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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第一章
26/139

vs飛竜(3)


 セノディアはフゥッと短く息を吐き、パンッと両手で頬を叩いて活を入れた。


「……これからはハメ無しで行こう。俺とアトリアは近接で仕掛けて、モミジは中距離から戦ってくれ」

「よし来た!」

「はい!」


 二人に簡潔に作戦内容を説明する。

 モタモタしていれば、折角ここまで削ったダメージが回復するからだ。

 ただの自然治癒と侮る無かれ。他の竜種に比べて弱いとは言えども、腐っても《竜種》、相手はBランクのモンスターだ。


「俺とアトリアは先に入って、奥地に飛竜を誘導しよう」

「奥って、あの飛竜が出てきたとこ?」

「そう。あそこに四つの石柱があったろ。あそこで攪乱しながら戦う。で、飛竜を扉から遠ざけたらモミジが出撃、挟み撃ちの陣形を取ろうと思う」


 飛竜の左足が、アイスボールの執拗な連打で一部欠損が生じていること。

 右肩と思わしき部位が毒と矢でダメージを食らい、右翼が普段通りの可動域まで動かせないこと。

 この二点を念頭に置いた作戦である。安置からハメて削ったダメージを主軸に戦い、ブレスにだけ気をつけていれば近接戦闘でも勝てると、セノディアは読んだ。

 また、飛竜にとっては狭い地形も、新米パーティ一行には有利に働く。

 羽ばたくことはできるが飛ぶことはできない絶妙な天上の高さ、姿を隠すのに打って付けの石柱や机などのオブジェクト。

 危険を感じれば、これらに身を隠し、隙を見つけては攻撃を与えていく。

 相も変わらず泥臭いヒットアンドウェイは『ハメ戦法』と代わり映えしていないが、三人からしてみれば命懸けだ。チキンだ臆病だと罵られようと、セノディアがパーティリーダーである以上この方針は変えないだろう。


「部屋に入ったら右側を俺が、左側をアトリアが走り抜けて注意を分散させて突っ込もう。そこからは各々の判断で攻撃する。異論は?」

「無いよ」

「ありません」

「よしっ!」


 二人とも声に怯えは感じられず、凛と応えた。

 活を入れたセノディアに感化されたのか、覚悟はできているようだ。


「じゃあ次の《ブレス》が止んだら突入しよう。二人とも、準備しとけよ」


 言うだけ言って返事を聞かず、セノディアは扉を開けて《ブレス》を誘発させる構えに入った。

 その背後で、モミジはバッグから最後の青ポーションを取り出して飲み、アトリアも水分補給をして剣を抜いた。


「グガアアアァァ!」


 飛竜は誘導された通り《ブレス》を吐いた。

 即座にセノディアは両開きの扉を閉めた。

 1秒、2秒、扉の奥からゴオオオォォと炎が唸り声を上げる。10秒、11秒、炎の勢いが弱まっていくのを感じながら、セノディアは腰の斧を抜き、扉に手をかける。29秒、30秒、轟音はなりを潜めた――――炎が消えた。


 今がその時だ。


「――――Go!Go!Go!Go!!!!」

「行っくぞーッ!!」


 セノディアは扉を開け放ち、アトリアと共に荒れ果てた休憩所の中へと突入した。

 扉から3mほど先、クールタイム中だが、もう一度ブレスを吐くために頭部を天上に向けた飛竜が、ほぼ目と鼻の先にいた。


「ッ!」

「走れ抜けろアトリア!」

「うん!」


 二人は怯む事なく、また飛竜の炎に散らされ散乱した調度品や家具に足を取られないように注意しながら、セノディアは右へ、アトリアは左に、それぞれ引きつける役割を分担して飛竜の脇を通っていく。


