《閑話2》正しい飛竜狩り
リンハンスが誇る名ギルド『黒骨の集い』には、『5th MAD』と呼ばれるエリートパーティがいる。
結成は100年も昔で、当初は「イカレ野郎」という意味を含んだ『MAD』というパーティ名だったが、20年ごとに引き継ぎを行い、その度に『2nd MAD』、『3rd MAD』と、時代と共に数詞が変化していく特殊なパーティだ。
「イカレ野郎」の看板は伊達ではなく、初代パーティには、名前を聞いたら王領モリノティスのみならず、諸外国の王ですら震え上がるほどの狂犬が勢揃いしていた。
当時は、最終的に腰を降ろしたギルド『黒骨の集い』が無かったので、別の大陸にも名が知られていた王都レッドバリの有名ギルドに所属していたが、様々な国家・組織から、何度も何度も引き抜きの話が持ち上がっていた。
しかし、やがて白銀のダフトが『黒骨の集い』をリンハンスに立ち上げると、このパーティは特殊な仕来りを作ると共に、レッドバリのギルドから脱退し、『黒骨の集い』に加入したかと思えば即座に突然解散してしまった。
王都のギルドによる陰謀論や、男女の関係を巡った自己破滅などが噂になったが、結局真相は闇の中へ。
ちなみに、その特殊な仕来りとは「20年ごとに定期的にリーダーを入れ替える」こと。
そして、次のリーダーへの引き継ぎが済むと、その代のパーティは解散すること。
あとに残るのは、『MAD』というパーティ名と、先代達がため込んだ共有財産のみ。
仲間やコネなどは一から作らなければならないが、それを乗り越えてこそ、エリートパーティと呼ばれるに相応しいパーティに仕上がるというものだ。
それを証明するかのように「現代のMAD」――――『5th MAD』は、希少な鉱石であるアダマンタイトで作られた、Aランクの冒険者バッジを持つ「切れ目のシュージェ」を筆頭に、セノディア達と仲の良いCランクのハゲ――――もといレギナルドや、『《サポートマスタリー》の申し子』の二つ名で呼ばれる新星ロキンなど。
戦力だけを見るならば、『黒骨の集い』において、最高峰のメンバーがこれでもかと揃っている。リンハンスは疎か、王都レッドバリにも、果ては他国ですら、『5th MAD』に匹敵するパーティを探すのは難しいだろう。
当時から畏れられていた『初代 MAD』と並ぶほどにまで、『5th MAD』は完成されきったパーティと言ってもいい。
そんな最強集団だったが、どれだけ最強であろうと「冒険者のパーティ」という宿命からは逃れられなかった。
それは『人材不足』――――。いつの世も、組織の頭を悩ませる問題の一つだ。
『MAD』という名を馳せたブランドパーティなので、加入したいと申請する冒険者は後を絶たないのだが、最低条件として「Dランク以上」であることや、モンスター・マスタリー・スキルの知識に精通していることなど、加入条件が厳しい。
また、加入した後も、身内の不幸で故郷に帰らなければならないとか、待遇の良いギルドへと乗り換えるとか、子供を授かっての寿脱退など、人材の流出は少なからずある。
なので、他のパーティからしてみれば珍しくないが、解散・結成を繰り返し、即戦力を取り込むことに特化していた『MAD』ではやってこなかった、「新人教育」に力を注ぐことにしたのだった――――。
「お前達、準備は良いな?」
「はい」
「何時でもオッケーッス」
「私も……!」
「バッチリです!」
その一環として、『5th MAD』のリーダー「切れ目のシュージェ」は、パーティに入ったばかりのDランク四人組を連れて、ゴツゴツとした黄土色の岩肌が露出し、高山病になりそうな高地に連れてきた。
