謁見の間-002 龍に対しての領地である!
サテンは突っ立ったまま、玉座の男を見つめていた。
大きな椅子の端に腰かけた小柄な男は鋭いまなざしで人々の動きを見つめていた。サテンと眼が合うと、唐突に自分の口で言い放った。
「もちろん、龍に対しての領地である! 偽物であれば、我先祖への侮辱として、即刻切り刻んでくれよう」
サテンがにやりと笑うと、王は不機嫌そうな顔になり、
「嘘とは思うな。目の前で首を刎ねる。見て面白いものではないが、先祖への言い訳をせねばなるまいからの」
と今度は普通の声で云った。バイローンは先ほどの感動とはまた別の意味で震えて曲げた膝を伸ばせなくなっていた。サテンは、目を細めた。覗き込むような王の目とあうと、サテンは言った。
「で、誰が龍を龍だを見抜く目を持っているのかね?」
よく通る、まるで小ばかにした声だった。王の傍にいた男が顔色を変えた。控えていた貴族達が黙り込む。彼らは、王をこわごわと見て、また、視線を落として身構えた。王は笑い声を上げた。喉に絡んだ笑いは、不機嫌さまる出しだった。王は不愉快そうな顔のまま、
「もちろん、わしが見抜く」
と言って、サテンとバイローンを交互に見た。
「龍の王国が二人も使者を出すとは思えん。プッシュナートを正式に継ぐのはどちらか、わしにしかと見えるようにせよ。カエランラ」
最後の部分の王の声に、紫色のマントの男が姿勢を正した。チェラックの養父で、現カエランラ家の当主だった。王の言葉は、龍を使者としてもてなすと言いながら、権力は王にある、龍ではない、と宣言するものだった。
声をかけられた、現当主のカエランラは、恰幅の良い大柄な男だった。動きが滑らかなのと、肩幅や腕の太さに、剣や武術の心得があるように見えた。しかし、豊に蓄えた口髭を固く閉じた唇に、細く鋭いまなざしは光を吸い込むような色を見せ、その思慮深さを垣間見せる。知性で大家の当主たらしめているようだった。娘婿のチェラック・カエランラも、義父と同じように髭を蓄えているのだが、こうして並ぶと、いささか若さのせいか、大家たらしめようと父親を真似ているように見えてしまう。そんなカエランラ家へ、貴族達の視線は熱く鋭く、そして、険しい物がある。
王が、
「カエランラ、第五皇子はいかがした」
と問いかけた。声には表情がない。親しく信頼しているのか、それとも、警戒しているのかさえ読めない声だ。当主のカエランラは、その声が当たり前なのか、構えた様子もなく軽く会釈をすると静かに答えた。
「お連れしてございます」
「呼んで参れ」
カエランラはうなずいてマントを翻して、王の椅子の後ろへ向かう。王はカエランラの後姿を見て、サテンへ言った。
「あのカエランラへ龍の証を見せるがよい。判断に無駄がない。もしも、証に足るものがあるとわかれば、わしがみる」
「人が見て分かるような証なぞない」
「なれば、首が離れる。仕方があるまい。龍なれば、そんなことにもなるまいが」
と鼻で笑った。王の脇でララルーアが目を吊り上げて口元をゆがめていた。そっと手にしたセンスの先を口にかざして隠していたが、震える手は隠せない。
「陛下」
とララルーアが声を上げる。しかし、王は片手を振って、黙らせる。が、ララルーアは声を震わせ涙声を上げ再び、
「陛下」
と声を上げた。王は目を細め、泣き真似を始めたララルーアを見て、申してみよ、と言うように手を上げた。ララルーアは、唾をのみ、言葉を用意し、
「この龍は、人慣れしておりませぬ。カエランラ殿のお目は確かかと存じますが、長らく共にいた者の方を、龍だと思われるのではありませんか。わたくしの連れて来た者は、龍だと証明したいとも思っておらぬ様子でございます。このような判断では、あまりに、人間よりのような気がするのでございます」
「人間より、のう」
面白そうに王は言う。こういう部分が、王に好まれるところなのかもしれない。ララルーアの言いたいところははっきりしている。カエランラ家の龍と、ララルーアの龍を見て、どちらが本物か判断するのに、カエランラ家だけに判断させるのは、ずるい、と言っているだけだった。しかし、この持ってまわった言い方が気に入ったのか、王は言った。
「ならば、人らしからぬところがあるものを龍といたそう」
ララルーアは感謝の言葉を口にして、深々と頭を下げた。下げながら、サテンにどんな人間らしからぬことをさせようか、と考えているのかもしれない。そして、同じように、バイローンが深々と頭を下げた。その顔は、先ほどのおびえが消えて、笑みを会釈で隠しているような、そんな陽気さが見えた。もちろん、見えたと言うより、気配が漂った、と言うようなわずかなものだったのだが。




