第五皇子-001 私の命に答えよ!
サテンは、引きずられるまま、膝をすって身を起こす。
皇子とサテンの間に、カエランラが立ちはだかる。サテンは、カエランラを見て、皇子を見ずに再び言った。
「皇子。聞こえているな? アヤノ・オオノ皇子。龍の話を聞いて育ったと聞いている。それなら、龍の階位もわかっているな? 私の階位はどこだ? 皇子。龍になりたいなら答えよ! おまえは、おかしくなっているのか? 龍になりたくて叫んでいるだけか?! 私の命に答えよ!」
悲鳴がいつしか消えていた。サテンを睨んでいたいカエランラが、そのことに気づく。サテンは黙ったまま、カエランラを見つめている。カエランラは、後ろをそろりと振り返る。衛兵が、サテンを外へ引きずりだした。その背後から、皇子の部屋から、カエランラの声が聞こえてきた。
「皇子? 分かるのですか? 話が聞こえていらっしゃるのですか?」
サテンは、衛兵の腕を軽く振って離した。油断をしていて離された、と思った衛兵は慌ててサテンの腕を掴みなおそうとする。しかし、サテンが、扉を掴み、中に向かって、
「アヤノ・オオノ。立って、我前で礼を尽くせ」
と低く響く声で命じた。衛兵は気押されて、動きが止まった。カエランラの後でゆらりと青年が立ち上がった。青白い青年の、青ざめた顔が動く。
「私は誰だ? おまえが龍なら分かるだろう? 野に居る龍が、私に会えば、とる方法は一つなはずだ。龍だと言うなら、礼を見せろ」
低いサテンの声に、皇子は、まるで操られているように歩み出し、カエランラの脇を抜けると、サテンの前で片膝をついた。
「私は何だ?」
「王よ」
「そうだ。私への礼はどうした」
皇子は胸に手を置き、目を見開いたまま、口の中でつぶやいた。
「王の中の王よ。我が主である王よ。私を、この人間の世界から救いだしたまえ」
サテンは、皇子を見つめたまま身じろぎ一つしなかった。すると皇子は、すがるような目になって、
「どうか王よ。私をこの、陰惨たる人間の世界から、龍の世界へ導きたまえ。龍にたかるいやしい人間達の世界から、龍の世界へお連れ下さい。我が王よ。偉大なる王よ! お願いでございます。お目にかかれたことをこれほど幸せに思ったことはありません。どうぞ、このわたくしに命令をご命じ下さい」
と言って、額を床にすりつけた。サテンのすぐ足の先で、皇子は肩を震わせ、先ほどとはまったく違った、やるせない気持ちにさせるようなすすり泣きをして、何度も床に額をすりつけた。カエランラは呆然としたまま動けなかった。テラスの衛兵は皇子の動きが信じられずに、目を見開いて見つめていた。サテンは、床に頭をすりつける青年に向かって命じた。
「我を王と認めるなら、王の臣民としての態度をとれ。誇り高くあれ。龍の龍たることを、人間へ証明せよ」
「はっ」
とひれ伏しながら声を絞った。泣き声にまじったその声は、どこか悲壮さがあった。サテンは、身をひるがえして外へ出る。皇子は顔をあげて慌てて問う。
「どこへ行かれますか?」
不安そうな声だった。サテンは立ち止まって振り返る。
「わが行動に口をはさむか?!」
「めっそうもございません。申し訳ありません。わたしはただ。ただ、わたしは、これからどうすれば」
と不安に震えいた声は、おどおどした声に代わって行った。サテンは、皇子の様子を見据えていた。そして、言った。
「下で仮眠をとる。おまえは、おまえの役割が担えるように休憩をとって明日に備えよ」
「王よ?」
「寝ろ!」
とサテンが怒鳴ると、皇子ははっと頭を下げて固まった。サテンは、衛兵の前を通って、外階段を下へ行く。カエランラは、そこでやっと、現実感が戻ってきて、皇子に声をかけた。しかし、皇子はカエランラには答えない。ただ、立ち上がって、周囲を見回し、ガラスの扉の近くに簡易ベットがあると気づくと、そこへ行ってどっと身体を横たえた。カエランラが傍にいるのにも構わず、すぐに目を閉じ、寝息をたてはじめるのだった。
カエランラは、穏やかな顔で眠る皇子の顔を見つめていた。整った顔が穏やかに緩むと、幸せそうな顔に見えた。振り返ると、衛兵が行くことも戻ることもできずにテラスに立って、中と外を交互に見ていた。




