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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第一章
33/139

ぅゎょぅι ゙ょっょぃ

 身長や見た目は人間で言うと9歳ほどの幼女。肌が浅黒い褐色で、髪の毛は白い長髪だがお嬢様縛りで束ねられており、褐色肌とのモノトーンが絶妙に美しかった。

 しかも衣装が際どい。服装と呼ぶには余りにもみすぼらしい布きれしか身に纏っておらず、ギリギリの布幅で局部を隠している。

 つまり何が言いたいのかというと――――新米冒険者が飛竜を倒し、男達が命懸けで争って我が物にしようとした『箱』の封印を破って出てきたのは、半裸の褐色ロリだった――――。


「ふわあぁ~……。なんじゃお主ら、妾は眠いんじゃ……暴れるなら余所でやってくれんかの……?」


 緊張感ゼロの、ノビをして欠伸をする褐色ロリに両名とも絶句。


「は――――え……?」

「これが『箱』の中身……マジかよすげぇ……!」


 しかし二人とも対照的で、スヴェンは驚嘆と失望の混じった表情を、セノディアは『箱』の謎が更に深まったことによって好奇心に溢れた表情をしていた。

 『箱』を手にしたスヴェンを、目にした仲間達を、狂気に駆り立てた元凶は、露出狂の気でもありそうなぺたんこロリ娘だったのだ。


「ふ……ふふ……ふはは……」


 受け入れがたい現実ではあったが、この異常事態において先に動いたのはスヴェンだった。

 《シーフ》マスタリーのパッシブに《状態異常軽減》というパッシブがある。

 状態異常にかかった際、魔力を消費して状態異常の治癒速度を速めてくれるという便利なパッシブだ。口上やお喋りによって時間経過と共に薄らいでいった麻痺は、既に体から8割ほど消え去っていった。

 ただし、所有者の魔力を上回る状態異常魔法は軽減できないので要注意だ。『箱』の狂気がそれにあたるだろう。


「ハハ……! ハハハハハハッ!」


 唐突に笑い出したスヴェンに、セノディアはビクリと体を震わせた。褐色ロリは相変わらず眠たげに目蓋を伏せている。


「『箱』が何だ、冒険者が何だ……。何で俺はテメェみてぇなガキに恐れてたんだろうなァ!? 意味わかんねぇや! わかんねぇよなァ!? アーッハハハハッ!!! ――――ハァ、最初から殺しちまえばよかったんだ」


 愉快、狂気、恐怖――――感情がアップダウンと行き来したスヴェンは、もう頭のネジがどっか飛んだのだろう。

 顔は笑っているが目は虚ろ、今度は『箱』により作られた狂気ではない――――。

 この短時間で散々精神を弄くられたスヴェンは、もはや正気を保てなくなっていた。


「目撃者は全員殺す……。俺の人生の為に……なッ!」


 自然と敵認定されて勘定に数えられていた褐色ロリに向かい、スヴェンは麻痺で落としてしまった剣を拾い上げてかけ出した。

 セノディアと戦い、そして『同業者』を二人殺したにも関わらず、僅かながらに残していた魔力をひりだし《ショートブリンク》を行使して接近する。適正マスタリーのスキルだけを使い魔力消費を抑えていたとはいえ、まだ魔力を残していたのだ。

 当初の予定も目的も消え去った彼は、眼前の手負い・無防備な子供二人を先ほどのようにいたぶるつもりは更々ない、今度こそ最初から殺す気だ。その行動に、迷いはナノ単位も感じられなかった――――。


「マズイ逃げろ! ――――ゲホッゲホ!」

「逃げる……? もしかしてソレ、妾に言うとるのか?」

「たりめーだろ……ゲホッ! いっつぅ……」

「ほぉー、その手疵で庇い立てすると? 殊勝な心がけじゃの」


 セノディアは幼女に叫んだ。今、スヴェンの凶行を咎める手段が無い。しかし幼女は余裕綽々、焦るセノディアに聞き返した。相も変わらず危機感は無さそうだ。


「クソッ!」


 残された最後の手段は、彼自身が盾になること。

 セノディアは満身創痍の体にむち打ち、褐色ロリを庇うようにして前に躍り出た。

 『箱』から出てきた褐色ロリが何者なのかはさておき、スヴェンとの話しを長引かせてしまい始末するタイミングを失わせた自分の不始末だ。自分が原因となって死なせてしまうのは彼の本意ではない。

