表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
53/139

狼と狗(5)


「……ッ!」


 槍を構えたシュゼットの頬に冷や汗が流れ落ちる。夜風は春先の温暖な空気を運んでくれるが、季節はずれな冷気が油断を許さなかった。


「――――」


 自分の鼓動や呼吸音すら邪魔にしかならない中、生物の気配と共に、近くの茂みがガサガサっと揺れた。


(来るかッ!)


 音の方に槍を向けて戦闘態勢を取る。その奥からは草木を踏みしめて現れる影があった。シルエットは明らかにフォレストウルフより頭身が高く二足歩行でこちらに歩いてくる。アレがフォレストウルフを壊滅させた氷を操るモンスターに違いない。

 『殺られる前に殺る――――』、鉄則は絶対だ。シュゼットとベッティは踏み込み、先手を取ってスキルを発動しようとした。

 しかし現れたのは、予想だにしない人物だった。


「――――メーラさん、こっちは全部片付けましたよ」


 それは、麻縄で数珠繋ぎにしたフォレストウルフの牙を引っ提げ、モミジをオンブしたセノディアだった――――。

 まるで氷雪地域を散歩でもしていたのかズボンの裾や靴に霜が張り付き、鼻の先が少し赤い。おぶられたモミジは毛布がくるまれており、相変わらず眠たげに目を擦っていた。


「に、人間……」


 この現象を引き起こしたのがモンスターではないと分かるや否や、ベッティはホッと一息ついてランスを地面に突き立て、馬車に立て掛けてあったランタンでセノディアとモミジを明るく照らす。そうしてようやく二人が王の召集した冒険者であると分かると――――。


「貴方達……馬車で眠りこけていた冒険者じゃないの……!」


 緊張が一気に解れ、枷が外れたかのようにセノディアに詰め寄った。


「フォレストウルフの遠吠えにも起きず、よくもまぁグースカと寝ていられたものね! 危機意識が足りてないんじゃないの!? 私達が群れを分担して対処していなければ、今頃肉塊に成り果てていたわよ!」

「……ァン?」


 ――――冒険者への確執により、口を突いて出たのは謝辞よりも罵り。

 しかし、大して神経を逆撫でさせるようなキレのある雑言ではない。窮地を脱したことによる気の緩みで、無意識的に口を突いて出てしまったのだろう。

 セノディアは青筋こそ額に浮かべたものの、幸いにも喧嘩にまでは至らなかった。モミジは急に怒鳴り散らされてセノディアの背中に顔を埋めてしまい、そちらの方に気を取られたからだ。


「ハァ……」


 代わりに隣で頭を抱えたシュゼットが溜息を吐いた。


「俺達はよぉ、テメーらが俺達の忠告を無視して頑として動かないからこうなった尻拭いしてるだけなんだけどなぁ?」


 喧嘩にこそならないものの、言われっぱなしは癪に障ったのだろう。セノディアはこちらに非がないことを示しつつ窮地を救ったことをアピールした。


「何よ!? そもそも貴方達が宿に戻って、何事か話し込んでいたから道中で夜になったんじゃない! 本当だったら今頃、私達は王都近くのベースキャンプにたどり着けてたハズなのよ! もっと掘り返せば、ギルドで馬鹿な『崩れ者』共が邪魔をしたせいで――――」

「ベッティ! これ以上私に恥をかかせるな、それにここで言い合っている場合か!」


 聞くに堪えかねたシュゼットがベッティを嗜める。確かにベッティの言うとおり、リンハンスでまごまごしなければ森を抜けた開けた所で一夜を過ごせたハズだった。それでも、彼女は責任の所在がこちらにあると理解している大人だった。

 それにフォレストウルフの群れを殲滅したワケではない。まだ西側では他の兵士達が戦っているはずだ。ならば適当な所で切り上げて早く増援に向かうことが自分達の優先事項だろう。


「ッ……! す、すいません……隊長……」

「すまない、セノディア君。彼女に代わって謝罪する。君たちの忠告を受け入れなかった私達の責任だ。許してくれ……」

「ハァ……まぁお互いに言い分があるって事でここは一つ水に流しましょう……」

「そうしてくれると助かる。では、私達は西側の援軍に向かわせてもらうとしよう。君たちは残ったフォレストウルフの死骸を剥ぐなり、馬車に戻るなり自由にしてくれ」

「あぁ、なら俺も行きますよ。今回はクエストじゃないから『エンバンスの麻袋』も支給されなくて剥ぎ取っても無意味ですし、先にアッチに行った仲間がいるんで」

「それは有り難い。しかし……君たちはどうやってあの大群を倒したんだ……? とても、たった二人で片付けられるとは思わないのだが……」


 改めてセノディアの様相を見てシュゼットは驚いた。彼は返り血を一切浴びていないからだ。普通ならば、先ほどのようにカウンターを狙ったシュゼットのように返り血を浴びているはずなのだが、モミジのフワフワもこもこパジャマにも、モンスターの素材から作られたセノディアの上着にも、どこにも返り血らしきものが見あたらない。


