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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第一章
11/139

親切な先輩…?


 セノディアが受付嬢・フェリシーに赤狐を納入している間、残った二人はギルド内に併設されている酒場で、少し遅めの昼食を食べていた。


「セノ遅いねー」

「そうですね……。何かあったんでしょうか」

「セノはああ見えて世渡り上手だから大丈夫だろうけど……。心配だなぁ……」


 狩り疲れからか、アトリアは椅子の背もたれにぐったりと腰を落とし、モグモグとパンと肉を食べながらぼやく。モミジはドワーフの集落出身なので旅慣れしており、普段通りの姿勢で果汁ジュースを飲みながら適当に相づちを打つ。五分くらいで精算が済むとの事だったが、かれこれもう10分経っている。

 だが一向に戻ってくる気配はない。二人はセノディアがよからぬトラブルに巻き込まれたのではと、嫌なイメージが掻き立てられた。


「やぁ、こんにちは」

「ひゃい!」


 気もそぞろな二人に遠慮なく、不意に、モミジの背後から声がした。

 モミジが小さな悲鳴を上げてコップを置き振り向くと、セノディアよりもガタイがよく、強面ながらも人懐っこい笑みを浮かべた大柄な男が突っ立っていた。腰には剣を携えており、胸には鷲の意匠が施された銀のバッジがキラリと映る。

 それが意味するのは冒険者――――つまり自分達の同業者であり、Gランクよりも一つ上のランク・Fランクの先輩だ。


「ど、どうも……」

「こんにちは」


 アトリアとモミジは椅子に座りながらだが、おずおずと会釈する。


「君たち見ない顔だけど、新しくギルドに入ったのかい?」

「はい。僕たちは今朝、このギルドに入ったばかりです」

「へぇ、それだけ歳が若いのに冒険者志望だなんて珍しいね。パーティメンバーは二人だけなのかい?」

「いえ、僕たちの他のもう一人いて三人ですね」

「そうか、三人か。多すぎず、少なすぎずって感じだね。良いバランスだと思うよ。……あぁそうだ忘れていた。俺の名前はスヴェンってんだ、よろしく」


 人見知りが激しいモミジに代わり、アトリアと大柄な男が会話を続ける。

 男は自らを『スヴェン』と名乗り、このギルドに加入してからもう一年目になる中堅だと自己紹介してきた。

 相手が名乗ったのだからと、アトリアとモミジも自己紹介をする。


「これからここで一緒に頑張る仲間として、よろしくな」


 スヴェンは笑みを絶やさずに握手を求めてきた。傍目からは友好的な人間だと受け取れるだろう。


「え、あ、その……」


 しかし、依然として男への不安感が拭えないモミジはこれを拒否。

 スヴェンは懐が深いのか意に介さず、「あはは、突然で嫌われちゃったかな?」と苦笑だけで済んだが、ギルドは力による上下関係がハッキリとする組織なので、生意気だと一発殴られてもおかしくない。

 最も、暴力沙汰を起こす冒険者は『黒骨の集い』の意にそぐわないのでここにはいられないだろうが。


(何か……違う……)

 

 モミジは直感だが――――スヴェンに違和感を感じた。


(笑っているけど……笑っていないような……)


 ここに来てからまだ一日しか経っていないが、セノディアを待つ間、この酒場で働くギルドスタッフの接遇を観察していると、人当たりがよくコミュニケーションに長けた良い人材ばかりだと窺える。

 今も、モミジはセノディアが来てから昼食を取ろうと決めていたため、酒場なのに酒を呷らず、頼んだものと言えばジュースだけでそれ以外の注文を一切頼んでいない。それでも席を立たされることが無いのだ。

 ドワーフ差別云々以前に、ギルドメンバーを大切にしてくれている証拠だ。それだけこのギルドがどれだけ優良な施設かを身を以て知れた。

 であれば、このギルドにいる面々も悪い人はそういないのだろうと自然と連想してしまうのも確かで、酒場と言う割には喧噪は無いに等しく、精々酒を煽って酔っぱらって声が大きくなっている冒険者がちらほらいるだけで、このギルドに集う冒険者の質は間違いなく高い。

