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龍の生まれる国  作者: るるる
第一部 王城の龍 皇子宮
53/128

皇子宮-004 私どもの皇子は、気にいられましたかな?

そう言えば、とサテンは思い出していた。


これが、あの若いチェラックの実父か、と考えていた。あまり似ているようには見えない。それどころか、あのチェラックは、どちらかと言うと、義父のカエランラにそっくりに見えた。


アントラックは、王都にいる商人のようなふくよかさはなく、身軽で、フットワークが軽く、世界中どこへでも出ていきけそうな雰囲気があった。商人と言うより船乗りのような空気がある。それこそが、大商人たる証拠だったのかもしれないのだが、あまり似ていない二人だった。


その時、サテンは、アントラックと眼があった。その目は深く、商人の目と言うよりも、もっと深い、何かを探している目に見えた。サテンが見ていると、アントラックが唐突に、

「私どもの皇子は、気にいられましたかな?」

と聞いて来た。サテンが黙ったまま見返すと、

「陛下はあなたにペルシール地方をお渡しになるとお決めになられたとか」

と続けた。ミラーナが頬を軽く膨らませ、

「やっぱりご存じでいらしたのよ。龍を見に来たのだわ。嘘ばかりつくのですもの」

と言ってアントラックを睨みつけた。この声は結構、広間に響いた。アントラックは苦く笑った。だがそれだけで、

「殿下をお気にいられましたか?」

と再び聞いた。それは少ししつこいように思えた。サテンは、なぜだ? という顔をして、

「膝を折れ、と命じられた」

と軽く答えた。皇子は慌てた。あれは、つい、カエランラとのやり取りのついでで、いらだちと、カエランラへ見せつけたくなって、と言いたいことがあったのだが、言えるわけもなく。また、ミラーナの驚いたような目を見ると、視線を逸らすしかなかった。

「それは…。そうでしたか。それで?」

とさらにアントラックは聞いて来た。サテンは当然のように、

「無冠の者が、王の血筋に膝を折るのは臣下の勤め」

と言うと、アントラックは驚いたような顔をしたのだが、ついで、複雑なまなざしになり、

「冗談ではなく?」

「冗談ではなく」

サテンが答えると、アントラックの姿勢が伸びた。裾を引っ張るようにして襟を伸ばすと、首を左右に振って、唐突に、

「そろそろ、お暇を」

とつぶやいた。それから、ぐるりと見回して、

「ボホ木の言い訳をしに、陛下へ報告をしにまいらなければなりません」

と言い足した。その唐突さに、聞いているサテンはもちろん、皇子も、ミラーナも、そして、聞いていないはずなのだが耳を傾けていた女官達も驚いた。アントラックは、皆の視線を受けて、苦く笑って、

「いえ、さすがに、あまり言い訳造りの時間稼ぎをしていると、ボホ木の言い訳をしようにも、するタイミングがなくなります。そうすると、本格的に陛下の不興を買いかねません」

「あなたが、陛下の不興を買うことがあるとは思えません」

と皇子が真面目な顔で答えると、アントラックは首を左右に振りながら、

「ご存じかと存じますが、あの陛下ほど、不興を上手にご利用なさる支配者はいらっしゃいますまい。まったく、商人をどう扱ったらいいのか、知りつくして居られると言うか、商人以上につらの皮が厚くていらっしゃる、と言えばいいのか。いろいろ言いたくなるようなお方でして」

と品位を下げるような言い方をして、本当の深いため息をつく。そして、驚いたような目をしているミラーナには、

「もちろん、お優しいところもございます。あの陛下は、深い深い愛情で、国はもちろん、殿下も愛しておいでなのです」

と軽く頷いて見せた。わざとらしくも見えるし、取ってつけたようにも見える。しかし、ミラーナの疑いを含んでいる目に、

「本当でございます」

と覗き込むように言った声は、真剣そのものだった。第一皇子は不愉快そうに眉根を寄せた。もっともらしく話すのは、アントラックの良くやる手だ、と思い、商人の都合の良い言葉に嫌悪しか感じなかった。しかし、ミラーナは、よくよく考え込んで、アントラックにぽつりと聞いた。

「証拠はどこにございますの? 陛下の誠意は?」

とその声は、真剣で、子供ならではの率直なつぶやきだった。アントラックは考え込むような顔になって、

「殿下が“第一”皇子であらせられるところにございます」

と答えると、ミラーナは、

「昔の誠意だわ」

と酷く落胆した声で言い返した。広間の空気はひんやりとして、辺りが一気に暗くなったような気がした。皇子は苦笑し、アントラックは表情のない目でミラーナを見て、侍従達が労わるような目で、ミラーナと皇子を見つめた。王の愛情を一身に受けていた皇子が、誰の目にも分かるほど寵愛が離れて行った、と彼らの空気が言っていた。

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