 ブラフに使っていた瓶の中身は赤ポーションで、効能としては怪我の治療効果。先ほどのように武器として投げつけても中身が飛び散ったら逆効果になってしまう。

 抑圧にも使えなくなったならば「瓶の中身がポーションならそれを飲んでから戦えば」と考える者も多いだろうが、それはできない相談だ。

 下級ポーションでは即時の回復効果は見込めない。

 また、赤ポは青ポと同様、経口摂取によって体表の傷口が癒される仕組みであるが、残念ながら青ポとは違い即効性はない。

 飲んでから傷が癒されるまで10~20分の個人差がある。上級ポーションであれば即効性も望めるが、無い物ねだりになってしまうだろう。


「退け。温いわ戯けが」

「えっ……うわっ!?」


 しかし褐色幼女は、目の前に立ち塞がったセノディアを、白髪を靡かせながら邪魔そうに片手で横にズラす。

 既にボロボロとはいえ、身長の倍近くもあるセノディアを片手で動かした膂力もさることながら、ナイフ片手に凄まじいスピードで迫り来るスヴェンを前にしても、眠そうな表情を崩さない敢然たる佇まいであった。


「ほいっと」


 褐色ロリはスヴェンを興味無さ気に一瞥すると、彼のブリンク先を指先で指定し、手首のスナップを利かせて天上にひっくり返した。


「うおおおおぉぉぉ――――オォッ!!?」


 あわや褐色ロリの首がはねられる寸前、そのギリギリの距離まで迫っていたスヴェンの、狂気に満ちた笑みが崩れていく。

 なんと、ズゴゴゴ……とスヴェンの足元の地面がせり出し、あれよあれよという間に巨大な土柱が生成されたのだ。

 そのテッペンでは、落ちないようにギリギリで《ショートブリンク》をキャンセルし、土柱からの落下だけは避けたスヴェンが呆然と突っ立っていた。その目は驚愕に見開かれている。

 一瞬で変化した景観もそうだが、地形を変化させる強力な魔法をスヴェンは聞いたことなどあるハズがなく、テッペンから落ちないようバランスを取るだけで精一杯だ。


(な、何だ……見たこと無いぞあんなの……)


 また、褐色ロリの一挙手一投足を見ていたセノディアは気づいてしまった――――。

 あの魔法を使った瞬間、幼女の体中から指先に向かって膨大な黒くて禍々しい『魔力らしきオーラ』が集まるのを。

 常人より魔力が多く、また魔法に長けたモミジを含めて魔力が可視化されるなどという現象は起こらなかった。モミジよりも膨大な魔力を使ったのか、或いは彼女の魔力自体が特殊なのだろう。


「ぽいっ、とな」


 しかし、嗚呼無慈悲――――。

 褐色ロリが両手を「パン!」と叩くと、地面からせり出した土柱は消え去った。


「へ――――?」


 つまり、土柱のテッペンで落ちないようバランスを取っていたスヴェンは努力も虚しく、空中に放り出される形となった――――。


「うわああああああァァァァ!!」


 空中遊泳をするスヴェンは、何とか頭からの落下は避けようと、手足をばたつかせながらバランスを取りつつ落下していく。

 土柱のテッペンと地面との高低差は10mほど。足や手から落ちれば複雑骨折は免れない。最悪のケースで四肢欠損もあり得る。


(命さえ助かれば……!)


 両方ともヒーラーに金さえ払えば(少々値は張るが)元通りになるので、今はとにかく命優先だ。

 その一心で彼は手足から先に地に落ちた。ドスンという音と、何かが砕ける音を反響させて――――。


「ワーォ……」

「あァ……グッ、グゾオォ……いってぇ……! テメェら……今まで殺してきた奴らよりも……ぜっだいに酷い目にあわぜでやる……」


 幸いにも、落ちた先は柔らかい草原がだったおかげで、意識を手放すことなく、腕と足が変な方向に曲がるだけで済んだ。

 それでも痛みは凄まじいらしく、地面で寝返りを打っては痛みを分散させようと必至だ。しかし口先だけはイッチョ前で、この期に及んでまだ強気な姿勢は崩さないでいた。


「ええい耳障りじゃ……しばらく黙っとれ」


 褐色ロリは、再び指先をスヴェンに向ける。

 またしても魔力が指先に集まっていくと、野球ボールほどの大きさの白い球体が飛んでいき、スヴェンの体に吸い込まれるようにして消えていった。


「ガア゛ア゛……グッ……うぅ――――」


 するとどうだろうか、先ほどまで苦しんでいたスヴェンは一瞬で静かになり、そのまま目を閉じて地面に横たわった。

 これは決して殺したわけではなく、《サポートマスタリー》が得意としている《状態異常魔法》の一つ、《睡眠魔法》だ。

 ただし、一瞬で夢の世界に旅立たせる《睡眠魔法》は高ランクの冒険者しか使えない上級魔法としか認知されておらず、また一般的に常用される《睡眠魔法》が効くには5分前後のタイムラグがある。


「ふぅ……。寝起き早々、騒がしくて敵わんの」

「スゲー……」

「ふふん、凄くて当然じゃ」


 誇らしげに貧乳ナイチチを張る褐色ロリに、体中の痛みに耐えるセノディアは苦笑いしかできなかった。



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