四人は全員、最低ランクのGランクから、中堅と呼ばれるDランクまで、同じパーティメンバーでのし上がってきた仲間だったが、更なる高みを目指すために『5th MAD』へ加入した経緯がある。
しかし、戦闘経験豊富で中堅と呼ばれる彼らであっても、その面持ちは、一人残らず緊張で引きつっていた。
何故なら、「新人教育」のクエストとしていきなり連れてこられたのが――――。
「それじゃ――――《飛竜》狩りの開始だ」
「ギャオオオオオォッ!!!」
『ッ……!』
上級冒険者の戸竜門と呼ばれる、Bランクモンスターの代表格・《飛竜》だったからだ――――。
四人は、飛竜の咆哮に、体をビリビリと震えさせられた。
主に飛竜は、人里から離れた高山に巣を作っている。
また、塒とする場所の共通点として、洞窟や洞穴のように雨風が凌げる場所にあり、人間が20人入ったら窮屈になるほどキャパシティが狭いところに巣を構える習性がある。
洞窟内部には、セノディア達が戦った休憩所のように、《炎エンチャント耐性》のついた扉なんて取り付けられてないし、ましてや安全地帯も無いので、戦おうとしたら外に引きずり出して戦わなければならない。
もしも巣の中で戦おうものなら、《ブレス》によって燃やされるか、防いだとしても酸素濃度が薄くなって窒息するか――――。
自殺志願者か余程の馬鹿か実力者でなければ、「我一番乗り!」と洞窟に乗り込むのは推奨しない。
故に、今回はお手本として、《シーフマスタリー》の引率役であるシュージェが外へと誘き出したのだ。
「《ブランクハイド》……」
シュージェは、指定したターゲットから数秒間姿の消せるスキル、《ブランクハイド》を使用して飛竜のターゲットを切った。
「グギャゥッ!」
目的を見失った飛竜は、大空を旋回して飛び回ると、地上で構える四人のDランク冒険者目掛けて滑空した。
戦闘開始の合図だ――――
「来たぞ!」
「はい! 《パリィ》!」
それをすかさず、《ソードマスタリー》で、小回りの利くヒーターシールドと長剣を持った、正騎士らしい出で立ちの男が盾で弾いた。
《パリィ》は、盾を振るうことで、ありとあらゆる物理攻撃を無効化できる、最強と呼び声の高い防御スキルだ。
ただし、無効化できるのは物理攻撃のみで、魔法攻撃は普通に食らうし、使うには近接マスタリーで尚かつ盾を装備していなければならず、無効化できる時間は一秒にも満たない瞬間なので、連激などの攻撃には滅法弱いという弱点もある
「ギャオォ!」
「今がチャンス――――」
《パリィ》で弾かれた飛竜は、空中で前傾姿勢につんのめる。
Dランクの男は、隙を捉えたと見るやいなや、すぐさま片手の剣で斬り付けようと動くが――――。
「おい! 調子乗んなッ!」
「――――ッ……ぶねぇ!」
「……よし、よく抑えたな」
寸前で、シュージェの叱咤により、振り上げた剣は降ろされることなく、すぐさま盾を構えて防御の姿勢へと戻った。
反撃を食らわずに済んだ飛竜は、これ幸いと姿勢を制御して再び空へと飛び上がった。
チャンスを逃した男を、シュージェは咎めることなく、逆に褒めた。他の三人も、どこか安心したような表情を浮かべる。
彼らは、事前に『5th MAD』の唱える正攻法に則って戦うようにと、シュージェに釘を刺されたのだ。
それはズバリ、「遠距離からチマチマと」。
飛竜への攻撃は全て遠距離職が行い、他は補助・防御に徹するというルールを、シュージェは口を酸っぱくして彼ら四人に言い聞かせていた。
なぜならば、知能の高いモンスター相手には、役割をしっかりと分担し、徒党を組んで戦わなければならないと、逆に虚を突かれる可能性がグンと高いからだ。
今までの様になあなあで戦い、一人でも己の力を過信して役割を放棄した瞬間が最期、パーティ崩壊の序曲になる――――。
