つずつ、鈍色の球体が棒状のスタンドに嵌められている。この球体には周辺の魔法を制限させる効果があり、暴発しかねない現状でも余裕綽々なのは、この部屋の中では魔法が制限されているからだ。


「どうどうどう、モミジ、どうどうどう……」

「多分王様は僕たちに危害を加えたりしないよ……多分……。ほら、さっき兵士さん追い出したでしょ? 僕たちに『敵対心は無いです』って安心させるためだから、リリーちゃんを倒すために呼び出したんじゃないんだよ」

「そう考えるのは早計だけど、概ねアトリアと同意見。とりあえず杖を降ろせって、な?」

「ううぅ……」


 二人は混乱一色に染まったモミジの肩に手を置き、杖を地面に置くよう促す。

 二人ともモミジと同じく、リリーが魔王であると言い当てられて驚いていたが、モミジが自分達よりも早く動いたので冷静になることができた。怒りたいのに自分以上に怒っている人を見ると白け、逆に宥める方向へシフトするアレだ。


「カカカッ……!」


 そんなモミジを見てついに堪えきれなくなったのか、リリーのキョトンとした顔は次第ににやけ、口元から笑いが零れる。


「最後まで恍ければこの場は誤魔化しきれたやもしれんのに」

「リ、リリーちゃん……」

「その口ぶり……予言は的中であったと取らせてもらうが……?」


 リリーの豹変ぶりに王の眼光が一層鋭くなった。気がつけば顔も険しくなっている。


「如何にも――――」


 だがたじろぐことなく「YES」と言い切った。もう後戻りはできない。

 未だ跪いているパーティメンバーを置き去りにして、銀髪を靡かせながら悠々しく立ち上がると、目にも見えるほどの膨大な魔力を現形させた。紫色の霞がかったオーラが褐色肌を覆い尽くしていく。

 その禍々しさに――――豹変したリリーに、モリノティス11世の背筋が凍り付く。


「ッ!?」

「妾こそが世界を混沌に陥れた《魔王》である――――」


 幼い体躯からは想像もできないほど恐ろしく、体の芯を握り掴まれたような深みのある声――――。穏やかな春先なのに、いつも座っている椅子が氷床に縛り付けられたような倒錯をする。


「カ――――ハッ――――」


 迸る魔力に圧倒された王は前傾姿勢になり、呼吸もままならなく喉を掠める。彼の周囲だけ空気が鉛のように体に重くのし掛かっていた。


(馬鹿な……ここまでとは……!)


 王はリリーを侮っていたつもりは無い。戦力として申し分ない近衛兵を遣わし、また忠義を尽くす兵達を下がらせることで敬意を示し、その上で大臣から託された切り札のベルがあった。

 それになにより魔力だって無効化するフィールドを敷いていた。

 だが気がつけば、四隅に配置された球体はひび割れていた。《魔王》が糸も容易く理を無視して魔力を放出させたからだ。それも、これまでの人生で初めて目にする魔力を具現化させて。それに堂に入った見下す仕草、全てを踏まえた上で彼女こそが魔族を統べる王――――正真正銘の《魔王》だと納得させるには十分だった。


「ZGAHHHHHHHHH――――!!」


 息を吐かせる間もなく、セノディアのバッグから《屍飛竜コープスワイバーン》のクロエが飛び出した。まるでご主人様の復権を喜んでいるかのように、瞳の奥で深淵の炎が揺らいでいる。小さな翼を広げ、全身で威圧感を出そうと力の限り咆哮した。


(早まったか……ッ!)


 最早話し合いの余地無し。身の危険を感じた王様は、ボードンから受け取ったベルを手に助けを呼ぼうとしたが――――。


「ちょちょちょヤバイって! めっクロエ! めっ!」


 なんと平民で、しかも年端もいかない黒髪の青年が――――セノディアがクロエをむんずと掴んで地面に無理矢理降ろした。その仕草はどこか手慣れている様子だった。


「――――HHH……クアアァ……」


 無理矢理制されたクロエはセノディアに反撃することなく、興奮するどころか逆にシュンとなった。驚くべき事に、寂しそうに喉を鳴らしてセノディアの足にスリスリと頭を擦り付けている。それは誰の目から見ても「ごめんなさい」という許しを請うポーズのように映るだろう。

 リリーがリンハンス街へフラッと買い物や観光などに出かけたとき、大抵クロエをお世話するのが彼だった。食べ物を運んでくれて、お風呂に入れてくれて、一緒に遊んで一緒に寝てくれて――――クロエの中ではセノディアが第二のご主人様と認識されていたからこそだ。


「す、すいません王様! おいリリー頭下げろ! 俺達の立場考えろって!」

「ぬがっ! な、何をする! 離さんか!」


 続いてセノディアは、リリーの頭をガッと掴んで無理矢理頭を下げさせようとしていた。王からすれば叛逆の抑止力になっているのでありがたい限りだったが、それはそれで逆にハラハラとしたが。


「ふうぅ――――」


 急に冷え切った空気が霧散し、先ほどまで感じていた春先の暖かい空気がモリノティス11世の息を吹き返させた。


「ごめんなさい王様! 許してください! 謝れ馬鹿! ほらクロエも、バッグん中に大人しく入ってて」

「キュウウウゥン……」


 緊張から解放された王が安堵感に包まれる中で、セノディアは慌てふためいていた。


「本ッ当にすいません!」


 リリーが《魔王》であることを認めたという時点で色々と手遅れだったが、不遜な態度で更なる処罰事項が追加されないようにセノディアは謝罪をする。


「あ、あぁ……」


 よく見れば、後ろにいた二人の冒険者諸君も心配そうにこちらをのぞき込んでいた。二人もさして《魔王》の威圧に怖がっている様子はなく、それよりもパーティリーダーと同じく変な処罰をされないかという視線だ。

 《飛竜》によく似たモンスター――――《屍飛竜コープスワイバーン》もパーティリーダーによく懐いていた。

 青年は本気になった《魔王》を抑えられる度量がある。

 以上の二点から、まだ話し合いの余地があると考えた王は鳴らし損ねたベルを降ろし一言、生唾を飲み込んで「許す」と絞り出した。


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