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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第一章
37/139

決意の差


「おうお前ら、何の騒ぎだ……?」


 ライオンと人間を足して割った様相をした獣人族の男に、誰一人として答える者はいなかった。

 明らかに不機嫌そうに、ぼりぼりと鬣を掻いていたからだ。


(アレがギルドマスターか……)


 セノディアも『黒骨の集い』に所属する以上、一度は耳にはしていた。

 ギルドマスター『ダフト』――――白く美しい毛並みから『白銀』の二つ名で呼ばれる猛者だ。

 彼は《ソードマスタリー》のスペシャリストで、この国だけでなく、他国にもその名を轟かせている。

 また、ギルドマスターながらも現役Aランクの冒険者で、その実力は折り紙付き。唯ならぬ逸話を数多く残し、中には《ドラゴン》とのタイマンを無傷で制したとも噂されるほど、強力無比で英雄的な獣人でもある。

 緊急時でもない限りは、ギルドの拡大化に合わせて増えていく書類仕事と闘い、今もギルドの奥でデスクワークに没頭していたのだが、併設された酒場で行われるいつものバカ騒ぎとは違う、剣呑な空気を肌で感じてロビーにまで出てきたのだった。

 しかし最近は冒険者として動くことも少なくなり、書類仕事続きだったこともあって、不機嫌なのはそのためだ。


「ギルドマスター、実は――――」


 フェリシーはギルドマスターに事のあらましを説明した。


「あぁ~……めんどくせぇなぁ……」


 ダフトは手をペシッとおでこに手を当てると、ギャラリーと、事件の発端であり当事者のスヴェン、それに新米冒険者一行を一瞥し、気怠そうに口を開いた。


「スヴェンとやら、お前は『タブー』を犯したのか?」

「いえ! とんでもありません!」

「セノディアとやら、お前はギルドに混乱をもたらしたいだけの愉快犯か?」

「まさか、僕は事実を述べたまでです」


 ダフトはイライラしながらたてがみを掻き、どうしたもんかと愚痴をこぼす。

 このまま押し問答を続けても、互いに相手が悪いと言い合うだけで、出口は見えてこないだろう。正攻法では、根気強く矛盾点を見つけて突くしかない。

 しかしながらここは冒険者ギルド。

 セノディア達に貸し出された、初心者支援用の優秀なマジックアイテムがあるように、ここには様々な用途で使われるマジックアイテムが保管されている。


(確か……アレがあったな……)


 ギルドの今後を左右しかねない重要な問題であるため、蔑ろにできない案件であったが、ダフトは書類仕事が溜まっているため時間を引き延ばされるのは好ましくない。

 そこで彼は、ある決断を下した――――。


「本当ですギルドマスター! 信じてください! 私はギルドのために一年間、身を粉にして尽くしてきました! あんな新人を貴方は庇うのですか!? それは賢明な判断とは言えません――――」

「あーいや、もういいもういい。確かアレがあったはずだ、《雪解けの涙》。これを飲ませっから」

「ッ!!?」

「ダフト! それは過剰過ぎませんか!?」


 この発言にスヴェンは息が詰まり、先ほどとは別の意味でギルドがざわついた。一受付嬢であるはずのフェリシーも、咎めるようにして口を挟む。


「「「何それ……?」」」


 他方の新米冒険者一行は首を傾げるが――――。


「なるほど、なるほどのう……ククッ……!」


 唯一、事情を理解したリリーだけは愉快に笑っていた。


「なぁ……二人とも知ってる?」

「聞いたことありませんね……」

「僕も知らないや」

「えぇとですね、《雪解けの涙》を飲んだ者は真実しか言えなくなる、とっても、とっても、とーっても貴重な薬です」

「「「へぇー」」」


 ちんぷんかんぷんでクエスチョンマークを浮かべていた新米冒険者一行に、フェリシーが小声で教示する。

 《雪解けの涙》とは、簡単に言えば『嘘がつけなくなる薬』である。

 現代で言うところの《自白剤》や《嘘発見器》とは、厳密に言えば効能が違うが、それに近いのでそちらをイメージしてもらえれば分かり易いだろうか。

 しかも、どんな薬を服用していたとしても中和のできない、完成されきった『真誠を自白させる薬』なのだ。


 《雪解けの涙》は名前からも想像できる通り、標高4000m以上の雪山に根城を構えるモンスターの素材から作られる液状の飲み薬だ。

 ちなみに、名前の由来は雪山から取れるというだけでなく、『疑問が氷解する、飲んだ者は嘘を吐けない悲しみのあまり涙を流す』ことから付けられている。

 その希少性から小瓶一つで大金貨五枚――――50万Gもする超々々高級アイテムだ。効果時間は短く、小瓶の半分を使っても五分ほどしか真実を喋らせる効果は持たない。

 あまりお金の価値に触れてこなかったからピンと来ないかもしれないが、この世界では、城下町の一等地に二階建ての一軒家を建てられるほどの価値を持つ大金だ。

 だが、値段を比べても安いと感じるさせるだけの凄まじい効能であることに違いはない。

 城に潜り込んだ間者や反乱を企てると噂される貴族の尋問に、一級犯罪者の裁判など、国や組織を転覆させかねない要注意人物に使われるのが常とされている。

 それをこんな、一ギルドの内輪もめを治めるために使うとは――――。


「ま、待ってください! そんな高価なアイテム、使う必要なんてありませんよ! 俺は何もしてないんですってば! ほら、その小娘を速く《鑑定魔法》してください! ギルドマスターならできるでしょう!」


