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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第一章
24/139

vs飛竜(1)



 ネットゲームには『安置』と呼称される用語がある。

 元は『安全地帯狩り』の略称で『安地』と呼ばれていたが、『あんち』を一発変換すると『安置』をになるのでこちらが主流になっている。

 意味は文字通り、安全な地帯から狩ることを目的とした狩り方で、当初はシューティングゲームなどで使われていたが、ネットゲームの普及に連れてMMO、つまりモンスターを倒してアイテムや経験値を得られるネットゲームを中心に広く知られている用語だ。

 安置を使えば強力なボスも、経験値効率の良いモンスターも狩り放題なため、運営によっては推奨されておらず、むしろ正当な狩り手法では無いため忌避されており、地形の隙間を縫うようにして地面に潜り込んだり、或いは壁にめり込んだりと、グラフィックやオブジェクトなどを悪用した安置ならば『バン・BAN』――――プレイヤーのデータが運営によって消される危険性もある。

 そのためプレイヤーは、安置を安置と捉えられないようにルールの隙間を縫うようにして、日々楽して狩るための手法を練っていた。


 しかしもしも、安置狩りをしてもバンされず、むしろそれが褒められる世界があったとしたら……?


 答えは簡単だった――――。







「グオオオォォォ……」

「よーし、次は俺の番だな。そろそろ毒が効いてるだろ」

「わ、私も、左足にアイスボールをかなり打ち込んでるので、効いてると思うのですが……」


 あれから15分後、藻掻く飛竜を尻目に三人は堂々と『安置からのハメ戦法』を行っていた。

 《ブレス》の時間はさっきの《フレイムウォール》で耐えている間に計っていたので、扉を開けて《ブレス》を誘導させ、撃ち始めたら時間切れまで扉を閉める。

 そして撃ち終えたらすぐさま扉を開き、通路から矢と魔力を飛竜に集中砲火させていた。

 本来ならば《ブレス》の届かない通路まで逃げる予定だったのだが、アトリアの機転によって扉が燃やされないと判明したため、予定を変更し、この出入り口を挟むようにして戦うことと相成った。


 このハメを行う際、徹底して近接戦闘はしない。

 もし剣が届く距離まで飛竜が近づいたとしても絶対に、だ。

 実を言うと、彼らは飛竜の《ブレス》以外に攻撃パターンを深くは知らない。

 《ブレス》だけは有名な攻撃スキルなため知っていたが、元は戦う予定の無い敵であり、雲の上の存在だから他を知らないのは、当たり前と言えば当たり前。近寄ればもしもの万が一が起こりうるから彼らは徹底して近寄らないのだ。


「……セノ、間隔的に、そろそろブレスを撃ってくると思う」

「オッケー。んじゃ扉閉めよう」


 ギギギと、弾が通るだけの隙間しか開いていなかった扉をピッタリ締め切る。

 それから15秒ほど待つと、扉の向こうから炎の滾る灼熱音が轟いだ。

 こうして撃っては閉めてを忠実に繰り返し、安全圏から一方的に攻撃を行っていた。魔法と弓矢による攻撃は、少しずつではあったが体力を削っているように感じられた。

 このまま何事もなくハメ続ければ、軍配は新米パーティ一行に上がるのは日の目を見るより明らかだ。

 しかし、一見順調そうに見えるこの『ハメ戦法』、実は欠点がある。


 一つは扉を飛竜が物理的に壊してくること。

 アレは火耐性のエンチャントが施されていたが、物理的な強度は不明だ。

 今のところ、一度だけ扉を閉めるタイミングをミスってしまい飛竜が扉に頭突きをするアクシデントが起きたが、壊れなかったので耐久性も平気だろう。

 しかし、もしもセノディア達の知らないスキルや魔法で壊されてしまったら、この計画は瞬く間に破綻する。

 先ほども挙げたが、セノディア達は《ブレス》以外に使ってくるスキルを知らない。

 今は徹底して飛竜が《ブレス》を撃つタイミングでしか扉を閉め切っていないので、飛竜が扉を物理で攻撃することはないが、一度はミスが許されたものの、もう一度でもタイミングを図り損ねれば死ぬ可能性がグンと跳ね上がるだろう。


 もう一つは、いつか必ずこちらの弾が尽きること。

 アトリアの持参した矢筒に入ってる矢は残り少なく、モミジも魔法を撃てる魔力は無尽蔵ではない。長期戦になればなるほど不利になるのは、ハメてる側だ。

 少しでも矢を節約できるならと、件の大男からくすねた液状の毒を塗り込んで放ったり、下級の魔法を一点にだけ集中して攻撃したりと工夫を凝らしながらのハメだったが、一体どこまで持つのやら。