「グルルウゥ……」


 飛竜はブレスを吐くつもりで上げていた顔を下げ、どちらを追うのか逡巡した後、アトリアを追うことに決めたらしい。


「グガアァッ!」


 手狭そうに翼を揺らし、またモミジの凍傷で削られた左足を庇うようにして、ノッシノッシと走り出した。


「ちょ、ちょっと!! 何でこっち来るのさー!!」


 アトリアは当初の予定通り、飛竜の真横を駆け抜けた後、一番左端の石柱に身を隠す。

 飛竜を引きつけて扉から引き離すという作戦の第一段階は成功だ。


「グガゥ!」

「ひっ!」


 飛竜が石柱の右側に顔を覗かせれば、アトリアは反対側に逃げ、左側から身を乗り出せばまた反対に逃げる。

 飛竜は遊んでいるのか、それとも本気で戸惑っているのか、石柱を軸にされてしまい、足を止めるしかなかった。


「待ってろアトリア、俺もそっちに合流すっから! モミジィ、入っていいぞォ!!」

「ハイッ!」


 セノディアの合図に誘われ、いつものオドオドした態度はどこへやら、杖を手に、モミジは開け放たれた扉から中へと勇ましい足取りで中に入った。


「アトリアさん、行きますよ!」


 そして杖を構えると、事前に色々プランを練っていたのか、足を止めた飛竜に向けて即断即決速攻で魔法を放った。


「《フリーズ》!」


 唱えられた《フリーズ》が杖から真っ直ぐに飛竜に放たれ、軌道上にある物全てを凍り付かせながら、背中を向けた飛竜に飛んでいく。構図としては、『グルージスの酒場』で大男を相手にした時と同じだが、あの時は威力を意図的にセーブしていた。

 しかし、このデカブツ相手にそんな遠慮はいらない。


「ギュオオオオオオォォッ!!」


 《フリーズ》は威力が高く凍結効果が強力な反面、弾速が遅いという欠点がある。しかし、その欠点が作用するのは、相手が避ける気満々な時だけだ。

 全力全開のフリーズは飛竜に両翼の中心部分に見事クリーンヒットし、そこがパキパキと音を立てて凍り、飛竜は苦しそうに唸り声を上げる。

 しかし凍ったと言えば聞こえは良いが、実際には霜が張り付いただけである。

 それほどまでに、飛竜の呪文対抗能力は高いのだ。

 《アイスボール》で左足を凍傷にまで追い込めたのは、魔力が尽き欠けるほど、およそ30発近く連射していたからであることからも、魔法耐性の高さが知れる。


「グルルラアアァ!!」


 背後から攻撃されたことで、飛竜はギョロリとその目をモミジに向けた。獲物変更だ。その巨体を翻し、今度はモミジに向かって走り出そうと構えた。


「逃げない……私は、逃げない……ッ!」


 睨まれたモミジは恐怖に震えながらも、しかし杖を手に逆に飛竜を睨み付けた。

 それは先陣を切ったアトリアとセノディアに勢いづけられたからでもあり、自分だけ臆して役目を果たせず、恩を仇で返したくないという健気な精神が生んだ小さな勇気だった。


「《ハイジャンプ》!」


 しかし、モミジに注意を削いでしまえば、それは必然的に隙が生まれることになる――――。


「《二双紋》!!」


 今度はアトリアががら空きになった背後に――――それも霜が張り付き紫色に変色し、物理的に弱体化された両翼の中心に大きくジャンプして剣を振り下ろした。

 この並はずれた跳躍は、《ソード》や《ランク》や《アックス》など、全ての近接職が得意なスキルとしている《ハイジャンプ》による力だ。


「ギュアアアァァッ!!」


 重力にアトリアの体重も加わった《二双紋》は、飛竜の霜の降りた背中を、ほんの僅かではあるが切り裂いた。


「かったああぁい!」


 ――――そう、切り裂けたのはほんの僅かだった。

 いくら肉質が凍結されて変化したとはいえ、その表面には鉄よりも硬い強固な鱗があるのだ。

 また、使っている武器も駆け出し冒険者が使う物。要するに、右手左手の二本を重ねて切ったとはいえ、剣自体の切れ味は悪く、ただ力任せに剣を振り下ろしただけにすぎない。

 飛竜は痛みに身を捩るが、すぐに切り替えて攻撃に転じた。


「ギュアウゥッ!!」

「こんのッ……!!」


 獲物を食いちぎらんとばかりに、ガチンガチンと牙を鳴らしながら前屈みに首を伸ばす。

 鳥がミミズを啄むようにして、それはアトリアに襲いかかった。

 アトリアも負けじと剣で応戦するが、これだけの体格差のある飛竜を長々と相手にするのは難しい。


(不味い……このままじゃ押し負ける……!)


