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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
57/139

凱旋(1)


 ガラガラガラと車輪が回り、あぜ道に轍を残して馬車は進む。


「……」


 手綱を握る兵士の顔はヘルムに隠れて見えないが、暗い影を帯びた佇まいをしている。昨夜と違って雲一つ無い陽気な天気だったが、底抜けに明るい太陽に全てを照らし出されるとそれが返って惨めに見えた。

 『現状』というのは、昨日まで三両編成だった馬車が今日は二両編成になってしまい、10mほどの間隔を空けながら進むことを指す。

 フォレストウルフの襲撃によって、既に馬車馬が一頭食い殺されていたのだ。いくら馬が魔法で強化されていたとは言えども、奇襲と数の暴力には勝てなかったらしい。

 骸と成り果てた馬はフォレストウルフと共に埋葬された。あの後、シュゼットとベッティの二人で戦い続けた西側の森にモンスターの根城になる可能性のある《魔力溜まり》が発見され、死骸を放置すると他のモンスターを更におびき寄せてしまいかねないからだ。

 主を失ったキャリッジは無理矢理ロープで連結させて運ばれているの。しかし魔法で強化されているが馬車馬一頭に二台を引かせるのは酷なため、壊れて使い物にならなくなった物資は残骸と一緒に埋められている。それでもやはりキャリッジ二つを牽引するのは辛いのか、足取りは昨日よりもゆっくりだ。

 しかし馬は食い殺されてしまったものの、兵士達は全員が生きていた。四肢が欠損したり今後生活に影響が出そうな兵士もいたが、高い金を協会に寄付すれば《ヒーラーマスタリー》を持つ神父やらシスターやらが治してくれるだろう。

 不幸中の幸いとはこのことで、フォレストウルフの群れを撃退したあと、兵士達は生きていることに喜びを分かち合った。

 それでも表情が浮かばないのは、同行していた冒険者から向けられる視線に耐える覚悟をしなければならなかったからだ。フォレストウルフに襲われて馬一頭を失ったのは、彼らの助言を無視して道ばた野宿を強行したのは自分達であり、王に召集された護衛対象を危険に晒すなど以ての外。二言三言は罵られるだろう。

 しかし、新米冒険者の対応は予想を裏切るものだった――――。


「むむむ――――えいっ!」

「あぁ……痛みが和らぐよ……。ありがとう、嬢ちゃん」

「しかし凄いな。《サポートマスタリー》なのに《ヒーラーマスタリー》のスキルまで使えるとは……」

「えへへ。実は、《サポートマスタリー》の恩恵を受ける前から回復魔法は使えたんです。と言っても、適正ではないので魔力の消費が凄くって、《睡眠魔法》を使いまくった昨日は使えませんでしたが……今日ならあと1~2回は使えますよ!」

「ハハッ、そりゃ心強いな。……おーい、そっちの《メイジマスタリー》の嬢ちゃんはどうだ?」

「は、はい……! 今、包帯巻き終わりました。その……きつくありませんか?」

「あぁ大丈夫だ……新しい包帯のおかげで気分が落ち着くよ……。すまない、ちょっと横にさせてくれ」

「は、はい」


 後方の馬車の中には、猫を被りながら兵士達の傷を癒すリリーと、自分で包帯を巻くことのできない兵士の包帯を取り替えるモミジがいた。

 彼女達は三つある内の一番後ろ――――重傷を負った兵士達が集められているキャリッジに同乗していた。そのままの馬車では狭くて全員が入れないので、簡単な改装が今朝の内に施されており、ベニヤ板で作られた椅子や机が畳まれ、乗り心地の一切を無視した綺麗サッパリ真っ平ら。さながら大型トラックの荷台のような内装になっている。

 その他の兵士は先頭の馬車とその後ろに連結されたキャリッジに乗っている。


「あ、あの、これ、綺麗な毛布です。傷口が悪化しないように下に敷いてください」

「……ありがとう」

「い、いえ……」


 あの戦闘を終えた今日、兵士達から新米冒険者に対する態度は軟化していた。

 怪我をして、それを手当を得意としている冒険者に治されているのなら尚更だった。しかも相手は二人の幼女。

 兵士達から冒険者に対する敵意がすっかり消え失せたため、二人は今まで向けられていた白い目や悪態を過去のことと水に流し、こちらからもなるべく仲良くなろうとしていた。その努力は、甲斐甲斐しい医療行為に顕著に表れている。

 最も、過去に異人族差別を受けていたドワーフのモミジはその時の経験も相まって、今でも兵士達に心を開いてはいなかったが――――。ちなみに、リリーは最初から兵士達からの扱いなど気にも留めていなかったりもする。


「……昨日は済まなかったな。君たちの助言を無下にしてしまって」


 モミジによって包帯を巻かれた男は、寝転がりそっぽを向いたまま謝罪をした。恥ずかしさとプライドが邪魔をして面と向かって謝れないのだろう。


「あぅ……、そ、その……私はもう気にしてませんから……。セノディアさんも、アトリアさんも、何だかんだ言って許してくれていると思います……多分」

「そうか……」


 モミジは頬を朱に染め照れ隠しに俯いた。好感触の返事が聞けた兵士は、傷の痛みから逃げるために目蓋を閉じた。


「君たちは――――こういう言い方をするのは申し訳ないが……腰が低すぎないか? 我々の共通認識として、冒険者は傍若無人で横柄な振る舞いをしていたのだが……」


 その様子を見ていた別の兵士が、包帯の巻かれた腕を庇いながらモミジに声を掛けた。王都の冒険者とリンハンスの冒険者の違いに驚いているようだ。それをまた別の兵士が小突く。


「いやいや、単純にこの子達が子供だから、大人相手に下手に出てるだけだろ。特にそっちの嬢ちゃんはドワーフ族だから見た目が若く見えるけど、そもそも年齢そのものが若いんだろ?」

「は、はい……。私はこのパーティの中で最年少です……」

「モミジちゃん、一番は私だよぅ!」

「あ、あ、そうだった! ごめんねリリーちゃん!」


 《魔王リリー》が『一番年下でセノディアの妹』という設定をすっかり忘れていたモミジは、慌てて訂正する。その様子を、兵士達は和やかな気持ちで見ていた。胸に燦めく銅の冒険者バッジが無ければ、より一層和めたことだろう。


「仮に、君たち全員が若いから私達相手に下手に出ていたとしても、同い年の王都の冒険者はそうは行かないさ。アイツ等に君たちの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいね」

「どういう事ですか……?」

「おい、あんま喋りすぎんなよ」

「あぁ分かってる。我々の名誉のために詳細は伏せるが――――王都レッドバリとリンハンスの冒険者は明らかに質が違う。そう断言できるってことさ……」

「冒険者を『崩れ者』って呼ぶのも……?」

「あぁ……」


 静かに頷いた兵士は傷をさすりながら俯く。他の兵士も閉口してしまった。追及しづらい空気になってしまったため、モミジとリリーは微妙な空気のまま手当を続けるのだった。



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