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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第一章
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休憩所、それとも…



「……ねぇセノ、妙に静かじゃない?」

「だな……。ただ用心するに越したことはない、二人とも警戒はしとけよ」

「はい」

「うん」


 モンスターの急襲に警戒しながら先頭を歩くアトリアだが、不気味なまでに静まりかえった洞窟内部に不安を感じ、一番後方で洞窟内部が描かれたマップを松明で照らしながら歩くセノディアに声をかける。無論、マップはギルドから手配された支給品である。

 新米冒険者一行は、あのヤスデとの戦闘以降、『ダークラット』や『死喰い蝙蝠』といった、下級洞窟ダンジョンの代名詞とも呼べるモンスターと戦ったが、それっきり音沙汰が無くなったのだ。

 まるで既に、誰かがモンスターを倒して通った跡のような、或いは強大な危険を察知してどこかに隠れのか。

 これでは洞窟モンスターの素材だけで赤狐以上に日銭を稼ぐという目的の達成は難しいのだが、セノディアからしてみれば僥倖でもあった。

 彼にとってのメインイベントはモンスターの狩りなどではない。

 自分を助けてくれたであろう人物に、この洞窟に来るよう告げられたから来たのだ。その人がどういう意思で自分を助けたのか、どういった意企で誘導したのか。それらを確かめに来ただけ。

 二人もそれを承知の上で今回のダンジョンアタックに付き合っている。モンスターが出ないならそれで良いに越したことはない。

 ほんのりと薄暗くそれなりに道幅のある通路を通って行くが、やがて先頭を歩いていたアトリアが止まった。それに続いてモミジ、セノディアと後続も歩みを止める。


「ねぇセノ、ここに部屋があるよ」 

「あん? 部屋?」

「ほら、扉があるもん」


 小さな背丈のモミジを挟んで、アトリアが振り返ってそう告げる。セノディアが地図から顔を上げると、確かに洞窟の中に不釣り合いな、人工的に取って付けられた両開きの木製扉があった。モミジも興味津々といった様子で、杖に体を預けながら扉をしげしげと眺めている。


「本当に扉だ……。ちょっと待ってろな」

「おやおや、ナビゲーターのセノさん? もしかして今まで適当に歩いてたんですか?」

「そうかも。俺方向音痴かもしれんな」

「えぇ……」

「それは認めちゃうんですね……」


 セノディアは突っ込みをスルーし、再び地図に視線を落とした。指で自分が通ってきた道を辿りながら、戦闘が起きた箇所、そして自分達が今進んでいる一本道の長い通路、その先の広い空間で止まった。


「……あったあった、多分これだ。『レストスポット』、冒険者の休憩所だな」

「休憩所……。中はその、安全……なのですか?」

「うん。祭壇みたいなモニュメントが部屋の奥にあって、それを取り囲むように石柱が立ってる。んで、部屋の入り口付近には机とか椅子とか持ち込まれてて、ちょっとした休憩スポットになってるんだってさ。何か知らんがモンスターも寄ってこないらしい」

「へー、モンスターも出ないんだ」

「不思議ですね……」

「モミジは何か感じない? モンスター避けの結界とか、特殊な魔力とか」

「いえ、特に何も……」

「ふーん」

「まぁ、街を出てからここまで歩きっぱなしだったし、少し休憩していいかもね」

「だな」


 先頭を歩くアトリアは警戒を解き、洞窟には不釣り合いな木製でできた両開きの扉を手前に引く。鍵はかけられておらず、それは軋む音を立てながら簡単に通路側へと開いた。

 室内は、屋内スポーツなどで使われる市営の体育館ほどの広さ。

 所々に石が積まれて火が起こせる竈が作られている。

 また、竈から一定の距離を保って椅子や机が幾つか設置されており、蝋燭や銀コップなどの調度品もあった。地下のわき水から水道を引いているようで、筒からチョロチョロと水が流れる水浴び所もある。


「ねね、セノ! 部屋の奥!」

「おぉ……」

「凄いですね……」


 しかし一番目を引くのは、部屋の奥に一定の距離を取って点在していた複数の『石碑』だろう。

 ここは『洞窟』と呼ばれているが、『遺跡』の側面もあるのだ。

 書かれている文字が古代語なのか外国語なのかサッパリ意味不明だったが、それらの石碑は部屋の一番奥の『壁に埋め込まれた一つの大きな石版』を半円を描くようにして置かれている。

 また、壁の石版を囲むようにして、天井に届くくらい大きな石柱が八陣図を半分に切ったように四本並べられてた。

 見識者は、意味深に配置された石碑や石柱などから、何らかの儀式に使われていた部屋だろうとの見解が強いが、王室などからそれらしき文書が見あたらず、また魔物が一切この部屋に寄ってこない経緯があり、今は遺跡よりも休憩所として皆に愛用されている。


「まぁ、アレを調べるのは後だな」

「そうですね……。ふぅ……、やっと一息付けます……」

「あーここまで来るの疲れたー」

「殆ど歩いただけだったけどね」


 三人は思い思いの椅子に腰を降ろし荷物を置く。セノディアは、朝に宿を出るときにユニから受け取った、魔法瓶に入れられたスープを暖めようと暖炉に火を付けようとした。

 しかし、その暖炉には僅かに灰のような燃えカスが残っていた。しかも熱を持っている。


「……ん、この竈、誰か使った跡があるんだが……?」

「部屋も少し暖かいし……、先客がいたからモンスターが少なかったのかも」

「にしては誰ともすれ違わなかったが……。もう下層に降りてったのかな」


 どうやら誰かが竈を使った後らしく、暖でも取っていたのか、食べ物の残り香はしないが室内はほんのりと暖かいことにも気づく。

 別に誰が使おうがここは公共施設なので文句は無いし、アトリアもモミジも取り沙汰すほど問題でもあるまいしと、彼女達も暖炉に火を付けた。

 魔法瓶の中身を、持参した耐熱性のお皿に移し替え、竈の上に落ちないよう鉄板を置き、その上にお皿を置いてスープを温め始めた。

 お皿はしっかりと水浴び所で洗ったので、衛生面は問題無さそうだ。


「あー良い匂い。お腹空いたなー」

「朝6時に食べてそれっきりですから……今何時でしょう」

「僕の腹時計によると午後1時だね!」

「へぇー、アトリアさんそんなのも分かるんですね……!」

「あ、ごめん、適当に言った……。けどまぁ当たらずとも遠からずって感じじゃないかな。うん。12時前後でしょ」

「アトリアの実家がパン屋やってるからさ、そこら辺は信用して良いと思う」

「それ、僕が食いしん坊みたいじゃん……。そーゆーセノだって農家やってたんだから時間には人一倍敏感でしょ」

「まぁね」


 三人はスープを飲みながら、身の上話やこれまで戦ったモンスターの話を交え日常会話に華を咲かせ、心休まる時間とも言える一時の休憩を楽しんだ。


(……呑気な奴らだな)


 締め切った出入り口の扉の向こう側で、聞き耳を立てている人物にも気づかずに――――。


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