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龍の生まれる国  作者: るるる
第一部 王城の龍 子龍
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子龍-003 バイローンと言う子守を呼んだ

そして、軽くバイローンの腕をつかんだ。


バイローンは、引きずられるように立ちあがった。足の筋肉は萎え、踵の骨がむき出しで床にあたって音がしそうだ。でも、痛くない。痛いと言うのがどういうことか分からない。サテンが歩きだすと、不思議なことに、横にいるだけで同じように足が動いた。バイローンは、一緒に並んで歩きだす。サテンはゆっくりと男に言った。

「カエランラと言う第五皇子思いの男が、バイローンと言う子守を呼んだ。お前の事だ。そして、バイローンと言う子守は、いつの間にか、バイローンと名乗る別の男に変わってしまった」

「もう一人のバイローン、偽物か」

と男がつぶやいてから、

「俺の方が偽物だとは思わないのか?」

とサテンへ聞くとサテンは喉の奥で笑った。

「なぜ嘘をつく必要がある? 魂になって、嫁に最後の言葉を伝えに行こうとしているお前が、嘘をついてどうする?」

バイローンはさらに聞いた。

「おまえは何をやったんだ? 龍だから、捕まったのか?」

「『龍ではない、龍を名乗るペテン師だ、捉えよ』と言っていたな。龍でないから捕らわれたのだろう」

と言った。バイローンは困惑していた。これが龍でなければ、いったい何なのだろう、と感じていた。しかし、言った言葉は別の言葉で、

「感謝する。メローに会いたい。会えるかもしれない。ありがとう。サテン・チェシェ。おまえの名前は、俺の心の支えだったが、これからは、おまえ自身に感謝をささげようと思う」

サテンは何も言わなかった。


その時、バイローンは、ふいと自分の足を見た。ひざの肉が欠けている。崩れている。かかとは骨が剥きだして、肉が崩れだしていた。静かに息を吸い込んだ。喉の奥の悲鳴を止めた。これほどなのに痛くない。その現実に、悲鳴が漏れそうになり、呑み込んだ。サテンは、そんなバイローンを連れてゆっくりと動き、暗い回廊を歩いていた。地下牢の詰め所の中には男達がいた。中で丸いカードのゲームをしていた。一人がカードを箱の上にたたきつけるような動きをして、そのままの姿で固まっていた。あたりを照らすランプが上からつるされていた。誰かが頭をぶつけたのか、左に揺れて、そこで、そのまま止まっている。

「なぁ、これはなんだ」

バイローンは、ランプに気づいて声を出した。

「時が止まっているだけだ。時が動くと、おまえの身体は崩れ出す。痛いぞ。かなりな」

サテンが冷めた声でいう。バイローンは、自分の手や足を見ないように視線を上げた。と、牢もこうやって引っ張り上げられたのだ、と思った。つまり、あの時は、自分の時も止まっていたのだろう。気が付いたら、牢の外に座っていた。サテンが背中に背負ってあの穴の中をよじ登ったのかもしれない、とも思った。バイローンは視線を落とすと、崩れた布の下で赤黒くただれた腿が、破れて割れた靴の中では、爪が溶けた親指が空をむくのが見えた。強引に目を引きはがす。

「一生時を止めといてくれねぇかなぁ」

と本気で言った。すると、サテンが、

「一生傷が治らんぞ」

と真面目に答えた。


二人は、無音の中、行きかう官吏や女官達の間を縫って、回廊を抜けた。誰もが時を止めている。流れるようなレースの飾りも、手にして風に翻りそうな書類の束も、触るとがつごつと音がしそうに見えた。侍従の手にした水差しの水が、片側に跳ね上がり、水しぶきが宙に上がって止まっている。服も髪も、落ちかけた書類も、揺れている盆の上のカップのお茶も。走ろうとしているのか、踏みだして宙に浮いた子供の見習い侍従も、宙にいるまま動かない。そんな中、人々を縫って回廊を行く。


サテンは、結局、王宮の南側にある、第一皇子の宮の中へ入って行った。淡い明かりは朝方のようだった。窓の光は宙に止まっているように見え、動くと広間の空気が重く、身体にまとわりつくようだ。

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