そのシーンを、嫌と言うほどシュージェは見てきたので、それは避けなければならない。、
特に、彼らはDランク――――中堅であって上級者にはほど遠い。
スピードや効率を重視して狩るのは、慣れてきてからでいい。今はただ、どれだけ時間がかかろうと、どれだけ回復アイテムを使って金が飛んでいこうと、知能の高いモンスター相手に堅実に戦えるようになれるのが、今回の「新人教育」の目的だ。
「今みたいに攻撃チャンスがあっても、ルーティンを組み立てられるようになるまで攻撃はするな。一度攻撃したら『次も行ける、次も行ける』って体が覚えちまって、逆にこっち側に隙が生まれる。俺達は飛竜の《ブレス》一発で消し飛ぶ矮小な存在だ。それを忘れるな」
「は、はい!」
「それと、今のは《アーチャーマスタリー》のお前は、確実に攻撃できるチャンスだった。お前はビビるな。今までは、お前がどうだったか知らんが、タゲ持ちはコイツ等に徹底して任せちまえ」
「ハイッ!」
《アーチャースキル》で、背の高い女性は頷いた。
シュージェの言うとおり、今のは間違いなく隙だった。
しかし、攻撃してヘイトがこちらに向かってきたら、一瞬で消し飛んでしまう――――。そのイメージが脳裏を過ぎったがために、攻撃を躊躇してしまったのだ。
それは、前衛の《ランスマスタリー》と《ソードマスタリー》の二人を信じていないのではない。
ただ、今まで彼ら四人組は、ヘイトを遠距離が稼いで引き撃ちしつつ、がら空きになった側面を前衛が倒し続けるという戦法を得意としていたからだ。
「シュージェさん、《パリィ》したら俺も殴っちゃダメなんですか!?」
全身をスッポリ覆える盾を構えた《ランスマスタリー》の男は、飛竜から目を逸らさずにシュージェへ質問した。
《ソードマスタリー》と同じく、《ランスマスタリー》は攻守一体を得意としたマスタリーだ。
「ダメだ」
「何でッ――――」
「良いか、飛竜ってのはお前達が今まで戦ってきたどのモンスターよりも賢い。今みたいに攻撃すると見せかけて、わざと《パリィ》を空振りさせてからもう一度襲いかかってくる。それくらいの事はしてくるぞ。その時にお前が盾を捨てて、槍で突こうとしたら……分かるな?」
「……はい」
《ランスマスタリー》の男はしょんぼりして頷くと、素直に盾を構え直した。
シュージェが咎めた通り、飛竜は一度失敗したら、その失敗を次に生かせるだけの頭脳を併せ持っている。
それに、飛竜はまだ《ブレス》を温存している。
《飛竜》は竜種ではあるが、始祖の《竜》ではない。
《竜》は前足と後ろ足の四足歩行だが、《飛竜》の身体的特徴として、前足が翼と一体化している。そのため、地上では後ろ足による二足歩行でしか歩けず、地上戦を得意としていないのだ。
彼らは自分に利のある空からの攻撃に長けており、常に空を飛んで、延々と《ブレス》を吐いてくる。
爪や牙などによる攻撃は得物が弱っていたり、《ブレス》の息継ぎの合間など、かなり局所的な使われ方しかしない。
前衛からすれば、こちらの攻撃範囲外から延々と攻撃されるのだから堪った物ではないだろう。
「グギャウッ!」
しかし、小手先調べのつもりか、飛竜はブレスを使わず、もう一度急降下した。
「……運が良いな。もう一度来るぞ! どうすれば良いか分かるな!?」
「《パリィ》! からの――――」
「《ハードタウント》ッ!」
《ソードマスタリー》の男が《パリィ》でもう一度攻撃を弾き、《ランスマスタリー》の男が《ハードタウント》を使った。
(良いじゃないか……。伊達に、たったの四人でDランクまでのし上がっただけはある)
前衛に求められる理想的な立ち回りだ――――。
