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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第一章
35/139

封印する者、される者


《魔王》――――。

 今日日ブッチギリで一番の爆弾発言だったが、セノディアはあくまでも冷静に、半裸褐色ロリの言った言葉を反芻する。


(何と言った? 魔王? こんなちんまい子が?)


 しかし悲しいかな。

 理性は思考を冷静に保つよう呼びかけてくるが、怪我で体中を軋ませているのに加え、立て続けに起こる珍事・惨事に、セノディアは軽いパニックに陥りそうになっていた。

 第一に、御伽噺に出てくる《魔王》とは、全長が5mくらいあってボディビルダー並みに筋肉が凄くて、手足が合わせて10本くらいあり口からは火を吹く化け物だと伝えられているし、《魔王》はこの世界ではなく別の世界、《魔界》にあるとされる魔王城で戦ったのだ。

 少なくとも、王都レッドバリから遠く離れた辺鄙な洞窟ではない。

 それに、魔王は封印ではなく、勇者によって退治されたと言い伝えられていた。

 褐色ロリの言うことを鵜呑みにするには現実味が無さ過ぎて、言葉を処理するのにかなり難航していた。

 褐色ロリの言うことを信じるということは、今まで言い伝えられてきた勇者の一部の伝説は、虚言で塗り固められたサクセスストーリーになる――――。


(……いやまぁ、普通に考えれば御伽噺の魔王の体とか盛られすぎな気もするけど……)


 しかし、魔法のセンスが欠片も無いセノディアにハッキリと見えた膨大な魔力、地形を変えてしまう摩訶不思議な魔法、遠距離から一方的に眠らせる《状態異常魔法》に、体中のありとあらゆる種類の怪我を半分近く治した《治癒魔法》。

 それに何より――――スヴェンから助けてもらった恩を感じていた。

 それがどんな魂胆であったとしても、助けてもらった事実だけは変わらない。その恩を、嘘つきと呼ぶことで返すのは意に反する。


(……妥協点だ。妥協できるポイントを探そう。彼女は自分が魔王だっつってた。けれども俺はそれを認めるのは難儀……だから――――)


 そこでセノディアは、状況証拠と冷静な論理的思考によって、ある結論を下した。


(表面上は魔王……と呼ぶには呼ぶが、恩人として扱うか。うん)


「……?」


 可愛らしく首を傾げる半裸褐色ロリは『魔王と呼ぶが、あくまでもスヴェンから助けて貰った恩人として接する』と無難な中間地点に着地した。


「……まぁ、ひとまずだ、君を魔王だと仮定しておきましょう」

「仮定じゃ困るんじゃが……。お主、信じておらんな?」

「助けられてこんな事言うのもなんですが……ごめんなさい、俄には信じられないんです。君が魔王だとして幾つか疑問点があるし……」

「ま、妾も戦史が塗り替えられる覚悟くらいはしとったからの。いや、この場合は正史か……? まぁどちらでもよいか。いずれにせよ妾は『魔王』。人間その他種族に忌避される存在、魔王じゃ。……元、じゃがの」

「ハァ……。もういい、勘弁してください。頭が痛くなってきた……。次から次に流れ込んでくる情報量に俺の脳みそはパンク寸前ですよ……」

「クカカッ、駄弁もここまでにしておくとするか。よし、お主には封印を解いた礼としてクロエに乗る許可を進ぜよう」

「そう、その《封印》についても聞きたいんですが……後でいっか……。で、どうやって飛竜に乗れって言うんです?」


 魔王の指さす方向、そこには背中が屈めた飛竜がいた。褐色ロリはススッと、向けていた指を尻尾から背中へと動かした。どうやら背中に乗れということらしい。

 確かに首にしがみつけば乗れそうな広さだ。

 しかしあそこはアトリアが斬り付けて、セノディアが毒矢を何度もブッ刺し、モミジのフリーズが超撃していた箇所だ。

 クロエは黙したまま、魔王様の言いつけを守り、地べたにお腹を擦り付けるまで屈んだ体勢をとり続けたが、それでいいのかクロエちゃん。


「あぁ……やっぱあそこか……。頼むから噛み付いたりしないでくれよな~……」


 セノディアは促されるがまま、飛竜のクロエに手を伸ばしたり引っ込めたりと恐る恐る近寄る。引っ提げたスヴェン入り麻袋を目の前に放り投げたりと、餌をちらつかせてみたりもした。

