議場-010 そこにいるサテンを捉えよ!
第一皇子が、厳しい声で言う。
「偽バイローンの言葉を聞くな。嘘である。反乱者はここにいる。この者こそが、反逆者である!」
と言ってすぐに、偽バイローンへ飛びかかる。しかし、偽バイローンは、衛兵に向かって、簡単に、そして素早く、
「そうだ、反逆者だ。そこにいるサテンを捉えよ!」
と声を上げると、戸惑って立ち止まっていた衛兵がサテンへ飛びかかり腕をひねり上げながら、引き釣りあげるようにして立たせた。偽バイローンは第一皇子に組み敷かれ、第一皇子は偽バイローンの口を、手を突っ込むようにして塞ぐ。と、その時、議場の中から、しわがれた議長の声で、
「まずは、軍を閲兵の間へ集めよ!」
と声を上げているのが聞こえた。第一皇子は慌てて、偽バイローンの上から議場の中へ、
「内乱者はここにいる。外ではなく、王宮の中である! ここだ!」
そしてさらに、サテンを捉える衛兵へ、
「この者を、この偽バイローンを抑えよ」
と偽バイローンの片腕を引き上げ、衛兵へ指示を出した。衛兵はどんよりとした目で皇子を見つめる。そして、自分たちの腕の中のサテンを見つめる。第五皇子を洗脳した犯罪者、と言う意識が大きく、皇子の言葉に反応するのが難しい。偽バイローンが口を拳に塞がれたまま、鼻から息を吹きだすようにして笑った。口の中で何かつぶやく。
「洗脳の基本は事実を混ぜる事でさぁ」
と言っていたのだが、第一皇子には分からなかった。第一皇子は、
「この者が、みなを洗脳し、内乱へ導こうとしている者だ。軍を集め、ペルシール地方へ向かえば、内乱を助長する事になる! ここで、この者を捉える事こそが国の為である!」
としっかりとした声で言うと、衛兵達はゆっくりとサテンを見て、そして、何の反応もなく冷めた目で見つめるサテンと目が合うと、何か怖いものを見たかのように視線を外した。そして、皇子がさらに、
「こちらだ。偽龍として周囲をだまし、今まさに人々を洗脳しようとしているのは、私が捉えた、こちらの偽龍だ。口を押えて、洗脳をといている。ゆっくりと、はっきりと周囲を見回せ」
と言うと、一人がサテンの腕を捉えたままだったのだが、他の衛兵がゆっくりと動き出した。そして、偽バイローンの腕を取り、第一皇子の手から外し、皇子の拳の代わりに、彼らの腰飾りのスカーフを引きはがして、偽バイローンの口に突っ込もうとした。とその時、廊下を駆けてくる姿があった。
巨大なガラス窓の続く回廊は、離れた先で岩山の中へ折れ曲がる。人影は、その回廊の端から飛び出すようにやってきた。と思うと、おもむろに、皇子の前で、サテンに飛びかかって、サテンがゆっくりとした動きで再び窓を背に倒れ込むと、その上にまたがって、一声叫んだ。
「たったいま、このララルーア様が臣下が、このバウンが、殿下の御前にまかり越しました!」
と言ったかと思うと、
「先ほど議場中へ鳴り響びきまました殿下がご指示、このララルーア様の臣下がしかと受け留め、捉えましたぞ!」
と怒鳴る。驚いた顔の衛兵や、戸惑った顔の第一皇子をものともせずに、大きく息を吸い込むと、
「ララルーア様の臣下が、バウン、このわたくしが、反乱を企て王宮へ侵入した、龍と名乗る男を、サテンを、これこの通り取り押さえました。これは、ララルーア様のご指示であります! ララルーア様が、サテンに騙され、王城へ引き入れる事になった事を幾重にも悔やまれた結果、わたくしをここへ遣わされたのでございます!」
と一息に言い切った。第一皇子が茫然としている中、衛兵は偽バイローンを手放して、サテンへ向かって動き出す。
バウンは、議場に来るまでに、思った以上に時間がかかった。王宮に入りさえすれば、ララルーアとすぐにも連絡が取れる手はずになっていた。なのに、ララルーアの場所が特定できない。バウンには信じられないことだった。王の間かと問えば、王は王の居間にはおられない、という返事が返る。ならば、どこだと聞き返すと、官吏はおろか、口の軽い侍女達も、はっきりした場所は分からないと答える始末だ。ララルーアは、確かに、いつもほっつき歩いていて、なかなか場所が分からないのだが、王も同じように分からないと思わなかった。ただし、夜の議場が始まれば、最後には王がそこに来るはずで、そこでならララルーアの所在が分かる人に会えるはず。と、思って来た。そこで皇子の声がしたのだ。
「反乱者である、捉えよ」
とバウンは青ざめ、ララルーアの罪をぬぐうためにも、真っ先にサテンを捉えて見せようと、駈け出していた。




