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龍の生まれる国  作者: るるる
第一部 王城の龍 子龍
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子龍-002 見上げる顔に徐々に生気が湧き上がる

男がはっきりとした動きで上をむいた。


水膨れして青ざめた額が見えた。腕がゆっくりと上がり、顔に触れる。と、その腕も、手の甲も骨が浮いていた。三か月目とは思えないほどのひどい姿だ。目は落ちくぼんでいて生気がない。が、見上げる顔に徐々に生気が湧き上がる。サテンは、

「待っていろ」

と言うと、腕を伸ばした。男が表情を消して手を見上げた。とてもそんなところへ昇るような力はない。立つことだってできない。魂になってメローに話に行く、と言うのは、言葉の綾でもなんでもなかった。それ以外には、もう無理だ、と思うところまで来ていたからだ。

「行けよ」

と干からびたような声が出た。サテンは、

「さあ」

と言ってさらに手を伸ばした。男は目の中を悲しみがよぎった。サテンがさらに、

「龍付きなのだろう」

それならば、と言うように、サテンがさらに手を伸ばした。男の肩が震えだした。泣いているのかと思ったら、うつむいて骨が見える腕で肩をつかんだ。顔は蒼白で、顎ががくがくと動き歯のあたる音がする。口が空いて息が漏れた。言葉にならない悲鳴を上げた。助かると感じた瞬間、立てない、と言う現実がそこにあった。手が伸ばれてもつかめない。自分はこの穴からは出れない、魂になったら、と言うのはあまりに馬鹿げたおとぎ話のようなものだった。汚泥に沈んで朽ちるだけ。男は、ずるっと腰を落としながらつぶやきだした。

「サテン・チェシェってのは龍の化身の名前だって聞いた。おれも龍付きって言われてたが、龍は嫌いじゃねぇ。人を食らうって逸話は、嘘だって思っていた。サテン・チェシェってのがいたから。人を助けたって龍の話があったから。あんたは、その俺の大事な理想のサテン・チェシェって、名を名乗って、穴牢に入れられられた、龍付きって言われた俺に、最後の引導を渡すのか。そこに立って、俺の魂を食らうのか」

とつぶやいて、ずるっと水の中に沈みこんだ。しゃがんで必死に耐えていた何かがぷつりと消えたようだった。気がいも何もなくなっていた。男の目の前に、らんらんと銀色に輝いた切れあがった目があった。男はその目をぼんやりと見つめながら、水に沈む。沈みながら考えた。なぜだか男がいた。牢の中、汚泥の中だと言うのに、銀色の目の男が自分をのぞき込んでいた。

「これが龍か」

と、この牢の中のバイローンはつぶやいた。第五皇子の子守をしているバイローンとは、あまりに違った姿をしていた。ほぼ朽ちかけた身体だけではなく、がっしりとした肩に、酒場が似合いそうな、兵役でも経験していそうな、手足の長い男だった。言葉遣いは荒く、朴訥な、田舎からできてた男そのものと言えそうだった。

「龍なら俺のメローに伝えてくれよ。元気で、おまえを守ってくれる子を産んでくれって。嫁げって意味で言ってくれよ。家出をして嫁に来ているから、メローは実家がなくなっていて帰れねぇ。美人だから引く手あまただ。だから必ず伝えてくれよ」

そう言いながら、銀色の目をのぞき込む。本物はこれほど力が強いのか、とバイローンは考えながらのぞき込む。まあ、こんな最後も悪くないか。最後の最後で、ましになったさ、と思ったところで、ふと我に返った。銀の目が、しゃがみこんでバイローンを覗き込んでいた。バイローンは、サテンを見て、そして、下の乾いた感触を感じて、手をそっと床へ置いた。水が無い。泥じゃない。乾いた石がそこにあった。服の上を風が流れていく。空気が動いているのが分かる。目の前には、空間があった。回廊があって、その向こうに淡い光が見えた。自分は、穴の外にいた。上へいつの間にか引き揚げられていた。何があったのか分からなかった。サテンは、驚く男を見ながら、

「動けまい」

と言うと立ちあがった。

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