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龍の生まれる国  作者: るるる
第一部 王城の龍 皇子宮
52/128

皇子宮-003 ひょろりとした男が立っていた

「そんなこと言わないで。ミラーナ」

「わたくし子供ですもの。何を言っても許されますのよ?」

「子供でも言わない方が良い事があるのだよ。わかっているよね? 私の婚約者なのですから」

ミラーナは下唇を噛んで黙ってしまった。


「相変わらず、仲が良くていらっしゃる!」

二人がはっと顔を上げると、広間の中央で、皇子の侍従を傍に従えながら、ひょろりとした男が立っていた。大きな広間だった。巨大なガラスからは、煌煌と光が差し込み、森との一体感があった。二階ほど高さのある天井には木組の飾りとガラスでできた光る天井画が美しかった。壁は人の高さにまで彩り豊かなタイルが組まれ、床には白い石が基調のクリーム色の石の筋が彩り、奥行きのある広間に見せていた。家具は、見るからに高価な樹木と石の組み合わせで、中央に置かれたテーブルも椅子も、ずっと離れたところにある三つのソファーも、巨大だった。部屋にいると、全ての人が小さく見える。


男は広間の真ん中で、皇子を待ち構えていた。真っ赤な上着に真っ黒の細見のパンツを履いて。足には美しく黒光りするショートブーツをはき、手には細いステッキを持つ。驚くほど派手で、驚くほど似合っている。短い髪と短い顎髭は綺麗に整えられ、爪の先まで磨かれている。雰囲気を大事にするしゃれた男だったが、軽薄なところは微塵もない。灰色にみえる髪、削げた頬、くぼんだ鋭い瞳が、油断のない雰囲気を醸し出していた。皇子はミラーナを引きよせ守るようにしながらにこやかな声で言った。

「これはお珍しい。お帰りなさい、アントラック殿。ようやく世界の旅からお戻りですか?」

皇子の目は、声ほど笑っていなかった。

「恐れ入ります殿下。皇子のお顔を拝見しようと一番に参上いたしました」

「陛下のお顔を、のお間違いでしょう」

「いえいえ。陛下ではなく、第一皇子のお顔をでございます」

「いつもながら大げさな言い回しをなさいますね。ともあれ、思いだしていただいて、ありがたく存じます」

「信じていただけないのはいつもの事ながら寂しいものでございます」

男はそう言って、胸に手を当てた。まったく、寂しがってはいなかった。また、皇子が嫌っているのは明らかだった。皇子の横で黙り込んでしまったミラーナも、毛嫌いしているようだった。男は、品の良い動作で襟を抑え、微笑を浮かべると、

「さて。その、庭からいらしたお客様はどなたでしょうか? 神秘的な装いをしておいでだ。わたしにご紹介していただけませんか?」

「もちろん、知っているからいらしたのでしょう!」

ミラーナが小声で不平を言った。広い部屋が幸いして、声はどこにもとどかなかった。男は微笑を浮かべたまま、皇子の答えを待っている。皇子は、振り返らずに、

「それほど、公の方ではありませんよ。それよりも、この度は、どこへ行かれていたのでしょう? 確か、あなたが東方の峡綾地帯で人足を集めておいでだとお聞きしましたが」

「そんな話が、王宮にまで届くのですか? さすがに殿下は人脈が豊かでいらっしゃる」

「いえいえ。誰もが、あなたの動向を知りたがるだけです。私はぼんやり立っているだけで、誰もがあなたの噂をなさる。私も、あなたほど注目される存在にならなければと思うほどです」

「何をおっしゃる。一介の商人を相手に」

「それで? どちらへ?」

皇子は簡潔に聞いた。商人は、皇子ではなく、サテンを見ていた。何か口にしようとして迷っているようにも見えた。

「東の山を幾つか買ってまいりました。ボホ木で家具を作らせようと思いまして、木の数を数えさせる為にも人足を雇っただけの話です」

皇子も、アントラックの視線に気がついた。しかし、顔には出さず、

「買い出しの為に、御大が、わざわざ自らお行きになった」

「御大と言うほどの身ではありません。どちらかと言うと気が小さいせいで、相場の波を読むために、日々世界をさまよっているような身でございます」

と言っているのは、あながちウソには聞こえなかった。とは言え、皇子は信じてない。厳しい目のまま、

「陛下の指示で、木を買っていらしたと言うことですか」

とつぶやいて、さらには、

「人足まで使い」

と言うと、アントラックは聞こえていたのか苦笑して、

「いえいえ、陛下の指示ではなく。単なる商人の勘でございます」

「勘でボホ木が買えるのですか」

とさらに険しい声で言う。と、ミラーナが皇子の上着をひっぱった。不安そうな顔で目いっぱいで訴えるように見上げてくる。皇子は慌てて、

「大丈夫ですよ。ボホ木は、全てが要塞に使えるわけではありません」

「要塞用かもしれないから、殿下が不安な顔をなさっていましたの?」

とさらに聞かれて、皇子は慌てた。そんな風に用心していたのは自分だけで、ミラーナは険しい顔の自分を心配しているだけだと気が付いたのだが、後の祭りだ。慌てて、

「いえ、そうではなくて。ほら、東はペルシール地方が近い。ですから、何かとララルーア殿の神経を逆なでするような事をしてはと心配していただけですよ」

「あら、そうですわ。陛下のご指示とも思えないわ」

とつぶやくと、皇子ははっと顔を上げ、

「陛下はなんと?」

「さて、何と申し上げたらよいか。これから叱られに行かなければなりません」

としらっと言って苦笑した。ここには逃げて来たのです、と言う意味だったが、その目はサテンを見たままではなさない。目的は別だとさらしているのだが、隠しもしない。しかし、不思議なことに、話し出しもしなかった。

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