「どうやってって、魔法と弓ですよ」


 質問の意図は『どんな武器で倒したか』、ではなく『どうやって倒したか』だ。セノディアはそれを知った上で、あっけらかんと述べている。ベッティの物言いに対する意趣返しだ。「水に流そう」などと耳障りの良いことを言っていたが、小さな事でも根に持つ所はやはり子供らしさが否めない。


「……」


 しかし生真面目なシュゼットは黙して聞いている。セノディアがキチンと答えるまで待つ姿勢だ。


(……あれ、デジャヴ?)


 『黒骨の集い』で一度やったやり取りに既視感を感じながら、まるで自分が悪い事をしてしまったのではと自責の念に駆られ、口をへの字に曲げる。

 そして背中に抱きついているモミジが握っている杖を軽く叩いた。


「肝心なのは……いいですか、低ランクモンスターの群れを一網打尽にして倒すのに肝心なのは『魔法』なんです。ま・ほ・う! 使える人いないんですか? いたら滅茶苦茶楽ちんなんですけど」

「……すまない。こうなることを想定していなかったから、ソッチ方面に明るい人物は一人も連れてきていないんだ」

「えぇー……」

「何よ、悪い?」

「悪ぃよバーカ」

「何ですって!?」

「いやでも、僕あまり騎士とか兵士とかの事情知らないんですけど普通なら一人くらいはいるんじゃないですか? そういう魔法に聡い人」

「いいや、私の知る限り一人も連れてきていないな。私達兵士は魔法の知識には疎くてな……。代わりに『魔導隊』という魔法に特化した部隊がいるが、そちらに頭を下げて一人くらい連れてくるべきだったか……」


 『魔導隊』というのは王領モリノティスの国軍であり、《メイジマスタリー》を主軸に置いた遊撃部隊である。

 本来、魔法やスキルを使うには適した触媒・詠唱が必要だが、適したマスタリーを保持していればその二つをパスすることができる。そうなれば触媒代が浮くし、荷物が減るから機動力が高くなり、戦闘におけるスピーディさも優位に立てるようになる。

 こうしたメリットに目を着けた昔のモリノティス王は――――当時では驚くべき事だが、魔法に適したマスタリーを保持する優秀な冒険者をかき集めて『魔導隊』なる遊撃部隊を設立したのだ。

 しかし何が驚くべき事と言うと、『冒険者をかき集めたこと』だ。それによって、元居た兵士達との間に亀裂が生まれることは避けられなかった。

 元冒険者とはいえ、戦闘面では魔力・魔法に頼っていたためにインテリタイプが勢揃いしている魔導隊。反面、己の体を鍛え抜く脳筋揃いの騎士。お互い戦闘の趣向が合わない上に、戦ってきた相手がモンスターと人間。歩み寄ろうと努力する者もいるが話が噛み合わずウマが合わない。

 更に言えば、《マスタリー》が生まれる以前から勇者の活躍によって生まれた『冒険者嫌い』の兵士と、《マスタリー》が生まれてから『冒険者を集められて』設立された魔導隊――――。

 昔から続く悪習として残っていた『兵士と冒険者の対立関係』も相まって、犬猿の仲に拍車をかけたことにより、互いにどちらとも干渉したがらない因習が設立時から続いている。

 そのためシュゼットは、身内の反感を買いかねないので魔導隊の人間を連れてくることを躊躇したのだった。


「……まぁ、無い物ねだりしても仕方ないッスね。おーいモミジ、あと二発くらい撃てる?」

「ふぁい……がんばりましゅ……。ふああぁ……」

「よし、撃てそうだな。はい、念のため青ポ飲んどいて」

「ングッ――――」

「『撃つ』って……一体何を……?」

「百聞は一見にしかず。西側にまだ群れがいますから、そっちで見せてあげますよ。冒険者おれたちの狩り方」


 よいしょとモミジを背負い直したセノディアは、今も戦闘を継続しているであろう街道の西側へと走り出した。シュゼットとベッティは疑問を抱きながら、重たい鎧を夜道に鳴らして着いていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