ダンジョンアタック
レギナルドが去ってから三人は妨げられた昼食を再開した。パンを、スープを、肉野菜を、各々が好きな食べ物で腹を満たしていく。
「――――なぁ二人とも」
無心で食べていく中、セノディアが徐に口火を切った。先表情は少し影を落とし、どこか憂いを帯びている。
「ん?」
「はい……?」
「あぁ、食べながらでいいんだけどさ……、俺達の装備やアイテムも揃ってきたんじゃないかと思う」
「うん、僕の装備してる《ガーゴイル・ガントレット》とか《シントリスプレート》何かは一つ上のFランク装備だしね。武器もセノを見習って、剣だけじゃなくて弓矢に手を出し始めたし。……銀貨4枚しか手元に残らなかったけど」
「私も、昨日800Gで《サンローダの指輪》買いましたから、パッシブ効果で魔法の威力も上がりましたよ。《メイジマスタリー》の適正スキルじゃありませんが、スキルブックを買って《ヒートウォール》や《アースウォール》などの補助呪文も使えるようになりましたし、今まで以上にお役に立てるかと……」
アトリアもモミジは、赤狐狩りで溜めた資金を己の長所を更に伸ばすように装備やアイテムを工面しているようだ。
おかげでそれぞれ懐が寂しくなっているようだが。
「そういうセノだって、器用貧乏目指してるんでしょ?」
「まぁ……そうなるな。うん、器用貧乏な」
パーティメンバーが順調に育っていることに、セノディアは満足そうに頷く。
言い出しっぺのセノディアの《エクスプローラー》が何のマスタリーなのか分からないことだらけだが、なにもマスタリーが冒険者の全てを決定づけるわけではない。
アトリアやモミジのように、適正マスタリー以外のサブウェポンを育てたりスキル・魔法を使えるようにしたりと、自己強化を臨める手段は幾らでもあるのだ。
セノディアも例に漏れずメインウェポンの斧以外に、短剣、弓矢、武術など、様々な武器に手を出して何とかパーティに貢献しようと四苦八苦していた。最も、どれもこれも中途半端でやはり斧に落ち着いている。
「で、だ……。そろそろ『ダンジョン』に潜ってみようと思うんだけど、どうよ?」
「「『ダンジョン』……!」」
『ダンジョン』
その言葉に二人の体に緊張が走った。が、食べる手は休めない。いずれ来るべき試練が来た。ただそれだけだからだ。
『ダンジョン』とは、魔力に満ち、モンスターで溢れた迷宮を指す。
それは森で、それは洞窟で、それは海底で、ダンジョンと定義するのに地形は然したる問題ではない。
重要なのは、モンスターが惹かれる魔力に満ちているか否か。
ダンジョンにはモンスターで溢れかえっているが、それは冒険者からしてみれば好都合である。何しろ、ダンジョンに現れるモンスターはある種の傾向がある。
例えば、水辺が近くのダンジョンであれば水辺に生息するモンスターが、砂漠のダンジョンなら砂漠に生息するモンスターと、地形に適した生態のモンスター素材を調達できる目印になるからだ。
モンスターの素材があれば新しい武器や防具を作れるし、この間のアストレイベアの様に売れば金にもなる。
冒険者にとって、クエストをほっぽってダンジョンに潜るのは悪い話ではない。
「『ダンジョン』と言えば、『お宝』も外せないよね!」
「だな」
「お宝……!」
また、迷宮には時折『宝』が確認されている。
中身は貴金属や宝石であったり、魔法がエンチャントされた装備品であったりと様々だが、その『宝』の正体を有り体に言えば500年前に起きた戦争による魔族の隠し財産、若しくは遺産であった。
そもそも迷宮には『人工』と『天然』の二種類ある。
当時魔族は世界征服のため王領モリノティス周辺を始めとし、各国各地に《ポータル》と呼ばれる魔界とこの世界を繋ぐ門を設置しては、周辺に屯営を築いていたとされている。
勇者達の活躍によって野望こそは潰えたが、魔力で生成された屯営はあまりに強固で巨大で、戦時中に魔族によって建築された建物は壊すにも多大なる労力を必要とし、現在に至るまで各所に残されている。
それら人工的に作られた駐屯地が、長年の放置によって『ダンジョン』と呼ばれるモンスターの巣窟と化しており、また『宝』なども人工物のダンジョンに多く確認されている。一応、天然物のダンジョンにも『宝』はあるが期待はできない。