《ハードタウント》は、自らが保有している魔力を対象者に送り込んで、ターゲットの意識を自分に向けさせるスキルだ。
これに類似するスキルは色々とあるが、強力なタウントスキルである。
しかし、タウントしてヘイトを稼いでも、結局は《ブレス》されることに代わりないだろうと思うかも知れないが、一定時間、不規則にターゲットを変えられないというだけで、後衛は安心して攻撃に参加できるのだ。
それに、炎を無力化させられる手段を持っているなら、尚更だ。
「コオオォ――――」
空中で静止した飛竜の口元が赤く染まっていく。
「今度は《ブレス》が来るぞ! お前達、備えろ!」
「――――ギュガァ!」
「僕に任せて!」
目論見通り、飛竜は《ハードタウント》を使用した槍使い目掛けて、囂々と燃えさかるブレスを吐いた。
「《ヒートウォール》!」
「ウオオオォォッ!?」
そこを、《サポートマスタリー》が炎をシャットアウトできる《ヒートウォール》で支援した。
「慣れろ。これから嫌と言うほど火を浴びることになる」
「うわぁ……。《ヒートウォール》かけたけど、凄い熱そう……」
《ブレス》のターゲットを集めているのが、かなり距離のある前衛だけなので、自分達の安全を考慮することなく《ヒートウォール》を張ることが可能となり、結果として魔力の消費を抑えることに繋がる。
「さっきは萎縮したけど……今度こそもらった! 《ペネトレイト・ショット》!」
「ギュアゥッ!」
「だめ押しに……《アッパーリミット》!」
その間に、後衛が遠距離から攻撃し、ダメージを蓄積させる。
《ペネトレイト・ショット》という貫通能力を弓矢に施すスキルによって、火力を一手に担う《アーチャーマスタリー》の女冒険者がDPSを叩き出し、その支援として、《サポートマスタリー》のスキル、《アッパーリミット》で女弓使いの筋力を強化した。
剣や槍などの武器は、あくまでも運良く地上に近寄ってきた飛竜を退けるための保険。
火力は全て、後衛に任せっきりにするセオリーを、彼らは忠実にこなしていった。
「グガアアアアァァッ!」
弓矢が鬱陶しくなり、ヘイトが散らばろうとすれば――――。
「させない! 《ハードタウント》!」
「よっしゃ俺も! 《ハードタウント》ッ!」
《ソードマスタリー》、若しくは《ランスマスタリー》の前衛のタウントスキルによってヘイトを稼ぎ、飛竜の行動を制限させる。
ここまでパターン化できれば、後は流れ作業だ。
《サポートマスタリー》の男が魔力が尽きないように『青ポ』で魔力を補給し、前衛がちょっとしたミスで怪我をすれば『赤ポ』で傷を癒す。
金はかかるし時間もかかるが、ルーティンを崩すことなく戦えば、確実に仕留められる必勝パターンに嵌ったと言えよう。
「――――うん、よし。着実に削れている……。お前達、中々筋が良いな」
「よっしゃー! 褒められたー!」
「いいから集中して! 私はこのまま撃ち続けるから、貴方達はしっかりヘイト稼ぎなさい!」
シュージェに褒められて浮かれる面々。
しかし、ここまではほんの軽い前座だ。
やがて、飛竜の体はボロボロに傷つき、《ブレス》を撃てるだけの魔力が底を尽き欠けたのならば、いよいよ本番が始まる――――。
「ギュオオンッ!」
「そーら、アイツが逃げるだすぞ」
「えっ嘘ッ!? やばいやばい!」
女弓使いは、ヘイトが散らばるのも気にせず、急いで矢を射るがもう遅い。
天に向けて嘶くと、飛竜は空の彼方へと飛んでいき、5~6回彼らの頭上を滑空し、一つ隣の山に向き直った。
「シュージェリーダー! 俺達は、ど、どうすれば良いんですか!?」
「……逃げ去った方へ追うぞ」
「い、今からですか!? あの私、矢の打ちすぎで首と腕が痛いんですけど……」
