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龍の生まれる国  作者: るるる
第一部 王城の龍 議場
92/128

議場-004 諸君は、静かに話を聞く義務がある

「さて、議場の諸君。夜の審議は三つに絞っていただくぞ。どうしてもと言う議題をあげ、採決で選び、審議を始めよう」


砕けた分かりやすい言葉で議長が言うと、次々に声が上がった。


北方の分水嶺についての重要性を叫ぶ者や、東岸の海賊討伐が国の浮沈にかかっていると力説する者もいた。町での徴税制度について、違反者が続出するのは官吏の不正があるからだと、徴税権を領主へ戻すようにと主張する者もいれば、米粉と麦粉の王国の専門札の数を増やして、扱える商人を増やさなければ、価格が暴騰して混乱が生じると訴える者もいた。休憩の間に根回しができていたのか、まとまった議題が五つほど上がり、中、三つを議題にしようと採決で決まる。


「では、今宵の議題は、分水嶺と、徴税制と、専門札について行う」


議長が採決を終えて宣言すると、議場をため息が包む。話すだけで終わりのない話題だ、とすでにあきらめの空気が漂い始める。利権が絡む話は二転三転して、結局物別れに終わるのが落ちだった。だからこそ、議場で主張する必要があるのだが、主張したい人間は常に主張し続けているため、内容はほとんど誰もが知っている。おかげで、どこで誰が敵味方に分かれたかを見極めるための議題になったと傍観を決め込む体制になる。力説して、議場に響く声で主張する者がいるのだが、おしゃべりが増えた。議長が大声で、

「諸君は、静かに話を聞く義務がある」

と怒鳴るのだが、彼らは声をひそめる程度のことしかしない。

「決める気がないのか?」

とサテンが聞くと、皇子が生真面目な顔でひそかにあくびをかみ殺し、

「陛下が最終判断をなさる内容ですから」

「その陛下とやらは、ここにいないではないか」

「王付きの者達が、廊下近くの扉にいます」

「それなら、王の前で主張すればいいだけのことだ」

「議場で人々を納得させられなければ、陛下へ注進してはもらえません。正しい主張があってこその陛下への請願です」

「手間ヒマのかかることだな」

「王だけの裁断ばかりでは、不平を呼びます。国内に分裂を生むよりは良いでしょう」

「して、この議題はいったいいつから続いているのだ?」

サテンは皮肉な目の色を見せた。皇子はしばし黙った。が、しぶしぶと言った様子でサテンに告げた。

「三年ほど前から、徴税者についての議題があがっています。しかし、最近は官吏の横行も改善されていますから」

「直に徴税するうまみのある部分を地方へ移行するわけがない、ということか。不満をここで聞き、徐々に対処をしていき、より有利に運ぶように時間を稼ぐ。よくできたシステムだ」

サテンの言葉に、皇子は低くはっきりとした声で告げる。

「独裁的な王政では、この大きさの国を支配するのは難しい。かといって、全てを貴族や領主に任せていては利権のうまみが大きすぎる。欲をなくして公平に動ける人間は数が限られている。より良い結果になるように、王国をまとめていくかなり良くできたシステムだ、と言っていただきたいものです」

「それで、ララルーアをペルシール地方の領主にしたのですか」

続いた声は、サテンの声ではなかった。


皇子がはっと振り向くと、バイローンが立っていた。背の高い穏やかな表情の、第五皇子の子守をしていたバイローンだ。偽バイローンだった。ほどよい上品な上着に、華やかに見える刺繍の縁取りをし、膝丈の上着には、腰に幅広の押し型の革ベルトを締め、腰には細い飾り刀をさしている。頬に影が落ちて眼が鋭くなっていたが、にこやかな表情で中に足を踏み入れた。その姿は、人の良い、いつもの好青年の姿だった。


サテンは幕の傍で扉に背を預けるようにして立つ。腕を組み、表情もなく眺めている。外にいるはずの衛兵は、黙って彼を通したらしい。玉座の間のことを知っているはずの衛兵が、第一皇子を守護しているはずだったのに動かなかった。扉が開いたままで廊下が見える。偽バイローンの後ろでは、月明かりが淡く廊下を照らしていた。夜の帳が落ちていた。

「ララルーアのような女が良い領主となると思って、ペルシールへやったのか。それが、王の良識ある公平な判断だったと言うのか」

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