 それらを加味した上で、モミジは、スヴェンにいい知れない不安感を抱いていたのだ。

 まるで、今までの町で異人族差別をしていた排他的主義者の人たちのような――――。


「……モミジちゃん……?」


 例えば、自分を心配そうに見つめてくれるアトリアと初めて会った時、彼と同様にニコニコと笑顔を浮かべていたが、その目には屈託のない純真さを兼ね備えていた。

 セノディアは余り笑わないが彼の言動や行動からは誠実さが滲み出ていたし、未だに理屈は解明できなかったが、初めて彼を目にした時は暖かな色の『光』が視えていた。

 それらがこの男の瞳から、言動から、感じ取れない――――。

 モミジが不安に駆られた主な要員がこれだ。


(ど、どうしよう……。このままだと、スヴェンさんにも悪いし……。でもあまり仲良くしたくないし……)


 しかし、ファーストコンタクトを直感だけで拒否したのでは、これからの雰囲気が悪くなってしまう。モミジは男の機嫌を損ねないよう言い訳を考え始めた。


「よっ、お待たせ。……あれ、そちらはどちら様?」

「あ……セノディアさん……!」


 しかし間の良いことに、パーティの代表者(仮)であるセノディアが帰ってきた。モミジはホッと息を吐く。


「やぁやぁ、俺はスヴェン、去年からここにいるんだ。よろしく」

「あぁどうも、このギルドの先輩でしたか……。俺はセノディアって言います。よろしくお願いします。それで……俺達に何か用事でも?」

「君たちが何か困ってる事は無いかと思ってね。先輩として、アドバイスの一つや二つくらいしてあげるよ」

「へぇ」


 フライング気味に前述したが、冒険者にはランクがある。

 下から順に《G~Aランク》と分けられているのだが、セノディア達はまだまだ新米なので最低のGランクに値する。

 ではどうやってランクを確認するのかと言うと、バッジを一目見るだけで判別可能となっている。バッジに使われている鉱物がそのままランクの証になるのだ。

 例えば、今セノディア達のつけているバッジは銅、これは最低ランクの《Gランク》を指している。一方スヴェンの銀は一つ繰り上がって《Fランク》だ。

 スヴェンは一年間以上もギルドにいるらしいが、それでも一つあがった銀のまま。


(一年もここにいて……『銀』?)


 セノディアはモミジとは別の目線だが、スヴェンに警戒心を抱く。年功序列よりも実力がモノを言う世界なこの世界で、たった一つ上なだけ。

 それでも彼は先輩だ。人脈もコネも彼に劣るセノディアは、ひとまずスヴェンの言うことを鵜呑みにした。彼は善意で申し出ているだけであると。

 ちなみに、混乱を避けるためランクのシステムは全ての国・ギルドで統一されているが、ギルドによってバッジの意匠は多種多様である。この『黒骨の集い』では、年々減少しつつある冒険者が、未来に向かって力強く羽ばたく意味を込めて鷲がシンボルマークになっている。


「それじゃ質問なんですけど、俺達はさっきまで赤狐狩って来たんですよ。ただ、三匹狩るクエストだと、一々ここに戻ってくる手間も鑑みて実入りが少ないなと思いまして……何か効率を図る手段ありません?」


 ここでセノディアは賭けに出た。スヴェンに鎌をかけたのだ。


「うーん……効率良くかぁ……。高速で移動できる手段を手に入れるのがベストだけど、君たちは駆け出しだから、しばらくはこのまま続けるのが妥当じゃないかなぁ……」

「ふーん、そんなもんなんですかね」

「そうそう。いくら効率が悪かろうと、無理をしなければ死ぬことは無いからね」


 焦りは禁物だよ。そう言い残し、スヴェンは去っていった。セノディアはスヴェンの言葉を反芻するように何度か頷き、未だ緊張した面持ちのモミジの隣に座った。


「あの、セノディアさん……。私――――」

「とりあえず飯喰っていいか」

「あ、は、はい。どうぞ……」

「ねぇセノ、さっきのオジサンさ――――」

「ただの親切なオジサン、それでいいだろ。いいから飯を食わせろって。腹減ってんの、俺は」

「えー」


 セノディアはモミジとアトリアの言葉の続きを無理矢理制した。

 二人の言いたいことは想像に難くない。スヴェンと名乗ったあの男、冒険者としては正しいことしか口にしてしなかったが、質問の返答からそこまで熟達しているようには感じられなかった。

