謁見の間-007 第一皇子の守役をしていただく
その脇で、当主カエランラがサテンの傍へと歩みよった。
サテンは黙って立ったまま、全てを眺めていた。当主カエランラが正面に立つと、視線を向けただけだった。
「ペルシール地方はあなたのものになりそうですな」
「龍であれば、私のものになるのだったな」
とサテンが皮肉な笑いを浮かべた。
「証があれば、ですがな。さて。今しばらくは、第一皇子の守役をしていただくことになりますが」
と言って皇子を見た。まだ、取り巻きに囲まれて話している。
「決して第一皇子に肩入れをしないように」
「それは、自分が後見役だからしゃしゃり出てくるな、と言う意味か?」
当主カエランラは黙り込んだ。そうだ、と言うには、ペテン師のような男に話すのは家名にかかわるとでも言うように黙り込んだように見えた。サテンがさらに、
「第五皇子の後見人もしているのだな」
というと、
「それは、ララルーア殿がしておられる」
と明確に否定した。しかし、娘婿が第五皇子の下に公然とついてく姿を見れば、第五皇子も第一皇子も両方ともに、カエランラの手にあるようにしか見えない。ララルーアが躍起になるのも無理はない。とサテンの視線は言っていた。
「第五皇子は哀れな方だ。それだけだ」
と当主カエランラは思ったよりも、情けのある声で言った。そこに、第一皇子が話を切り上げたのか、まっすぐ歩いて、サテンの前に立った。強引に手を伸ばして、サテンの手を握り込んだ。先ほどの、知的なやりとりとは打って変わった子供じみた強引な動きだった。サテンは驚いて目を見張り、目の前の皇子を穴があくほど見つめた。本当に穴が開くのではないか、というような見方だった。しかし、皇子もカエランラもサテンの顔には気づかない。それどころか、皇子は、サテンに話しかけだしたのだが、まるで、カエランラを無視するためだと言う様にどうでもいいことを話だした。
「ああ、まさしく、龍の手だ。と言うような手ではありませんね。本物の人間の手にしか目いない」
と言って見せる。すると、珍しいことにサテンが苦笑いを浮かべた。第一皇子はそんなサテンよりも、カエランラを意識しているようだった。
「ああ、龍だと言うのに人間らしい表情を浮かべている。さあ、あなたのあなたらしいところをもっと私に見せてください。それが楽しみで、こんな恐ろしいところまで来たのですから」
と言って、サテンの片手を引っ張った。はたから見ていると、子供のような無邪気さに見えた。皇子は、二十歳になったばかりで、まだまだ子供なのだと、貴族は思った。また、中にはこのあけっぴろげな所が、これから、この王国の気風になる、と期待しているものもいた。
サテンは手を引かれて歩きだした。これもまた、不思議な動きだった。これまでの傲慢な男とは思えない姿だった。しかし、それに気づくほど、サテンを知っている者はいなかった。当主カエランラは、一人置き去りにされてしまった。まったく断わりを入れずに、今、話していた物を横取りにするような強引さは、不自然と言うよりも失礼だった。しかし、彼は何も言わなかった。皇子だからと言うよりも、いわくがあるようにも見えた。皇子は、サテンの手を引っ張りながら、王族の通路へ入る。幕を上げさせ、通り抜けると、手を放して振り返る。
「悪かった。話しの腰を折って」
と普通にサテンへ謝罪した。サテンは自分の手を取り戻し、黙って第一皇子を見下ろしていた。皇子は攻められていると思ったらしい。そして、さっきの振る舞いは、自分でも子供じみていると思ったのかもしれない。言い分けするような強い口調で、
「ここは、王の国である。一つの家柄に力を持たせ、権力闘争で国を荒らさせてはならない」
と言った。サテンは黙ったままだ。皇子は、否定されていると思ったのだろう。
「私は、王になるために生まれ、王になるために育てられた。王の宣下は、私に下る。第一と言う皇子の呼称も、王が自らお付けになられたものだ。少ない孫の生存率のせいで、第五皇子を気にかけておいでだが、次代の王は私だ。だから、王の国を守る責任は私にある」
と強く口早に言った。




