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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
109/139

好餌(1)


 空が薄く輝き始めた頃、メーンストリートで始まる朝市を一人の男が歩いていた。


「~♪」


 服の所々が破け肩に包帯が巻かれた男――――セノディアは、鼻歌交じりで王都の朝一を見て回っていた。時にフルーツを手に掴んで味や値段を尋ねたり、時にマジックアイテムを手にとって用途を聞くその様子は、まるで昨晩の一事など無かったかのような振る舞いだ。

 そうして一通り見て回ると孤児院の『ノアの止まり木』に進路を変え、ショートカットになる人気の少ない路地に入った。

 それに続いて大柄な影がセノディアの背後の通路を遮る。


「よぉ兄ちゃん。……あぁ、振り返る必要はねぇ。何も言わずに俺の指示に従ってくれればそれで良い」


 気配を感じて振り返ろうとしたセノディアだったが、腰に鋭利な物体を押しつけられていることを察し、黙ったままコクリと頷いた。低くドスの利いた声で相手は男だと分かる。

 男は目深に帽子を被っており、周辺を歩く一般人からバレないよう布で隠しながら抜き身のナイフを腰に突きつけていた。


「……昨日の男か」


 セノディアの黒髪が風に揺れる。これが仇となったのか、セノディアはすぐに昨日の奴隷売買関係者と思わしき男に絡まれたのだと判断した。やはり昨晩逃げた後に『始まりの宿』へと帰らなくて正解だったようだ。もしも逃げ込んでいたら袋の鼠――――闇討ち、暗殺、なんでもありだっただろう。


「黙って鞄は俺に寄越せ。振り向かずに前を向いたままだ」

「……」


 セノディアは再びコクリと頷いてショルダーバッグを取り外し、後ろ手に男へと渡した。男の注意がバッグに逸れたため、顔を少しだけ動かし目線を左右へ散らす。


(1……2……結構いるな)


 すると裏路地を塞ぐ男の腋から、露店の商品に目もくれずこちらを睨む女や、同じ歩幅で斜め後ろから付いてくる二人の男など、雑踏に紛れた怪しい者達がいることに気づいた。万全の状態で周囲を取り囲み、二度目の失敗をしないよう徹底してしているのだろう。


「何だァお前、弓矢も持ってたのか? 用心深いな」


 男はセノディアの小振りな弓と腰の矢筒を引きはがしその辺に捨てた。


「よぉーし、素直で良い子だ……。昨日も大人しく回れ右して帰っておけばこんな目に合わずに済んだのになぁ……? っと、お前は喋らなくていい。黙って真っ直ぐ歩け、ゆっくりだ……」

「……」


 命令されるがまま、忙しなく蠢く雑踏からドンドン離れていくが、ゆったりとした足取りで歩いた。いくらメーンストリートから一本離れたとは言えどもまだ人はいるからだ。


「次は右……。そこを左だ」


 時折、曲がる方向をナイフで突かれながら歩いていく。やがて人混みがサッパリなくなった路地裏へと誘導され、人一人が通るのもやっとな袋小路に追いやられた。


「両手を挙げろ。まだ振り向くな」


 言われたとおりに両手を挙げる。男は徹底して顔バレしないように気をつけながら、セノディアのバッグを背面に放り投げた。


「……どうやら昨日のペットはいねぇみたいだな?」

「おーい、コイツはもらっていいのか」

「あぁ好きにしろ」


 既に見張り役の男がバッグを受け取った男は路地の見張りに回るため、中身を漁りながらその場を去った。


「随分とまぁ……ノコノコと姿を出せたもんだなぁ?」

「いっ……――――!」


 男は骨太な手でセノディアの肩をギュウと上から抑えた。昨晩、ナイフを投げつけられた箇所だ。包帯や赤ポーションなどを使ったが、まだ完全に癒えていない。


「陽が出れば接触してこないとでも思ったのか? ……っとと、大声を上げるなよ。兵士にバレたら面倒なんだ」


 思わず傷の痛みに声を上げそうになるが、ナイフで背中を小突かれた。早朝だから大声を出すなということらしい。その意図を汲み取ったセノディアは歯を食いしばって堪えた。


「昨日は散々だったなぁ。《飛竜ワイバーン》みてーなモンスターに髪の毛は燃やされるし、責任とって指を詰めたし……。お前のせいで俺達の信用はガタ落ちだ」


 その言い方からして、顔は見えないが昨晩自分を追ってきたどちらかの男だ。しかし聞き覚えのある声だったため、ショーンを殴り、『ラビット・フット』所属の冒険者だろうと分かる。顔を見せないくせに自分のことはペラペラと喋るのかと、セノディアは鼻で笑った。


「殺されないだけラッキーだったろ。三流」


 せめてもの抵抗に軽口を叩いたセノディアだったが、それは間違いだった。男はセノディアの体を180°回転させて向かい合う形にした。もう顔を隠すつもりは無いらしい。


「俺達はプロだ。それを今から体に教えてやる」

「ガッ――――」


 ドスッと鈍い音がセノディアの腹に吸い込まれた。前屈みになり悶えるセノディアの髪を掴んで無理矢理顔を上げる。


「口には気をつけろ。自分の立場が分かってねぇのか?」

「どうせ……殺すつもりは……無いんだろ……」


 昨日も男に呼びかけたことを再度問い返す。殺すつもりが無いのなら幾らでも情報を引き出し放題だ。


「もう一度言うぞ、立場を弁えろ」

「ガッ――――!」


 ただし、痛みは伴うが――――。

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