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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
54/139

狼と狗(6)

 ボンヤリと暗闇を照らすランプに薄く浮かび上がる影。一人の兵士が二人の兵士に支えられている。


「う゛……アアァ……」


 先ほどまでセノディア達が寝ていた馬車に、慌ただしく兵士が担がれて運ばれていた


「早く怪我人を入れろ!」

「おい、しっかりしろ! もう低級でもなんでもいいから赤ポーションを早く寄越せ!」


 東側はシュゼットとベッティの二人が押さえてくれていたため西側に戦力が集中していたのだが、それでも苦戦を強いられていた。そちらで戦闘続行は不可能と見なされた兵士は誘蛾灯に誘われた羽虫のように、真ん中の馬車に運び込まれていた。


「ゥガウッ!!」

「バウッ!!」

「うぉッ!?」


 だがそれは、暗闇を颯爽と駆ける"彼ら"にとっても好都合だった。

 夜行性のフォレストウルフは夜目が利く。それに加え、道標となった馬車の光り。東側はセノディアとモミジが掃討し終えていたため、この狼達は西側の群れからはぐれて手負いの餌を食べにやってきたのだろう。


「《ゲイルランス》!」


 兵士達は負傷した仲間を守るために懸命に食い下がった。セノディアが起きた時も兵士は果敢に攻め、倒していた実績がある。


「キャンッ!」

「よ、よし掠ったぞ! 掠るようになったんだ! このまま一気に畳みかけて――――」

「バカ! 前見ろ前!」

「えっ……うわ!?」

「グルルァッ!」


 だが、襲いかかるフォレストウルフは三匹いた。なんとか対処しようと槍を振り回す兵士との差は、一向に埋まる気配が無かった。

 東側には一人だけ実力がずば抜けて異彩を放つシュゼットがいたため、フォレストウルフは隙を伺うために睨み合いを続けていた。だが西側は数対数の総力戦が繰り広げられており、敵味方が激しく入り乱れる混戦を極めていたが兵士達は劣勢だった。

 特に『混戦』という戦況がマズイ。兵士サイドは味方を気にして長物の槍や剣を満足に振るえない反面、フォレストウルフは俊敏力を生かして常に先手をとり続けていた。

 そのため、手透きのフォレストウルフが隙間を縫って怪我人が運ばれる真ん中の馬車にやってくるのだ。その数は徐々に増してきていた。


「あッ、危ない――――!」

「たあァッ!!」


 唯一、二ヶ月という短い期間とはいえ、冒険者業を続けてきたアトリアだけが対等に――――いやそれ以上の活躍をしていた。たった一人で真ん中の馬車wお、切った張ったを繰り返し守りきっていたと言っても過言ではない。事実、未だに兵士側に死者が出ていないのは彼女のおかげでもあった。


「た、助かった……」

「三頭とも僕が倒すから、早く怪我人を馬車の中に!」

「あ、あぁ……。頼んだ……」

「ギャンッ!」

「ガウッバウッ!」

「よっと……お返しィ!」

「ギャイン!」


 今もロングソードとショートソードの二刀流で三匹のフォレストウルフ相手に大立ち回りを演じていた。

 夜間での、そしてモンスター相手に戦い慣れていない兵士達を戦力として換算すると、一人で一匹のフォレストウルフを処理するのが限度だった。元々こちらは十数人規模、反面フォレストウルフは倍近くもいる。とてもではないが『兵士一人:フォレストウルフ一匹』の比率だと、溢れたフォレストウルフが他の兵士に群がる計算になる。

 『ジリ貧』『詰み』『負け確』……敗北を連想させる言葉なら幾らでも出てきそうだ。それらたった一人で覆すだけの地力があるのだから、兵士達は冒険者に頼らざるをえなかった。


「ふッ! ハァッ!」

「グルルォッ!」


 闇夜に紛れて姿が見えず、荒い息づかいと唸り声、それに暗闇に浮かぶ眼光は兵士達の恐怖心をいっそう掻き立てていたが、そんな中でアトリアは冷静に立ち回れる技術と精神を持っていた。

 唯一欠点を挙げるとするなら、寝起きのパジャマ姿であり、クエスト時に身に付けているプレートアーマーを着込んでおらず、急所を噛まれれば一発即アウトという過酷な状況下くらいだろう。


「ほーらおいでー怖くないよ……っと!」


 しかしアトリアにとって獣タイプの下級モンスターは戦い慣れており、緊張感や恐怖感を補って余りある安心感を生み出していた。


「グルルゥ……グガゥ!」

「バウッ!」

「ガアッ!」


 彼女には、先天性で抜群の戦闘センスが備わっていた。ギラギラと光る三対の瞳が揺らいだその瞬間――――。


(……来る!)


