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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第一章
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熊だクマー(1)


 午前8時。

 西から昇る朝日が眩しいく輝き、リンハンスのメインストリートが売り子の声かけに包まれ始める時刻。子供達は欠伸をしながら店の手伝いか学校に、大人達は各々仕事を始める。

 メインストリートから少し外れた路地裏は、残念ながら西日は当たらないものの、『グルーガスの酒場』の前にいる四人の子供はメインストリートから伝わる活気を前身に浴びていた。


「ハンカチ持ちました?」

「はい」

「水筒は入れたし飴も入れた……もう忘れ物はない?」

「はい、大丈夫です」

「オカンかよ」 

「僕のお父さんみたい」


 セノディア、アトリアの二人は暇そうにしながら、モミジのバッグを心配そうに漁るユニの姿を呆けつつ眺めていた。


「そろそろ行くよモミジちゃん。遅刻しちゃう」

「あ、はい。それじゃユニさん、行ってきます」

「バイバイユニちゃん」

「は~い、行ってらっしゃ~い」


 軽い二人と違い、モミジは丁寧に頭を下げた。ユニは慣れた様子で『グルージスの酒場』から発つ新米冒険者パーティを手を振りながら見送った。ちなみにユニの父親・酒場の主人はこの時間は寝ている。

 宿屋の一件から数日ほど経ち、今日も新米パーティは狐狩りに勤しむつもりであった。

 フェリシーの助言通り、このクエストは実入りが良い。彼らは朝から夕方まで丸一日使った狩りで九匹までが限度だったが、スヴェンからは教われなかった『纏め狩り』の小技を使い、一度の往復でそれら全てを売ることができた。お陰様で一日で900Gも稼げており、自給換算で1h/1銀貨だからかなり旨味がある。

 ちなみに宿代は、一人当たり朝晩の二食含めて100Gと大変お安い価格設定だ。一日で一人300G稼げるから200Gも浮く。


「ポーション二種類は?」

「うん、僕は五本ずつあるよ」

「私もあります」

「よし」


 傷を癒す『赤ポーション』や、魔力を回復させる『青ポーション』などを道具屋で買う余裕もできたし、装備を新調する計画も視野に入れつつあった。

 魔法に意欲的なモミジは既に新しい魔法を覚えようと、道具屋で《スキルブック》と呼ばれるメイジの使う魔法が掲載された教本を買っていた。赤狐を狩りながら試すらしい。

 彼らは意気揚々とギルドへ向かった。







 しかし、これだけ乱獲に近い狩りを行っていても一向に数が減らないことから、やはりモンスターの生態は不思議なことばかりである。そういう生態を研究する機関は、あるにはあるらしいのだがあまり好ましい噂は広まっていない。

 さて、彼ら新米パーティ一行はギルドでクエストを受け、街を出てから歩いて10分。赤狐の出現頻度が高い森の入り口に到着していた。

 入り口には木でできた小さな柵と門があり、看板には『危険なモンスターが目撃されたため、森の奥まで立ち入らないこと』と注意書きがなされていた。


「よし、じゃあ今日も何時もと同じ、ここでばらけよう。割り当ては……まぁ前と同じで良いだろ。俺が三匹でそっちが六匹、目的


の数を狩猟したらここで待つ。異論は?」


 彼らは門の前で一度歩みを止めると、パーティリーダーのセノディアは狩猟クエストの予定を立てながら、二人に『エンバンスの麻袋』を渡していく。こういうギルドが貸し出す補給物資は、必ずパーティリーダーが代表で申込用紙に書き込み、ギルド側に受領されてから受け取るのが決まりだ。


「無いよー」

「ありません」


 二人は何でも保存できる麻袋を受け取りながら首を縦に振った。


「よーし、じゃ解散!」


 何時も通り、彼らは普段通りの浅い場所で、狩りを始めた。ノルマはセノディアが三匹、アトリアとモミジが六匹の計九匹である。通常のクエストの三倍分、それをいっぺんに狩ろうとしていた。少し欲張りな数字に見えるが、彼らは彼らなりに考えた結果、これが最適解との結論に至ったのである。

 最初の頃は一匹狩るのに一時間近くかかっていた。

 これは赤狐が最下級ながらも『モンスター』というネームバリューに恥じない強さに加え、外傷を目立たせないように戦わなければならないのと、とにかく赤狐そのものが『見つからない』のが原因だ。