「僕も、そろそろ魔力が尽きそうです……」
「……本当なら、飛竜が逃げる前に倒すか、探知できるスキルを飛竜に付与して探す手間を省くんだがな。こういう事はしょっちゅうある。今から慣れろ」
『はぁい……』
飛竜に限らず殆どの上級モンスターが、戦闘継続が無理だと判断すると、自分が元いた巣か、若しくは新天地を探して逃げ去ってしまうのだ。
ちなみに飛竜が逃走モードになった場合、元いた巣に逃げる可能性は低い。
と言うのも、飛竜と戦う場合、巣の外に誘き出して戦うことになる。生活していた塒の周囲で戦うので、冒険者達の見えている場所に逃げ込むほど飛竜は馬鹿ではないからだ。
となると、飛竜は必然的に別の土地へと飛び去ってしまい、冒険者達はこれを追跡することになるのだが、これが非常に面倒くさい。
なにせ、相手は空を飛んで逃げる。
なのにこちらは、地を這って追いかけなければならない。
一つ向こう側の山に逃げたならば、こちらも向こうの山へ。二つ向こう側の山に逃げたならば、こちらも二つ向こうの山へ――――。
この、延々と繰り返される鬼ごっこのような持久戦が、上級冒険者への戸竜門と呼ばれる所以だ。体力は勿論、忍耐力などの強靱なメンタルが求められる。
逆に、予め逃げないギリギリの体力を見極められるようになれば、罠にかけたり、翼を近接武器で斬り付けて遠くに逃げられないようにするなど、戦術にも幅が生まれるようになる。
こうなってくると、今まで通りのモンスターと同じく、がむしゃらに戦い、どちらかが死ぬまで殺し合うなんて野蛮人じみた戦法が通用しなくなる。
今は逃げられても我慢。いつでもその場で倒せるとは限らないので、今の内から『戦闘・逃走・追尾』――――この三つのプロセスを経験し、知能の高い高ランクモンスターとの戦い方を学ぶのも「新人教育」の一つだ。
「――――これで……終わりだァッ!」
「ギュオオオオォォンッ――――!」
やがて、追跡・戦闘を繰り返し、戦闘時間にして約3時間。遂に飛竜は地に落ちた。
これが、『5th MAD』のDランクメンバーによる、正攻法でのBランクモンスター『《飛竜》の狩り方』だ。
「よくやったな、お前達。さ、お楽しみの解体タイムだ」
「お楽しみって……そんな元気ないです……。前線でずーっと炎受けすぎて目がチカチカしますし……ちょっと休ませてください」
「シュージェリーダー、俺ももう無理ッス……。槍と盾持ってこんな走り回るとは……」
「私も、弓撃ちすぎて腕が限界……」
「僕も、ゼヒュー……、魔力使いすぎたので、ヒューヒュー……、青ポーション飲ませてください……。『魔力不足』で一回気絶したし――――ゲホッ! ハァハァ……」
息も絶え絶えに、飛竜相手に3時間という壮絶な持久戦を制した彼らは、その場にへたり込んで、赤ポーションや青ポーションなどを飲んだり、水筒の水などで喉を潤したりと、飛竜の解体を後回しにして休憩を取りだした。
「ハァ……」
それを見たシュージェは溜息を吐くと、衝撃的な発言をする。
「……休憩するのは勝手だが、さっさと解体しないと肉が腐るぞ」
「いや……頭では分かってはいるんですけど、体が……もう動けないです……」
「金貨二枚――――」
「は……?」
「少なく見積もって、肉だけで金貨二枚はくだらない」
「金貨にっ……!」
「2万Gも!?」
「それだけじゃない。爪や牙や鱗、武器や防具にマジックアイテムの調合に使える素材だ。全部合わせて……そうだな、大金貨一枚、それをお前達四人で山分けできる。ただし、肉や内臓などの鮮度が命の素材も含めての値段だ……。意味は分かるな?」
『は、ハイッ!』
彼ら四人は、優良ギルド『黒骨の集い』の冒険者。