 初撃は二本の剣を重ねることで上手く凌げても、二度目、三度目と剣で去なす度に、アトリアは剣が牙に強度負けして刃こぼれするのを実感していた。

 やはりと言うか、低ランクの装備で高ランクのモンスターを相手にするのは無謀だった。

 しかし、無謀であっても無駄ではなかった。


「……ここかな」


 アトリアが《二双紋》で切り裂いたほんの僅かな、その僅かな背中に傷に向かって、駆け付けたセノディアは矢を放った。空を切って飛んでいった。

 残り数本だった矢は、トスッ、トスッ、と小気味良い音を立てながら、斬り付けられた傷口に刺さった。


「っし、我ながらナイスコントロール」

「ギュルウウウウゥゥ……」


 ダメージとしては、肩胛骨近くにまち針が数本刺さった程度だったが、鳩が豆鉄砲を食らったかのように、飛竜は思わずセノディアの方に視線を向けた。


「もっかい……《二双紋》!」

「ギュアウッ!!」


 そうすればまた、アトリアが剣を重ねて振るう。

 どこかに気を逸らせば別の角度から攻撃が飛んで来る。飛竜は、右・左・正面の三カ所から包囲された形になった。

 本来ならば、空中軌道によって『点』ではなく、『面』での攻撃を得意としているのだが、飛竜の思い描くような戦闘スタンスが取れないままだ。やはり地形による効果は大きいようだ。


「グガアアアアアア……ギュアアアァァ!!!!」


 本領が発揮できず、また微々たるダメージだろうが、右肩・左足・背中の、三カ所に傷を負った飛竜はついに痺れを切らした。

 顔を天上に向け、《ブレス》を撃つ構えに入ったのだ。

 いくら休憩所広しと言えども、モミジは身を隠せるのは机だけ。アトリアとセノディアは石柱だけ。

 どちらも《ブレス》には耐えられるだろうが、うねる形状をした包囲攻撃をやり過ごすには心許ないオブジェクトだ。多少は《ブレス》が掠める覚悟をしなければならないだろう。

 そしてその標的に選ばれたのは――――。


「また僕なのォ!?」


 部屋に入った時に付け狙ったアトリアであった。

 アトリアは急いで《ブレス》をやり過ごすために近くの石柱に身を隠すが――――しかしそれは悪手だった。


「ッジかアイツそんなのもしてくんの!? 逃げるぞアトリア!!」

「えッ!?」


 アトリアの援護のために近くに寄っていたセノディアは、アトリアとは距離を置いて別の石柱に隠れようとしたが、彼はギリギリまで飛竜の動向を観察していた。

 そして彼は慌ててアトリアの手を引っ張り、アトリアが身を隠していた石柱から離れていく。

 その瞬間――――。


「ギュアアァァッ!!」


 ドスンと地面が揺れ、瓦礫の音と土煙が室内を包む。アトリアが身を隠していた石柱がバラバラと崩壊した。


「えッ!?」


 アトリアは反射的に音の出所に振り向いた。

 煙は晴れないが、それでもシルエットによって分かる。飛竜は頭から生えた、二本の湾曲した角を石柱のあった場所に突き立てていた。

 頭突きだけで、あの堅強な石柱を破壊したのだ。


「あれだけボロボロにしたのに……!?」

「フェイントできる知能があんのか、凄いなBランクモンスターッ!!」


 その事実に、セノディアは自然と口角が上がっていた。畑を耕していたら、一生できない『冒険』をしているのだから――――。

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