「クッソタフだな……」

「グガアアアァ!!!」

「セノ、ブレスやんだよ!」

「ッケー! 扉を少し開けて、また矢を撃つぞ。モミジも準備いいな」

「はい!」


 こうして再びハメを繰り返す。

 お互い、半開きになった扉の隙間から飛竜を狙うので、射線が重ならないよう、別々の箇所を狙っていた。

 セノディアとアトリアによって、右肩と思わしき箇所の鱗の隙間、僅かに見える肉質の柔らかい箇所に矢が数本刺さっており、そこからはどす黒い血がぽたぽたと床を塗らしている。

 一方のモミジの戦果は凄まじく、下級の氷魔法アイスボールを計30発近くを左脚一カ所に集中連打させる事によって、左脚の表面が凍傷を起こし爛れさせていた。


「グオオオオォォ!!」


 だが恐ろしいことに、飛竜からは以前として衰えた気配を感じさせない。《ブレス》も等間隔で発射されることから、その健在さが窺える。

 ダメージが入ってるのには違いないだろうが、あまり実感できていなかった。

 本来、飛竜相手には弓矢の攻撃に長けた《ボウマスタリー》を複数人構えるのが一般戦術とされている。空を飛行するから遠距離攻撃が有効的なのに加え、《ボウマスタリー》には硬い装甲を貫通させるスキルが豊富に備わっているからだ。

 そのスキルが使えないセノディア達は、弓矢の素人なれども的が大きいので射れば命中はしている。

 しかし分厚い装甲によって威力が弱まり、どれだけ射ても一部を損傷させるのが限度。致命傷を与えられていないのが現状だ。


「……あ、セノ、モミジちゃん、またブレス来るよ。引こう」

「うん」

「はい」


 二人はもう一度通路の中間まで下がり、アトリアは扉を閉めた。扉の奥からは十数秒のタイムラグがあった後、ゴゴオオォと炎が焦がす音が聞こえる。


「効いてるには効いてるんだろうが……だだっ広い畑の雑草引っこ抜いてる感じだな」

「……セノ、その例えよくわかんない」

「えぇ……農業やってる奴なら頷くぜ」


 セノディアは嫌なイメージを抱きながら呟いた。間違いなくダメージは入ってるのだろうが、今のブレスも一番最初と比べて遜色ない威力。

 こちらの手札が尽きるのが先か、それとも飛竜が倒れるのが先か。


(早く……早く倒れてくれ……!)


 セノディアは、撤退か否かの判断を迫られる局面に立っていた――――。


「モミジちゃん、後何発くらいアイスボール撃てる?」

「フゥフゥ……。そうですね、青ポーションも含めて、あと、15発ほどでしょうか……」

「そか……」


 今のところ、飛竜の左脚への集中攻撃によって目に見えるダメージ源として頼りになっているアイスボールだが、それも残弾は15発だけ。

 30発をちまちま打ち続けてようやく凍傷まで持って行ったのに、これから残り15発だけとなると、トドメを刺すまで追い込むのは厳しいだろう。

 セノディア達の弓矢も、残り本数は極僅かだ。


「セノ、はい矢」

「サンキュ」

「……あれ、毒は塗らなくて良いの?」

「あー……残念。今のでもう毒は使い切ったな」

「そんな……」


 おまけに、酒場で大男からくすねた毒まで切れてしまった。


(そろそろ撤退も視野に入れないとな)


 ここまで追い込まれたのであれば、撤退するのは全然有りだ。元々、彼らのランクでは狩れない相手なのだから、相応のランクの冒険者を引っ張ってくるのがセオリーである。

 仮にあの声の通り、飛竜に《エクスプローラーマスタリー》の手がかりが秘められているとはいえ、死んでしまっては元も子もない。

 それとも一か八か。飛竜が今までのダメージの蓄積で弱っている事を祈り、持てるだけの力を注ぎ込んで一気に畳みかけるか。

 いやいや、今回は運が無かったと撤退を選び、すごすごと引き返すか……。


(いや、ここは――――)


 堂々巡りのループに嵌りそうになったが、セノディアは一つの結論を下した。


「――――撤退かな」


 そう呟き、諦め半ばに目を閉じる。

 マスタリーを選んだ時、それからアストレイベアを三人で倒すという選択肢を選ばなかった時と同じで、これは最早自分だけの問題ではない。アトリアとモミジの命を預かっている、パーティリーダーとしての責務がある。

 ここまで飛竜を追い込んだのは自分達のパーティだが、手柄や飛竜の素材を同業者に渡すのは悔しい。それでも命には替えられないし、自分の我が儘に二人を付き合わせるのも酷だろう。

 もしもこれが、自分一人だけの戦いなら――――。

 セノディアは、そう思わずにはいられなかった。



「……しちゃうんですか? 撤退」



 ――――だが、苦渋の決断だった撤退宣言を、意外や意外、遠慮がちに引っ込み思案のモミジが咎めた。


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