市民が困っているクエストを、月一のノルマクエストとしてこなすことを制定したギルドに所属している冒険者だ。それはそれは、リンハンスでの『黒骨の集い』に所属する冒険者の評判は良い傾向にある。
しかし、特に、悪人を篩い落とすための筆記試験を、何らかの方法でパスしたスヴェンの一件以来、身内に疑われないよう、体面を保つために、困っている市民が居ればノルマクエストに関係なく手を差し伸べたし、誰もがやりたがらない依頼も率先して行ってきた。
その働きがあってこそ、今回こうして有名パーティ『5th MAD』にスカウトされ、即戦力にまで鍛えられる『新規加入パーティメンバー育成クエスト』の一環である、飛竜退治をこなしていたのだ。
しかし、彼らとて人間。金は別腹だ――――。生来のためにも、多くあって良いに越したことはない。
「心臓は高いぞ、竜種の心臓は万能薬の調合剤になる。傷つけないよう注意しろ。あとは……翼も両翼合わせて金貨一枚だな」
「両翼で金貨一枚もするんだ……慎重に……慎重に……」
「下位ランクにも翼が生えたモンスターなんてゴロゴロいただろ。アレと同じ感覚で切り落とせばいい」
「簡単に言ってくれますね!?」
「シュージェリーダー、この爪はあとで運んでいいですよね?」
「あぁ、保存の利く奴は一カ所に固めておけ。後で運ぶ。保存の利かない物は今まで通りにしろ」
「はい」
シュージェに、初めて解体する飛竜のイロハを聞きながら、疲労で軋む体に鞭を打ち、解体用のミスリルナイフで飛竜の部位を切っていった。
ちなみに彼らは初心者ではないので、『黒骨の集い』から貸し出されるナイフではなく、商店から買い取った自前のミスリルナイフを使っている。
爪や牙や角など、保存の利く部位はその場に切り落とし、一カ所に纏めておく。サイズが大きく、また鋭利なため、リュックなどに入れられず、後から麓に置いてある荷車で運ぶから後回しにするのだ。
代わりに、皮や肉や内臓などの鮮度が必要な部位は、《エンバンスの麻袋》に放り込んでいく。運搬の衝撃や、時間経過による腐敗を防ぐ、特殊な《空間魔法》がかけられた便利な麻袋だ。
(……飛竜か)
体中を血や砂まみれにしながらも、必死に飛竜を解体する四人を見ながら、シュージェはある一つの噂を思い出していた。
Cランクのサブリーダーで、ハゲがトレードマークのレギナルドが、特に可愛がっていた新米パーティ――――。
一度二度、新米冒険者パーティのリーダー・セノディアと言葉を交わしたことがあるシュージェだが、その男は、受け答えがハッキリし、自分の意見を率直に言うが、相手を不快にさせないよう留意しているのが伝わり、世渡りの上手い男という印象を受けた。
また、他のギルドメンバーも、彼のことを高く評価している。狩り場を荒らすようなことはしないし、なんなら狩り場で鉢合わせてしたらあちらから手伝ってくれることもあったそうな。
総括すると、コミュニケーション能力が高く、また好感を持てるような人柄と言えよう。特に特徴的なのは、この国には珍しい黒髪――――あれを見たら忘れられなくなる。
それが、シュージェはどうして飛竜を見て、セノディアを連想させたのか――――。
(スヴェン――――。兵士に連れ去れる時の、あの男の目は正気だった……。だが……いや、まさか――――まさかな、コイツ等でさえ狩るのに三時間かかったんだ。Gランクの新参共に狩れるはずが無いさ)
スヴェンが、ぶち込まれた牢獄の中で、うわごとのように繰り返し兵士に訴えていた『ある言葉』を、シュージェは噂を介してを耳にしていたからだった。
『俺じゃない、《飛竜》を殺したあのガキ共が仲間二人を殺ったんだ――――』
――――と。




