謁見の間-004 皇子方をお連れしました
カエランラは、玉座の斜め前まで出ると、皇子二人の後ろで片足を引いた。
「皇子方をお連れしました」
「お久しぶりでございます。陛下。レアノでございます」
第一皇子がはっきりした声で挨拶する。すると、王は、軽く指を振って分かっている、という雰囲気で合図を返した。言葉はなかった。第五皇子は下を見たり玉座の端を見たりしていただけだ。カエランラが、
「第五皇子もご挨拶を」
と声をかけると、不安そうな眼を向けた。カエランラが見つめ返すと、第五皇子は喉から息を吸い込んで、笛のような音が聞こえはじめた。と、ララルーアが裾を蹴立てて飛び出してきた。
「王陛下。第五皇子は持病で声が出にくくなってございます。ハイレルート殿下も陛下のご尊顔を拝し、恐悦に思っておられましょう」
と言って、周囲の人々の視線の前に立ちはだかった。
王は眉間にしわを寄せ、前のめりだった顔を動かし、ララルーアから視線を外した。王は何も言わずに顎を振って、下がるように指図した。ララルーアに抱えられるようにして第五皇子は下がる。第一皇子はカエランラの動きに合わせるように、脇へと動く。王はそんな様子を眺めるともなく眺めていた。と、唐突にサテンとバイローンへ目を向けて問いかけた。
「龍ならこの特性は当然か? この皇子の。第五皇子の特性じゃが」
バイローンは背筋を伸ばして動けなかった。答えを誤れば、自分の首が即座に飛ぶ、と思ったからだ。しかし、サテンは、第五皇子を見つめていたかと思うと、
「特性ではなく、持病ではないか?」
と軽く答えた。
「ほぉ。龍の病か?」
「いいや。人間の病だろう」
ララルーアが抗議に動こうとして、カエランラに手で阻まれる。王が片眉を上げると、バイローンが慌てて、
「人間の中にいる龍は、人間と共鳴することで同じような病を引き起こすことがあるそうです。ですから、第五皇子の病が、龍の病か人間の病かと問われても、どちらとも言いかねる、ということでございます」
と口早に言った。
「龍でも、龍の病が分からぬのか」
「龍の医師なら分かると思いますが、われわれは龍の医師ではございません」
「ほぉ。おまえは、ララルーアの連れてきたものも龍だと言うのだな?」
バイローンは言葉に詰まった。なぜ、ここでサテンをかばったのか、自分でも分からなかった。放っておけば、もしかしたら、全てが自分の手に入ったかもしれないのに、と思いつつ。いつでも、自分の手に入るのだから、と言って聞かせて自分をなだめた。王は、そんなバイローンの気持ちに関係なく、口の中で笑った。王は続けた。
「第五皇子は大事なわしの血筋だ。二人とも心して無聊を慰めるように」
バイローンは慌てて深く会釈をした。サテンは身じろぎしなかった。そして、王は、今までよりも柔らかい声で、
「さて、第五皇子よ。おまえの守役じゃ。思う存分甘えるがよい」
と言って、二人の龍に下がるように合図した。どこに下がるのか分からずにいる二人を見て王は待つ。誰かが動くのを待っていたのかもしれない。そんな中、王は何気ない顔で第一皇子に目を向けた。まっすぐな目で、背筋を伸ばして立ちつくす姿は、じっと王の目が自分にそそがれるのを待っていたと知れた。それに気づいたのか、王は、第五皇子を見るのとは違って、固い視線を向けた。そして、周囲の者に聞こえる声で不機嫌そうに言い放った。
「呼んではおらぬ」
「はい。わがままを申して、ここへ参りました」
第一皇子は全く物おじせずに王を見返していた。そして、
「私も、龍の付き人が欲しいと思い、ねだりにまいりました」
と言いきった。
「おまえも龍が欲しいのか?」
「私も、王家の一員でございます。本物の龍を見て、我身に流れる血筋を感じたく存じます」
王は不機嫌そうな顔をした。
「そうではあるまい」
とつぶやいた。周囲に聞かすようなつぶやきだった。




