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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
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冷酷無比は優しさの裏返し?(2)


「も、モミジちゃんだってセノの事が心配でしょ!? 今すぐ助けに行こうよ!」


セノディアに懐いているモミジならきっと自分と同じ。何もできない歯がゆさに同調してくれる。そう期待して声をかけた。


「それは……。はい……心配です……。できることなら助けに行きたいです……」

「ほら! モミジちゃんもこう言ってるよ! だからリリーちゃん、早くさっきの所に戻して――――」

「けど……! けど、それじゃダメなんですッ!」

「――――ッ!?」


 だがアトリアの期待通りの返答は返ってこなかった。無言を貫いていたモミジは俯いた顔を上げ、声を荒げた。人形のように可愛く整ってたドワーフ顔は不安と恐怖でくしゃくしゃに歪み、目尻には涙が浮かんでいる。

 だが、その目にはリーダーを失う恐怖と不安のみならず、確固たる"決意"が宿っていた――――。


「アトリアさん……私も……私もセノディアさんが心配です……! 私だって悔しいんですよ!」


 生まれてこの方怒鳴ったことなど無いのだろう。か細い声量ながらも杖を強く握りしめて力の限り意思を伝える。


「こういう時にしか私の魔法なんて役に立たないのに、戦えるからセノディアさんとアトリアさんと一緒にパーティを組んだのに! それなのに……それなのにぃ……ヒグッ……」


 嗚咽が混じり尻すぼみになりながら、モミジはまた俯いてしまった。どうしてもセノディアがあの男達に始末されるような、ネガティブなイメージが拭えない。小刻みに震える小さな体がそう物語っていた。


「だったら何でダメなの!? 僕だって同じだよ! 《ソードマスタリー》なんて大層な力持ってるんだもん! 戦うことでしか、セノディアの助けになれないでしょ!? 無力なのが嫌なんでしょ……? だったら……だったら助けに……」

「それじゃダメなんです……ダメなんですよ!」

「モ、モミジちゃん……?」


 双眸に雫を携えて訴えるモミジに――――アトリアは普段と打って変わって感情を露わにする彼女にたじろぐ。互いに一歩も譲らないように見えたが気迫に押されていた。

 以前までのモミジなら、ことなかれ主義で流されて、物事を荒げないよう黙ってやり過ごしていただろう。彼女は生来そういう大人しい性格をしていた。

 だから、ドワーフの里で自分の魔法の才能が疎まれた時も疎まれるがままにしたし、誰にも迷惑をかけず、尚かつ魔法を好きなように使いたくて里を発った。

 ――――だが同時に、気弱な見た目とは裏腹な強情さがなければ彼女は故郷である『ドワーフの集落』で魔法など調べようとしなかっただろう。彼女は胸が張り裂けそうな気持ちでいっぱいになりながらも必死に意思を貫いた。

 それは今も同じだ

 自分をパーティに迎え入れてくれて、年少だから、種族が違うから、異性だから、人間の街に慣れてないだろうからと、色々と気遣ってくれたセノディアを――――絶対に曲げない芯を、信念を持ったセノディアをモミジは知っている。

 本心はアトリアと同じだ。今すぐ助けに行きたい衝動に駆られ、捨て身を良しとしたリリーを責めたい。

 それでも彼女はグッと堪えた――――。

 尊重すべきは、我が身を捨てて自分達の身の安全を確保したセノディアの意見だ。それがパーティリーダーの、初めて心の底から信頼できた『人間』の選択だから――――。


「セノディアさんならきっと……グスッ……きっと逃げ切ってるに決まってます! だから……今は、セノディアさんが帰ってきた時の事を考えませんか……?」


 そう提案することでしか、戦闘面の補強としてモミジのパーティ加入を許したセノディアに、戦闘以外で彼に報いる方法が無いと知っているから。

 モミジの体の震えも涙も止まっていない。何も手助けできない自分が――――何も頼られなかった自分が情けなくて悔しくて仕方ないが、


「モ、モミジちゃん……」


 大人びたモミジの発言にアトリアは面を食らっていたが、やがて我に返ると、さっきまで直情的だったのが嘘のように冷静な自分が戻ってきていた。


「そう……。……そうするのが、セノにとっての、一番……。うん……。うん……」


 モミジの意見を反芻する。


「モミジちゃんの言うとおりだね。僕たちは、僕たちにしかできない事をしよう。リリーちゃんごめんね、僕たちを助けてくれたのに……」


 アトリアは沈痛な面持ちで、喉から絞り出すように謝った。リリーは二人の言い争いを相変わらずにやついて見ていたが、軽く頷くことでそれに答えた。


(ダメだなぁ……僕は……。僕もセノと同じで、あの頃から何一つ変わってないや……)


 モミジとリリーの「助けに行かない」主張は、アトリアに、ここにいる誰よりも、自分が我が儘な子供だったと痛感させるには十分だった――――。

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