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龍の生まれる国  作者: るるる
第一部 王城の龍 謁見の間
42/128

謁見の間-005 第一皇子はまっすぐ王を見た

王の前でじっと立ちつくしていた付き人が、冷や汗をかきそうな顔をする。貴族達も視線を落とす。当主のカエランラが皇子を見る。第一皇子はまっすぐ王を見たまま揺るがなかった。王は目線をそらした。その様子を見て、他の王族や貴族達は、さすがだ、というようにため息をつく。王と対峙して、そんなことをできる人間は、この皇子しかいない、と言うため息だった。


王はと言うと、どうでもいい、というように手を振って、

「龍達よ、第五皇子には交互に仕えよ。第五皇子についていない時には、第一皇子の方へ仕えよ」

そう言ってから、第一皇子を見た。

「満足か?」

「ありがたく存じます」

「権威に餓えた顔じゃな。醜いの」

「申し訳ございません。しかし、私は、王の御代が末永く続きますことを心より願っております」

第一皇子の晴れやかな声に、年老いた王は表情を消した。王はクッションに体重を預けた。そして、足踏み台に両足を乗せると、脇に立ち続けている男の手をとって立ちあがった。ほっそりしたか細い身体が今にも折れそうに見えた。ゆらりと揺れる。倒れるのではと言うところで、お付きの男に手を取られて、台を降りる。

「しまいじゃ! 下がるがよい」

片手をあげて手荒く言った。そして、思いだしたようにサテンを見た。


「第五皇子は人間だと言うたそうじゃな? 第五皇子は人間か?」

「龍に見えるのか?」

「わしの血筋じゃ。龍のはずじゃ」

「ならあなたの血筋でしょう」

珍しく、サテンは譲歩したようだった。龍ではないとは言わなかった。離れたところにいたララルーアはほっとした顔をした。王はなにも言わなかった。ララルーアは、さらに満足そうな笑みになる。サテンのふてぶてしさのなせる技だと満足したようだった。


龍たる証が、必要になるはずなのだが、今はこれで満足しているようだった。その脇にいた、チェラック・カエランラは、始終突っ立ったまま全ての様子を黙って眺めていた。龍の証しと言われても、不安そうな顔にもならない。よほど、自分達の連れてきたバイローンに自信があるのか、まるで、全ての傍観者のような顔だった。


サテンの横では、紅の絨毯に立つバイローンが、珍しく表情のない顔をしていた。王の動きに気が取られ、話に気が向いていなかったのか、それとも、サテンに出し抜かれたと怒りを感じ、その怒りを顔に出すまいと表情を消したのか、それは誰にも分からなかった。


そして。王をまっすぐ見ていた第一皇子は、どこか痛みを堪えるような顔になったていた。口元がわずかに動き、何か、王へ訴えようとしたのだが、すぐにかき消し、穏やかな口元へとすげかえる。その動きも、退出する王への礼へと切り替えた。周囲の貴族達は、ララルーアがうまく立ち回った、と評価したらしい。さすがはあの女が連れて来た男だと、姑息な男がやってきた、と言うように、互いにささやき合っていた。


王はそれ以上なにも言わなかった。手を取られたまま玉座を離れ、階段を下り、脇にある王の通路の幕を上げさせ、振り返らずに、ゆっくりと出て行った。


玉座の下で、貴族達が動きだした。王族は、帽子の形が派手でその上に金の飾りを乗せていたのだが、彼らはすぐに王の後を追って、幕の向こうへ姿を消した。残った貴族達は、彼らが消えると、第一皇子のそばに集まりだした。真紅の絨毯を横切って、龍などには目もくれずに、第一皇子を目指す。第一皇子は皇子で、誰に対しても気さく応じる。


「龍をお付きにするなど、物好きなことをなさいます」

と生真面目な顔で言われると、

「私だとて王族。龍が怖いと思われては、面目が立ちません」

と言って笑って見せる。また、別の者達が、こんな龍騒ぎではなく、もっとまじめな話で、と言うような顔で、狩りやサロンへ誘いだすと、皇子は皇子で、

「うれしいことです。それで、いつ? ああ、なんと残念な。たしか、ボショル舎の教授をお招きしているころのはず」

と上手に断わりを入れている。


中には、隣国の軍事力の話をするものもいれば、豆の輸入方法への提言をしはじめる者もいて、皇子は皇子で、応じながらも、時期や量、それを知るに至った経路などを、笑いを交えながらも、要所を抑えて聞き続ける。


その傍で、第五皇子がララルーアに抱えられる様にして突っ立っていた。第五皇子に震えはない。ぼんやりした顔で宙を見たまま、腕をつかまれるに任せている。当主カエランラはいたましいような顔でそばに立つ。第一皇子の脇でこの姿は、あまりに差がはっきりと出て好ましくないと思ったようだ。娘婿のチェラック・カエランラに視線を送ると、娘婿は軽くうなずいて、マントを払って歩き出す。

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