 赤狐は普通の狐よりも巧妙に姿を隠し、糞や食べ滓などの痕跡に土を被せて偽装する知能を持ち合わせていた。これが彼ら三人を、引いては他の新米冒険者の頭を悩ませていた。

 が、彼らは一日の1/24という貴重な時間を、探索方法の効率向上化によって40分まで短縮することに成功した。浮いた20分という時間は、三匹狩れば一時間の短縮に繋がる、短くない時間である。

 最初にソレに気づいたのはモミジだ。《メイジ》のマスタリーを会得したモミジは、微量であっても魔力を肌にすれば感知できる《マジックサーチ》というパッシブスキルを手に入れていた。

 彼女はこの森全体が魔力に満ちていることを感じていたが、森の隅や大木の根っこなど、場所に関連性は無いが、《魔力溜まり》と呼ばれる特殊な地場を発見したのだ。

 《魔力溜まり》は文字通り、他と比べて魔力が局所的に増大した場所である。何度も言うが《魔力溜まり》が複数あったとしても関連性は無い。無いのだが、《魔力溜まり》には一貫して『モンスターが集まりやすい』という性質を持っていた。

 これはモンスターが魔力の肥沃な土壌を好む傾向にあるからで、慣れた冒険者ならば誰もが知り得る基礎情報だ。この違いは顕著で、モンスターは魔力が皆無の土地には姿を見せないとすら言われている。

 モミジは《魔力溜まり》を誰からも教わることなく見つけ出した一番の功労者であり、この発見が赤狐狩りの美味しさに拍車をかけていたのも確かであった――――。







「――――ッし! これで二匹目!」


 狩りを始めて一時間弱が経過した。

 三人の中でもセノディアは、取り分け順調だった。

 必要とあらば狩猟に駆り出され、それだけに自然に深く寄り添って生きてきたためである。つまりセノディアは観察眼が鍛えられており、魔力が感知できなくとも《魔力溜まり》の大凡の性質が掴めてきたのだ。

 《魔力溜まり》が『モンスターの誘蛾灯』以外にもう一つの性質がある。

 例えば、近くに珍しい果実の実る果樹が植わっていたり、またはへんてこな草花が生い茂っていたりと、《魔力溜まり》には何しらワンポイントの目印があることに気がついたのだ。

 そこを中心にしてくまなく探せば、サクッと赤狐が見つかるのである。勿論、赤狐以外にも下級のモンスターと遭遇することもあるし戦えば経験になるが、彼は徹底してスルーするよう二人に指示を出していた。

 クエストクリアの報酬金をいの一番に据えた結果、装備やアイテムが揃ってからでも他のモンスターと戦うのは遅くないと考えたからである。


「なるべく傷を大きく作らないように……、丁寧に、っと……」


 セノディアは二匹目の赤狐の血抜きを行い、麻袋にしまった。残り一匹を狩れば、パーティ内における彼のノルマは達成される。そこから先は、時間が余ったら二人を手助けしてもいいし、森の入り口に伝言を残して先に街に戻って自由時間を謳歌しても良い。


(どーすっかなー、俺もなー、手伝った方がいいよなー。でもあいつら、それで「また貸しができたね」とか言い出したら面倒だしなー)


 暢気に未来予想図を描きながら、森を歩き、周囲の植物に魔力の目印はないか探しながら、彼は三匹目の赤狐の捜索に取りかかった。


「……ん?」


 ――――が、すぐにピタリと歩みを止める。

 《魔力溜まり》の目印を探す最中、初めて赤狐を狩り終えた時と同じく、彼はどこからか自分に向けられている視線を感知した。

 ただし、前回と違い今回の視線にはハッキリと『敵意』という感情が上乗りされており、また魔力には疎い彼にすら分かる強力な魔力が、彼の背筋を悪寒となって体を走り抜けた。


「ンだってんだよ……!」


 魔力を帯びた視線の感じる方向を警戒し、セノディアは腰を落として斧を手に臨戦態勢を取った。同時に、周囲の木々がざわめき激しく揺れ、鳥たちは飛び立っていく。



 ――――刹那。



「グガアアアアアアアァァァ!!」

「なっ――――!」



 その警戒は正しく、正面の茂みが激しく揺れ、何事かと静観している間に巨大な手が草木をかき分けて現れた。寸刻もせず、その手の持ち主も姿を現す。

 赤狐と同じ森に生息する、《アストレイベア》と呼ばれるクマ型のモンスターだった。


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