 唸り声を上げたり警戒態勢や威嚇行為をしないことから、彼に対する敵意はとうの昔に消え去ったらしい。一度死んだことにより、記憶もリセットされているのだろうか。


「……そーいや魔王様はどうするんですか? 外に出ないんですか?」


 安全性を逐一確かめながら背中をよじ登っていたところで、セノディアはふと手を止め、腕を組んで突っ立っている魔王様に振り向いた。


「魔王が『封印の間』から外に出てどうするんじゃ。直ぐに討伐されるのがオチじゃろうて」

「でも……俺が事情を説明したら、ギルドの人たちはここに来ますよ。言っておきますけど、俺はコイツを野放しにしたくないですから、ほぼ全部、包み隠さず報告しますからね」


 そう言ってセノディアは、背中に回した麻袋をバン!と叩いた。それを見て魔王様は思案顔になる。


「む……そうか……。お主の記憶を魔法で消して外に放り出すのも手じゃが……それでも良いかの?」

「あぁ……多分、俺の記憶消しても無駄ッスよ。パックリ口を開けたあの穴がある限り、時間が経てばいずれ誰かがここにやってきます。上には俺の仲間がいますから、俺が戻ってこなかったら二人が。」

「つまり、妾が天井を塞ぎ、その仲間とやらを始末すればよい――――ということかの?」

「……えっと……?」


 手に魔力を集め、ニヤリと不適に笑う魔王様だったが、セノディアはしばらく彼女の半裸体を凝視すると、呆れがちに首を振った。


「それをされちゃ敵いませんけど……する気ないでしょう。魔王様」

「まぁの」


 魔王様はあっさりと認め、手に収束していた魔力を雲散霧消させた。

 セノディアがどうして魔王様の本意を見破れたのか、その時の彼は知る由もなかったが、長年共に育ってきたアトリアのように、彼は魔王様の『心』が見えていた――――。


「それに、ここはそれなりにアクセスの多いダンジョンなんですよ。天井を塞いでも、俺が見つけ出したように誰かがここを見つけられるんじゃないですか? だったら、今見つかるのも後で見つかるのも、どっちでも一緒でしょう」

「ふむ……ふむむ……」


 草原の上にポスンと親父座りし、腕を組んでムムムと悩み出した。これからの行き先を決めあぐねているようだ。

 見かねたセノディアは、悩み続ける魔王様に一つの提案――――助け船を出した。


「……もしよかったらですが、魔王様――――俺達と一緒に来ませんか?」

「むむむ……む?」

「魔王様には助けてもらった恩があります。だからその、このままギルドの人たちに売り渡すのも心苦しいんスよね。そこで、俺と一緒に外に出ませんか? 俺は今までギルドで一度も問題行為を起こした覚えはありませんから、割とまともな冒険者という自負があります。そんな俺と一緒にいれば面倒な疑いの視線を向けられる心配は無い……ハズです。隠れ蓑にするなら打って付けだと思うんですけど、どうですかね?」

「ふむ……」


 要点を掻い摘めば『自分は怪しい人間じゃないから安心!』だった。

 それは現状で導き出せるベストな進言だった。


(悪くないかもしれんのう……。この男、平凡な『魂』を持っておる癖に妾に素直で率直じゃ。反して、クロエちゃんを殺しきるほどの腕前に、《呪い》を無効化、《封印》も解呪した能力……)


 褐色ロリはセノディアに自分のペットが殺されたのだが、魔王を前におくびにもしない態度に好評化。1:9でセノディア達が有利な地形だったが――――自慢のペットを殺すほどの腕前をしているなら尚更だ。

 それに、彼女の脳裏にフラッシュバックするのは、小さな『箱』に封印される瞬間、悲しそうな顔で最期を見届けたただ一人の男――――。



『……じゃあな、魔王様』



(恐らく『アレ』と同じ能力じゃな)