また、モンスターを倒して素材を得るよりも、それらの特殊なダンジョンに放置された『宝』を目当てにダンジョンを攻略する冒険者も少なくない。
が、今回セノディアが提案したダンジョンのトライは、モンスターの素材調達とも、『宝』欲しさとも全て違う。
『ハトラ洞窟に来い――――』
セノディアを助けてくれた光が降り注いだ時、誰かがそう囁かれたのを聞き零さなかった。
スヴェンでもない、パーティメンバーでもない、優しい中性的な声色で囁かれたあの言葉。セノディアはあの時から、その言葉がずっと気になって仕方がなかったのだが、自分一人でハトラ洞窟を踏破するのは難しいだろう。
だからこそ今回の提案に繋がるのだ。
ちなみにハトラ洞窟は天然物のダンジョンとされており、リンハンス街から徒歩30分と近からず遠からずと言った距離である。またモンスターもG~Eと下3ランク分の下級モンスターしか出現せず、初心者から上級者まで幅広い冒険者が通うダンジョンとして有名だ。
「私は、その、モンスターとの戦いに慣れてきたので、賛成です……」
「僕も賛成。ランク上げる前に一回くらいはダンジョンに行きたいなーって思ってた所だよ。それでどこのダンジョンに行くの?」
「あぁ、ハトラ洞窟に行こうと思う」
「お、良いね!」
「私達の実力的に、丁度良いですね……!」
二人ともハトラ洞窟については、初心者向けの洞窟タイプダンジョンとしての情報を仕入れており二つ返事で了承した。
セノディアは意を決したようにグイッとジョッキの水を飲み込んだ。酒ではないのは、少しばかり勢いに欠けるが……。
「――――二人に話しておきたい事がある。大事な話なんだけどな、俺がハトラ洞窟を提案した理由もソレにあるんだ」
「「?」」
「それは――――」
真剣な表情で語り出したセノディアに、野菜を頬ばるアトリアと、林檎の味のするジュースをちびちび飲むモミジはクエスチョンマークを浮かべた。
このダンジョンアタックを提案した理由は完全に自分個人の都合であることを始め、アストレイベアの出現に自分が窮地に追いやられたこと、光の魔法で助けてくれた謎の人物がいたこと、その人物が囁いたであろう言葉がハトラ洞窟であること、その場にスヴェンがいたこと。
それらを全て、包み隠さずに話した。
セノディアが憂いを浮かべていたのは、パーティリーダーなのだから第一に考えるべきはパーティの今後であり、自分のゴタゴタに二人を巻き込むのは本意ではないからだ。
「それでな――――」
「はぇー……」
「わぁ……!」
この話を聞いていた二人は最初こそワクワクしながら相づちを打っていたが、話が後半になるにつれて、苛烈を極めた闘いに顔色を若干青く変えたり、或いは興奮して生唾を飲んだりと表情豊かに聞いてくれる。
そんな二人に口が回り始めたセノディアも釣られ、ついつい語りに熱が入る。
最後にスヴェンが来て横取りしたところなどは蛇足だったが、そこもキチンと付け加えて話を終えた。
「――――っつー訳よ。これがハトラ洞窟に行きたい本当の理由。……で、お二人的にどうよ。ダンジョン行ってもいい?」
「あ……わ、私達が狩ってる間にそんなことが……! 今の今まで気づけなくてすみません……!」
「確かに、道理でいつも以上にボロボロだった訳だ」
「いやいいんだよ、気にすんな。俺が巧妙に隠してたんだから。気づけなかったモミジが悪いんじゃない、気づかせないようにした俺が上手かったんだ」
「だけど無茶だよセノ! 一人で三つ上のDランクのモンスターと戦うなんて! マスタリーだって何が何なのか分からないんだし!」
「もう終わったんだからいいじゃん。それに、俺も思い知ったよ。二つランクが違うだけで力の差は歴然だった。もうしないよ」
「本当に?」
「少なくともしばらくは、な」
「それなら良いんだけど……」
「……あの、アトリアさん。もしかしてあの『雷』って……」
「あぁ……晴れてたのに落ちたあの『雷』ってそういう理由が……。ハァ……頭痛くなってきた……。セノ、これからは僕たち戦闘職にバンバン頼ってね。セノは僕たちよりも弱いんだから」
「……前向きに検討しとくわ」
二人ともすっかり聞き入ってしまったのか、ダンジョンアタックの是非よりDランクモンスターとの闘いにばかりをセノディアに質問攻めしてしまう。
しかしこの後、結局ダンジョンに関してもGOサインが出たのだった。




