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龍の生まれる国  作者: るるる
第一部 王城の龍 議場
95/128

議場-007 廊下は月明かりに照らされて明るかった

皇子は苦い顔になる。


「そうやって、王宮を責め続けていれば、本物のバイローンが地下牢で亡くなっても許されると思っていたのか? それとも、何かの時間稼ぎをしているつもりか?」

「人のせいにしないでいただきたい。あの牢を、死んでしまうような場所にしているのは私ではなくあなた達だ。私がしたことは、単に、衛兵に偽バイローンがやって来たから捕らえよ、と伝えただけだ」

「嘘ばかりで私をごまかせると思うな。捕らえよと言われただけで、あの地下牢に連れて行く人間はいない。刑期を決め極刑を告げられた場合のみだ」

「なら、サテンはいつ、極刑を告げられたのでございましょう?」

「第五皇子を洗脳したのだ。極刑以外のどんな罪があると言うのだ」

「しかし、今はあなたの背後であなたを守っています。つまりは、そのくらいいい加減に自分達の都合のいいように権力を使っているだけなのですよ。そして、私達はそれが許せなくなったのです。と言うよりも、身に危険を感じて、黙っていられなくなったって方が正しいんだよ、皇子さん」

とがらりと変わった口調になった。これが本来のこの男の話方だったようだった。

「さて殿下。ここで、殿下を陛下とお呼びし、議題が進むたびに意見を聞くようにみなに言って聞かせましょうか? ここを玉座代りにし、殿下を陛下に押し上げるのも一興かと存じます。みなの目に焼き付ければ、今後誰ひとりとして、殿下の王位を疑う者も出ますまい。それとも、私と廊下に出て頂きましょうかね?」

偽バイローンが、かがみこむように皇子の顔を覗き込んだ。遠目には深く会釈しているようにも見える。途中から声が下がり、何を話しているのか分からなくなったのだが、議場の人々はなぜか、心からホッとしていた。恐ろしいほど強かった心へ掛った圧力が、声が聞こえなくなると同時に薄れだす。

「廊下へ出よう」

皇子はそう言って、偽バイローンを見た。皇子の目は怒りに鈍く光っていた。偽バイローンは満足そうな、何でもないようなそぶりで、

「では殿下。お腰の物をこちらへ。廊下に出てすぐ切りかかられては、みなが何ごとかと思うでしょう。衛兵に、何度も何度も暗示をかけて、心を壊したくはないのです」

皇子は腰に下げていた飾りの多いほっそりとした剣をすらりと鞘ごと抜いた。議場に出る時の儀典用だが、それなりの備えになっていた。

「殿下、ありがとうございます。それでは、共に参りましょう」

偽バイローンはそう言って、扉へ下がった。後ろ手に扉に手をかけ開けようとする。皇子はすぐさま飛びかかった。偽バイローンは下がって、扉の向こうへすり抜けた。が、皇子はそこでさらに追い掛けて、扉にぶつかるように廊下へ飛び出た。しかし、一瞬遅かった。偽バイローンは、皇子の剣を抜き払いサテンの首に当てていた。サテンはされるがままに腕をつかまれ、偽バイローンに引き寄せられて立ちつくしている。

「良い子だ。そのまま、大人しく、だ」

偽バイローンはサテンへささやき皇子を眺めた。


廊下は月明かりに照らされて明るかった。外へ面して延々とアーチの窓が連なって、静まり返った夜の庭が見下ろせた。黒い森が海のように見えた。広い廊下は誰もいない。石畳の廊下に幅十メートルもある臙脂色の絨毯が敷かれているだけだ。衛兵はもちろん、官吏達も女官も、普段なら自分達の主を待って立ち話をしている近従や従者達も姿を消している。偽バイローンはサテンの腕をつかんだまま、皇子へ言った。

「皇子、あんたは優しい人間だ。何の罪もない者の血を見たいとは思わないだろうね」

皇子は静かに偽バイローンへ向きを取る。偽バイローンはサテンを動かし距離を取る。皇子は聞いた。

「それで。おまえはこんなところで何をしている? 私に愚痴を言う為にバイローンに化けたのか? チェシェ村を救いたいと言い、ペルシール地方の横暴を非難したのは嘘か? 私と陛下を戦わせて、いったい何になる? 何がしたい? この城での内乱か?」

と言った途端、皇子は乾いた声で笑った。かすれた声が噴き出ただけのようにも聞こえた。

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