 アトリアは糸も容易く、最初に飛びかかってきた狼の《切り裂き》を避けてみせた。そしてそのまま――――。


「――――ここでしょォ!」

「ギャイン!」


 小回りの利くショートソードの切り返しで一匹のフォレストウルフを一刀の元に両断した――――。

 飛びかかってきたのは一匹だけではないが、続く二匹目はロングソードで串刺しにし、最後の三匹目は地面を転がる事で全ての攻撃を去なしきった。

 ただ躱すだけではなく、最小限の動きで二匹を返り討ちにする。彼女の才能センスが全て詰まった一瞬だ。赤狐相手にスキルを大振りした上にスカして不利になったのも、懐かしい笑い話しになりつつある。(あの時もセンス抜群の一撃で屠っていたが)

 今でこそ、長き封印から解き放たれて世間常識を身に付け中の魔王様に合わせてGランクから上にあがれていないが、フォレストウルフを三匹相手に無傷で戦えているならば余裕でEランクに昇格できるだろう。


「グラアッ!」


 しかしフォレストウルフは、アトリアという強敵と相対しても、仲間の死を眼前にしても、彼らの闘争心が休まることはなかった。常に殺気を放ち続けている。


「フゥッ……――――」


 二匹の狼を片付けたアトリアは、油断せずに剣を構え直す――――。


「キャンッ!」


 しかし、「ドスッ」という鋭利な物質が肉にめり込む音が二つと共に殺気も雲散霧消していった。フォレストウルフの背中には、深々と矢が刺さっていた。


「矢? 一体誰が……」

「おーやってるねぇ!」

「あ……セノ!」


 暗闇の向こう側、アトリアが背にして戦っていた馬車方向から、自前のランプを腰に下げ、弓を手にしたセノディアが暗闇から現れた。

 マスタリーで強さを補強できないセノディアは、斧だけでなく弓の鍛錬も積んでいた。遠近両用の器用貧乏――――もとい、オールラウンダーにすくすくと成長している。


「凄いな……。たった一人で1区間を守っていたのか……」

「ふんっ、たまたまですよ」


 セノディアに追随する形で、東側を守っていたベッティとシュゼットも鎧をガシャガシャ言わせながら現れた。ちなみに、セノディアは弓で両手が塞がってしまったので、足を捻ったモミジはシュゼットの腕の中で浅い眠りについている。


「こっちは私達がいた方と比べて数は少ないが……なるほど、西側から怪我人が運び込まれ、それを追ってという形か……」

「はい、数が少ないので僕一人でもなんとかなりますね。て言うかセノ、前の馬車に行ったの? 後ろの方よりも数は少なかったと思うけど……大丈夫だった?」

「まぁね、俺とモミジで片付けたよ。……あとこの二人も一応、ね」

「わ、私と隊長がいればアレくらいどうとでもなったわよ! 隊長、私は運び込まれた怪我人を看てきます」

「あ、あぁ……頼んだ」」


 クイッとセノディアに顎で指された二人だったが、ベッティは強気に捨て台詞を吐いて怪我人が運ばれた馬車へと看護に行った。それを見送ってから代わりにシュゼットが頭を下げる。


「……うちの部下がすまない。君が救援に来てくれないとダメだったことくらい、彼女も重々理解している。心の中では感謝しているだろう。……それよりも、一区切りついたばかりで申し訳ないのだが、西の戦況はどうなっているか教えてくれないか?」

「あっ、そうだった! ここで悠長に話してる場合じゃないや! さっきからこっちに運ばれてくる兵士さんが増えてるから多分ヤバイと思います、直ぐ行かないと!」


 『怪我人が多い』と言うことは、前線を支える兵士の数も減少の一途を辿っている証拠になる。気のせいか先ほどよりも最前線から聞こえる声は少なくなっている。それが意味するところは――――。


「ッ……! 部下が心配だ、先に行かせてもらう! この子は君に託したぞ!」

「ンアッ」


 シュゼットは逸る気持ちを抑えることはできず、腕の中でスヤスヤと眠るモミジをセノディアに託すと西の馬車へと走り出した。


「僕らも急ごうセノ!」

「分かってるっつーの。おーい起きろモミジ! これからまた戦うぞ!」

「あ、は、はい……! 起きてますぅ……」

「しっかりしろな……? ところでアトリア、リリーはどこ行ったの? てっきりアトリアと一緒に戦ってるのかと……」

「あぁ……リリーちゃんなら――――」

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