 ――――というのも、実は先ほどの質問の答えを、セノディアは一つだけ用意していたからだ。

 確かに赤狐を狩る以上に新米冒険者が受けられる旨味のあるクエストは無いのだろうが、つい先ほど、セノディアはちょっとした小技をフェリシーから伝授してもらっていた。

 その内容は、『三の倍数分だけ狩って来ること』。

 つまり、三匹狩っては戻ってくるのではなく、その倍数分の六匹や九匹狩ってから戻ってきて、同じクエストを二回や三回受注してからその場で達成報告をすればいいのだ。

 フェリシー曰く、この手管は広く知れ渡った常套手段であり、中級へのギルドメンバーなら9割は既知の情報だそうな。

 勿論、スヴェンもギルドに所属しているのであれば、その情報は知り得て当然だろう。しかし彼は、その情報を出すのを渋った。偶然知らなかったとも解釈できるが、一年間もギルドにいるのに知らないのはおかしな話しだ。

 こうして新米冒険者一行は表にこそ出さないが――――いや出しかけてはいたが、スヴェンに持った第一印象は『怪しいオジサン』、或いは『不親切なオジサン』だった。

 ただ、あくまで第一印象だ。スヴェンが冒険者として実力が無いと言い切れる確証が無い。もしくは可愛い見たい目をしているモミジ目当てに話しかけてきたロリコンか否かも証拠がない。

 まぁいずれにせよ飯時にする話じゃないだろう。セノディアはそう判断して、これ以上スヴェンに関する話題をこの場で避けようと努めたのだった。


「あ、そうだ。報酬のお金分配しとこうか。あとオススメの宿聞いてきたからそこを拠点にしようと思うんだけど、どうかな?」

「そこら辺の方針は、僕はセノに一任するって決めてるからね。よろしく!」

「へぇへぇ任されました。モミジは?」

「お二人が泊まるなら、私も今泊まっているところからそこにします。あ、でも……」


 そう言いよどみ、顔を伏せてしまった。モミジは異人族で、今泊まっている宿は少しばかり値は張るが、異人族差別がかなり少なくマシな部類だと言える宿だからだ。彼らが泊まる宿も同じように、異人族差別が無いのかどうか、それだけが気がかりなのだ。

 そんな彼女の心情を察し、セノディアは「大丈夫」と、モミジの頭をワシャワシャと荒々しく撫でた。


「宿の主人は異人だからっつって露骨に値段上げたり、汚い部屋を紹介するような人じゃないってさ。もし差別されたら、そんときゃ俺達が守ってやっから。なぁアトリア」

「そうそう。モミジちゃんは僕たちの仲間なんだから、悪い奴が来たら追い払ってあげる!」

「まぁなし崩しで仲間になったんだけどね」

「もう、セノはそうやって……毎回一言多いよ!」

「だって実際そうじゃん」

「そうだけどさ……、もうちょっと、こう、言い方あるじゃん!」

「ねーよ。あ、このウサギ肉セット美味しそう。俺これにしよっと。すいませーん!」

「セーノー!」

「あそうだ、モミジはもう飯喰った? ジュース入ったコップしかないじゃん」

「いえ……まだです……。グスン……」


 二人の何気ない会話から、自分が仲間と認められたことに、モミジは感動していた。種族の輪を越えて、グループの一員として受け入れられた事が、心の底から嬉しかったのだ。

改めて、ドワーフの町を抜けて旅を続けてきて良かったと、祝福しながら送り出してくれた両親や友人に、心の底から感謝した――――。


「お前……まーた泣いちゃってんの?」

「あわわモミジちゃんモミジちゃん、ティッシュほら、チーンってしてチーンって。全くもう……酷い人だね、セノって」

「え、俺のせい?」


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