子龍-011 玉座の間の籠城
「私がまいります」
第一皇子が言った。
「第五皇子に、この部屋へ来てもらえば良いだけのこと。本当にサテンの解放が目的ならば、ここへ参るのではありますまいか? 玉座の間の籠城よりは、この部屋での籠城の方が聞こえも良いかと存じます」
王はため息をついた。
「で、どうやって、サテンがここにいると証明するのかえ?」
「第五皇子の傍にいる者を連れて参りましょう。その者に証言させれば」
「信じると思うてか? わざわざ、第五皇子と敵対するお前の部屋へ、本当についてくると思うてか」
「ならば、玉座への道の途中でサテンを立たせ、遠目に分かるようにいたしましょう。牢から出ているのは一眼で分かるはずでございます。向こうも気を静めるのではありませぬか」
「確かにの」
「陛下、陛下はすでにご承知かと存じますが、ペルシール地方への侵略があるとの噂がございます」
「王宮にも侵略があるぞ」
と王は皮肉か声で言った。ペルシール地方は噂であって、この王宮では噂じゃない。その違いも分からぬか、という空気があった。しかし、第一皇子は言葉を緩めず、
「今、この瞬間、王宮が身動きできぬ状況であると、ペルシール地方はもちろん、他国へも知られるようになっては、何が起こるか分かりませぬ」
「して?」
「すぐにでも、このサテンを連れて、私が第五皇子の説得に当たらせていただけましたら」
「なぜ、そこまでして、このサテンを信じるのじゃ?」
「なぜ、とおっしゃられても。今は、それしか手がありません」
「第一皇子。なぜ、今、この瞬間、おまえの下にサテンがおるのじゃ?」
王の言葉に皇子は用心深い顔になった。いつもの無茶を、この時、この瞬間に始めるのか、と用心したのだが、王はその顔を見て、
「ほぉ、疑問なぞ持たれぬと思うておったか。わしは老いさらばえておるからのぉ」
「陛下? 今はそのような事をおっしゃられている時ではありませぬ」
「そのような、とはどのようなじゃ? サテンは、第五皇子を洗脳した。その上、第五皇子は、はきはきとしゃべるようになり、王はサテンじゃと言うておる。わかっておろう? そのサテンが、今、この瞬間お前の宮にいる意味を? すべてはララルーアが第五皇子を焚きつけたと言われているが、本当のからくりは、第一皇子、おまえがやったのではないか? おまえがたくらみ、はきはきとしゃべるが、深くは考えられない第五皇子をはめたのではあるまいか? 今、この瞬間、第五皇子を説き伏せてみて、お前の地位は盤石になる。と言うのがお前のねらいであったのではないか?」
「まさか。それほど姑息な事を私がすると御思いですか?!」
「ならば、なぜ、サテンを見つけた時にすぐに衛兵を呼ばなんだ」
「それは、けが人がおりまして、その手当が先だと」
「アントラックは呼んでいる」
「アントラック殿と親交のある者のようでした。ですから、確かめるためにでございます」
「それで、偶然、うっかり、衛兵を呼ぶのを忘れた、と言いたいのか」
「牢から出てきた者であったため、事情を聴き、真相を知るまでは、他者に手を出させたくないと思ったのでございます」
「ほぉ。皇子とは立派なものであるのぉ。アントラックを手のうちに取り込みたかったのではないか? アントラックの手の者かもしれないと思った時に、おまえは、味方にできると計算したのではないか? カエランラが離れて行っておまえの周囲はちとさびしいくなっていたからのぉ」
「もちろん、そんなつもりはございません」
「つもりはなくてもそう見える。そう見えるような手を打ったのはお前である。第五皇子の件がなくても、おまえはどうやって申し開きをするつもりであったのか? ええ?」
「陛下。あの王宮にいるバイローンは偽者でございます。そこのソファーにいる者こそが、本物のバイローンでございます」
と第一皇子は説明抜きですらりと言った。とその瞬間、王が大音声に怒鳴った。
「そんなことを聞いているのではないわ! おまえは世継の地位が確定していない時から、わしに謀反を企んでいると思われても仕方がない動きをしている、と言っておるのじゃ! 何を考えておるのか、と言うているのじゃ。おまえは頭がないと訴えたいのか?!」
「いいえ。申し訳ございません」
と第一皇子は言ってさっと頭を下げた。顔色は青ざめているが、顔には驚きが昇り、目には力が湧いていた。世継の地位の話がでた。それはすなわち、自分は認められているのだ、と感じたのだ。それが、叱責以上の力になった。




