議場-009 さあ、軍を集めましょうかね
サテンの様子に、偽バイローンは気づかない。
すっかり背を向けていたので、見えなかった。それよりも、第一皇子へへらへらっと笑って見せて、滔々と、
「第一皇子には、このまま、国軍を出してもらいましょうか。ペルシール地方は俺の土地なんで、変な内乱は困るんですわ。蜂起をしている反乱分子をせん滅する、なんていうのは、国が良く使う宣伝文句ってとこですし、いかがでしょう? 龍の寝床に軍を集めてもらいましょうかね」
と言いながら、目尻が鋭くなるほど細めて、皇子を探る。第一皇子は足を踏み出し片手を広げ、剣を下げた偽バイローンへと距離を測る。
「ペルシール地方は、まだ、おまえの土地ではない。カエランラ殿が宣言したのは、サテンは偽龍だ。と言うだけの事だ。おまえを認めたわけじゃない」
「で、ララルーアさんの土地だとでも? あの土地は、あそこに住んでる人間のもの。違いますかい?」
「おまえの土地ではない。それだけは確かだろう」
と皇子が言うと、偽バイローンは腹からおかしそうに笑いだし、
「住んじゃいないと、なんで言い切れるんですかい? 俺はここの生まれじゃない。どこの生まれか知らんでしょ」
「ペルシール地方生まれだと言うなら、とっくにそう断言していただろう」
「ペルシール地方の圧政を憂いているのは確かでさ」
「それで? だから自分に土地をくれ、とでも言いたいか?」
そう言った刹那、第一皇子は偽バイローンに飛びかかる。偽バイローンが振り上げた剣を片手で受ける。細身の剣の平を軽く弾いて。偽バイローンが剣を両手でつかみなおす。と、その隙に、皇子は踏み込み、偽バイローンへ体当たりして、吹き飛ばす。次代の王にと腕を磨いた皇子の剣は伊達では無い。と、皇子に弾き飛ばされて、偽バイローンは大声を上げた。
「誰か! 反乱である! 謀反である。衛兵を呼べ!」
と腹へ響くような声だった。皇子が困惑した顔をすると、偽バイローンは晴れやかな笑顔を作った。そして、気持ちよさそうに、満面の笑みを見せて、
「さあ、軍を集めましょうかね」
とつぶやいた。そこで、ばたばたっと議場の扉が開け放たれて、中から人が飛び出した。扉を蹴とばすように飛び出してきたのは兜をかぶって槍を持った儀礼兵だった。その脇から飛び出してきたのは、侍従達で、そろそろ議場が終わるのに、なんで今まで廊下に出なかったのかと慌てて飛び出したようだった。そして、その後、中央の議長席へと繋がっている階段通路から、議場で会議が白熱して殴り合いにならないようにと管理していた衛兵たちが飛び出してきた。その衛兵たちが、皇子を見つけて立ち止まり、座り込んでいる偽バイローンを見て戸惑って、窓に座るサテンを見つけると、そちらに向かって駆け出した。サテンは牢にいるはずの、第五皇子を洗脳した偽龍のハズだった。皇子は慌てて、
「バイローンだ。そちらじゃない。この男だ。こっちが偽者であり、反乱者だ!」
と言うと、偽バイローンは首を左右に振った。信じられない、と言っているようにも見えた。そして、大声に出して、
「ああ、反乱です。ペルシール地方での反乱です! 軍議を開けと、陛下はそうおっしゃっておられます。みなさま気を確かに! 我らが王の声をお聞きください!」
と綺麗に響く声で言った。第一皇子はとっさに叫んで言い返す。
「私は皇子だ。陛下じゃない。王陛下は、ここにはおられぬ。忘れたか!」
と言うと、偽バイローンは、
「さあ、陛下もこうおっしゃっておられます。忘れたか? と。陛下は議場へ入りたい、とおっしゃっている。道を開けよ! 中へお通しせよ!」
と言うと、入口に群がっていた人々が、そそくさと道を開けて第一皇子を見つめた。どこか何かがおかしい、と思っているのか、視線が左右に揺れていた。しかし、偽バイローンが、
「そうです。次の議題は、派兵についてです。すぐにも決議が必要です」
と言ったかと思うと、偽バイローンは、ゆっくりと立ち上がり、
「決議を待ってでの派兵では遅すぎる。そうです、素早く動くためにも、軍を集めて士気を上げねばなりません。龍の寝床へ、閲兵の間へ、国軍を招集しましょう!」
すると、侍従がそわそわっと動いた。そうだ、軍が必要だ、と感じたようだが、呼ぶのは彼らの仕事じゃない。偽バイローンは口の中で舌打ちしつつ、表情はそのままに、真剣な声を出して、
「議長! 今すぐに、軍への指示を!」
と中へ向かって大声を上げた。