 魔王様は飛竜の背中で、まだかまだかとしがみついて待ち続けているセノディアを見やった。

 彼女の脳裏に浮かんだ男と目の前の男は似ても似つかぬ性格をしていたが、それでも彼女は、懐かしい雰囲気をセノディアから感じ取っていた。


「……妾を封印した男と同じ能力を持つ者と共に、か。それも一興かの」


 それに彼女は、セノディアの《エクスプローラーマスタリー》に見当を付けていた。それは遙か昔、彼女を封印した当事者。

 勇者一行の仲間だった男と同じ能力だと――――。


「封印した能力……? それって《エクスプローラーマスタリー》に関する情報?」

「昔の話じゃ……遠い昔の、な」

「あぁ~もう! めっちゃ気になるんですけど! 帰ったら貴方が知ってること全部教えてもらいますからね!」


 どこか遠い目をし、やたらと意味深な台詞を呟く褐色ロリにセノディアは軽く苛ついた。自分語りをするなら聞こえないところでするか、最後までしろと。

 褐色ロリは悶々とするセノディアを尻目に、立ち上がって彼を人差し指でクイッと指してこう告げた。


「それはそうと妾は決めたぞ。お主に、セノディアについて行こう。地上がどう栄えているのかこの目に焼き付けんとな」

「いや指ささないでくださいよ。魔法飛ばしてきそうで怖いんですから」

「カカカッ! お主、変なところで臆病じゃのう。いや愉快愉快!」


 こうして愉快な魔王様は地上に出る決心をした。幸いにも褐色ロリは人間の姿をしている。御伽噺に出てくる魔王とは全くの別人なので、街中で魔法を使わない限りそう簡単に正体がバレはしないだろう。

 そうと決まれば行動は早かった。

 セノディアは、つい数刻前まで殺し合った仲の飛竜の首筋に、改めて振り落とされないよう腕を回して抱きついた。

 改めて触ってみると、鱗はかなり硬く隙間がほとんど無い鉄壁の鎧だ。よくこんなのを倒せたなぁと思いながら、飛竜の首を鱗の上からポンポンと撫でた。


「さっきはすまんかった。上までよろしくな」

「ギュアアウゥ……」


 任せとけ、とでも言いたいのだろうか。飛竜は喉を鳴らして返事をした。殺されたことは過去のことと、完全に踏ん切りを付けているようだ。


「どっこいしょ……」


 他方の魔王様はというと、セノディアの首に手を回し、おんぶの要領でひっしと抱きついている。そこ意外に掴む場所が無いと言えば無いのだが、二回に分けて昇降するのではダメなのだろうか。


「よーし、出発進行じゃ」

「えぇ……」

「キュオオオオォォォッ!!」

「うぉ!?」


 しかし問答無用。魔王様は飛び立つようクロエに指示を出した――――。







「セノ……」


 ぽっかりと開いた奈落の穴を見つめながら、アトリアはスヤスヤと眠るモミジを撫でた。穴には自分の垂らしたロープがあったが、その先に結われたスヴェン達のロープまでは気づいていないようだ。

 あの後、モミジを背負ったアトリアは自分一人の力量でも倒せるモンスターが彷徨くこの階層をくまなく探したが、セノディアを助けられるようなアイディアもアイテムも無かったため、ここに戻ってきてしまった。ハトラ洞窟の出入り口で他の冒険者が来るのを待つのも良かったが、それをするためにはモミジを背負うのは厳しい。そのため、彼女が眼を覚ました万全の状態で出入り口に戻るのがベストと判断したのだ。

 ちなみに一部始終を見ていたスヴェン一行には見逃され、幸運にも彼らと会敵することはなかった。目先の貧乏そうな新米冒険者二人に構うより、落ちていった飛竜を剥いだ方が何百倍も価値があるのだから。


「無事でいてね……セノ……。モミジちゃんが目を覚ましたら、何とか助けを呼んでくるから……」


 アトリアは祈るようにして目を閉じた。そしてその祈りは女神がおわす天界ではなく、ぽっかりと口を開けた地の底へと通じた――――。



「ギュウウウウアアアァッ!!!!」



 奈落の底から、倒したはずの飛竜が、傷一つ無い体を余すことなく曝してアトリアの目の前に飛翔した――――。


「よっ、ただいま」

「セノ!?」

「ハッハー! 久しぶりの飛行は楽しいのう!」

「――――と、誰?」


 その背中に、セノディアと半裸褐色ロリを乗せて――――。



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