 スヴェンは後悔していた。まさか、こんな些細なもめ事で、こんな高価な、こんな貴重なアイテムが使われてしまうとは、思ってもみなかったからだ。

 前述したが、先ほどからスヴェンの弁明に使われる《鑑定魔法》は、そっくりそのまま文字通りの意味を持つ。

 本来はアイテムの鑑定に使われるのが正しい用途の魔法だ。

 どんなスキルを持っているのか、魔力はどれだけ保持しているのか、エンチャントは施されているのかなどの品定めに使われるのだが、これを人に使うと、上記の3つが丸わかりになってしまう。

 そしてこのスキルを、ダフトは当然のように使える。

 ――――いや、ダフトだけではない。ギルドのスタッフの殆どがこのスキルを使えるのだ。

 このスキルを使って、憎たらしいほどに妹役を演じ、セノディアにあやされる褐色ロリ魔王のリリーの魔力保有量――――そして詠唱無しに使える魔法が幾つあるのかさえ白日の下に晒してしまえばいい。

 自分の身の潔白は証明できないが、一時的にだが相手も同じになる。何故かは知らないが、セノディア達も、魔王や飛竜について言及する様子もないからだ。

 そうすれば、自分が逃げられるだけの時間は確保できるだろう。もうこんなギルドに用など無い。他の国に逃げてしまえば追っては来られないはずだ。


(コイツさえ……コイツさえいなければ俺は……!)


 しかし元はと言えば――――そう、全てはリリーさえいなければ、スヴェンの計画は完遂できたハズだったのだ。

 リリーさえいなければ、彼女を封印していた、狂気で心を汚染する『箱』さえなければ――――。


「お兄ちゃん……私怖い……」

「おーよしよし」

「この餓鬼ッ……!!!」


 スヴェンに睨み付けられたリリーは、萎縮するポーズを取ってセノディアの腰に顔を埋めた。庇護欲を掻き立てられる仕草にセノディアは対応する。スヴェンはすんでの所で罵倒をグッと呑み込んだ。


「ふーん……。なんかスヴェンさん飲みたがらないらしいんで、俺が飲みますよ、それ」

「なっ――――」

「おっ、随分思い切りがいいな」


 渋り続けるスヴェンに業を煮やしたセノディアは、自分が飲むと提案した。加害者側が飲まないのであれば、被害者側が飲むのだという逆転の発想であった。


「っておいおいおい、お前が飲むのか」

「マジかよ……止めた方が良いよなこれ……」

「でもスヴェンが飲みたがらないし、無理矢理飲まそうとして失敗するのもリスクがあるから悪くないと思う……。なんせ一瓶50万Gはするんだぜ? 理に適ってるよ」


 その一声に、ギャラリーは一層ざわめき出す。

 《雪解けの涙》を飲むには相当なリスクが付きまとう。

 なにせ、ありとあらゆる質問に、自分の意思とは関係なく口が勝手に喋ってしまうのだ。

 事の行く末を見守っているギャラリーは多いが、全員が全員真面目に見物しているわけではない。中には野次馬根性から見物している好き者の冒険者もいるだろう。そんな冒険者から恥部を晒すような質問や、過去を詮索するような質問をされてしまう可能性が十二分にあり、その都度全てにバカ正直に答えてしまう危険性を孕んでいるのだ。

 勿論、そんな危険性は承知の上でセノディアは飲むと宣言したのだが、それには『スヴェンが飲まないから』以外にも理由がある。


「特に問題ないですよね? 俺が飲んでも」


 あっけらかんと言い放つセノディアだが、上記に加えて、彼はとある虚偽を暴露してしまうリスクを背負っていた。

 スヴェンが目を覚ます少し前、彼が事前に周囲の冒険者に言いふらした情報と真実が食い違う『虚偽』が――――。


 『死闘の末に討伐した飛竜のクロエ』

 『自称魔王で腰に抱きついている褐色ロリのリリー』


 この二つの真実を誤魔化し隠して、なんとか話しの整合性をとりながら説明していたのだ。

 今の今までクロエとリリーに触れずにいたのは、たまたまスヴェンと自分達の都合が合致したからであり、あくまで偶然の産物。

 しかし、もしもリリーについて質問されてしまったら――――。嘘は吐けない。もう庇いきれなくなってしまうだろう。

 ここで正直に『魔王が復活しました』などと、開けっぴろげに宣言できるハズがない。

 我々冒険者は勇者の遺産を、《マスタリーシステム》の恩恵を全面的に利用しているからだ。

 もしも本当にリリーが魔王様で、封印から復活したのなら、勇者の意思を汲んで討伐の流れになるのは必然。

 窮地を救ってくれたのが例え魔王であったとしても、差し出すのは心苦しい。

 それはアトリアとモミジも同意見だった。セノディアを救ってくれた彼女は恩人なのだ。

 ならば吐かなければならなかった、『虚偽』を――――。

 それでも彼が《雪解けの涙》飲むと決心したのは、自分に抱きついていたリリーが先ほど怖がったとき、背伸びして彼の耳にこう囁いていたからに他ならない。



「飲め」



 ――――と。



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