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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第一章
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vs飛竜(2)


「そりゃ……俺達は、もう、打つ手無しって感じだろ。俺とアトリアは遠距離手段が尽きる。モミジは魔力が足りない。無理じゃん」


 意思決定の弱いモミジの提案に、セノディアは面食らったようで言葉に詰まるが、その実、自分一人だけならば『ガンガン行こうぜ!』のスタンスで行こうと、一個人としての方針を打ち立てていた。

 それは、今まで放った矢や、大男からくすねた毒などのサンクコストを嫌うからではない。

 いや、多少なりとも勿体ないなとは思うだろうが、『倒せるかどうか』の瀬戸際を惜しむよりも、『倒してみたい、挑んでみたい』という気持ちが強かったからだ。

 なによりもこちらには地の利があった。

 飛竜にとっては狭い休憩所レストプレイス内を飛べないし、セノディアには、いざとなれば通路に逃げて安置に籠もればいい。

 そして部屋に散らばる耐火のエンチャント付き調度品。《ブレス》をしている飛竜は無防備になるし、口内という弱点を一時的にさらけ出す。

 針に糸を通すようにあの口に有りっ丈の調度品をぶち込んで《ブレス》を撃たせなければ或いは――――。

 極細の勝ち筋だが、僅かでも勝ちの目があれば、誰にも迷惑をかけないソロで『冒険』をしてみたかった。

 ただ彼が脳裏に描いていた勝利パターンだが、あくまでも一人だからこそできる無茶苦茶な賭けだ。

 複数人で行うならばヘイトが散らばり、その分だけ危険が伴う。

 アストレイベアを三人パーティで一緒に戦うのを嫌うように、今回もまた『味方の死』という不安要素が付きまとってしまう。

 だから彼は、勝てそうにない現実があると言い訳を並べて、撤退の意思を表明しているのである。


「違っていたらごめんなさい……。その、まだ全然、諦めて無いですよね……?」


 しかし驚くことに、モミジは的確に見抜いていた。

 そこまで顔に出していたつもりも素振りも見せなかったのだが、どこかでボロが出ていたのか、サッパリ分からないセノディアは戸惑う。


「……どうしてそう、思うの? 俺が諦めてないってさ」

「セノ――――」

「アトリアは黙っててな、今質問してんのモミジだから。で、何で?」

「あ、あの、えと……何となくとしか……。『諦めたくないな』って気持ちが伝わってきて……。ご、ごめんなさいぃ……」

「別に謝んなくても……。にしても、何となく? それは、その、俺が奥の手を用意してるとか、逆転できる策を持っているとか、そうじゃなくて? ただ俺の気持ちを察しただけ? それとも何か隠してることはない? ただの勘?」

「うぅ……そうです……勘ですぅ……」


 モミジは何も悪いことはしていないはずなのだが、セノディアの畳みかけるような質問に、ゴスロリの裾をギュッと掴んで俯いてしまい言葉も尻すぼみになってしまう。

 小動物のように縮こまった可愛らしいモミジを責め立てるセノディアに、見かねたアトリアがそっと助け船を出した。


「セノ、僕も真正面から飛竜と戦うのはちょっぴり反対だったんだけど……、でもね、セノ、僕もモミジちゃんと同じだよ」

「同じ……? それはつまり、お前も俺が諦めてないって、感じてたってか? 根拠も無しに?」

「本当はね、本当は危険だから止めるべきだと思ったんだよ。でも……、セノはここまでやって撤退するのさ、悔しいでしょ」

「……まぁな。悔しくないっつったら嘘になる」

「それにその声さんは、《エクスプローラー》についても言及してたんでしょ? それも気になるんでしょ?」

「あぁそうさ、それも当たりだ……。でもそれ以上に、お前達にまで危険な目に合わせるのは、パーティリーダーとしてどうかと思ってさ……。だってそうだろ、お前達を殺させないようにクエストを成功させるのが、俺のパーティリーダーとしての役割だ。今回はクエストも無いし、俺達が勝手にダンジョンに来ただけ。だったら無理に命を賭ける必要無くない?」


 アトリアの独白。それはまたしても、セノディアの本心を後押しするように撤退の意見を咎める内容だった。

 自分以外が自分の心の内を覗いている。若干、不快な気分に浸ったセノディアだったが、従兄弟で昔なじみのアトリアの言葉に、素直に心境を吐いた。今回は誰かの頼みを受けてモンスターを狩るのではなく、無理にモンスターと戦わなくてもいいからだ。

 確かに自分のマスタリーの謎解明に一歩近づけるかもしれないが、逆にそれを立証できる証拠はない。全てはあの声の妄言の可能性もある。だったら飛竜を捨てるのも選択肢の一つだ。


「セノディアさん……」


 モミジは、眉間に皺を寄せて自分達の身を第一に案じてくれているセノディアに、思わず顔が綻ぶ。異種族である、自分とセノディアとアトリア。

 パーティは人間2:ドワーフ1の比率なのだが、三人をしっかりと同じ天秤で、同じ計りで測ってくれている。同じ重さの命としてカウントしてくれている。

 その上での撤退判断だと言ってくれたのだ。セノディアは、本当は『冒険したい』という本心を押し殺してまで――――。

 それが彼女には暖かく、嬉しかった。

 一方のアトリアも思わず笑ってしまう。


「フフッ。相変わらずバカだなぁ、セノは」

「なんだぁ……? その言いぐさは……。いやバカなのは否定しないけど……」

「僕たちがこのダンジョンに来たの、全部セノの意見が発端だったんだよ。ダンジョンに行ったら僕たちにもメリットはあるけど、それ以上に、セノが『パーティとして行こう』って言ってくれたのが嬉しかったから……。ね、モミジちゃん」

「……はい。私は、セノディアさんのお手伝いができれば、恩が返せれば、それで良いと……。そう思って、ハトラ洞窟のダンジョン攻略に賛成しました」

「だからさ、セノはどっしり構えていればいいの。僕たちは黙って着いてくからさ」


 《エクスプローラーマスタリー》を選択したときと同じだ。

 セノディアは気恥ずかしそうに黒い髪の毛を掻きむしった。


「お前達……あぁ、そうだな、そう言うよな……。そう言ってくれるよな……。そうだよなぁ……」

「そうだよ、セノ」

「目指せジャイアントキラー、です……!」


 ――――だから彼は、またあの時と同じ、二人に背中を押された。


「じゃあ……してみようか。――――冒険をさ」


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