謁見の間-001 謁見の美しさを演出するため
兵士と言うよりも武人に近い。実際、身辺警護のために武装した、良家の出の男達で、兵士というより、王の側近に近かった。しかし、サテン達には分からなかったし、薄い絹に包まれた鉄を欠片も身に付けていないサテンやバイローンにとっては、どちらであっても関係なかった。
革やしっかりとした布地の服であったら、これほど気後れしなかったのに、とバイローンは密かに思った。着替えさせるには、謁見の美しさを演出するためではなく、単にいつもと違う服装をさせて心細くさせるためではないか、とバイローンが勘ぐってしまったほど、兵士の雰囲気に威圧されていた。
「ついてくるように」
兵士は、一言言うと背を向けた。女官は立ち止まったまま、二人が歩き出すのを見て、離れていく。
兵士は鎧の音をかすかにさせたかと思うと、真紅の絨毯の上を音もなく歩きだす。重いブーツも毛足の長い絨毯に吸い込まれ音がしない。サテン達の息吹さえも吸い込まれていくような静けさだった。彼らの先には一段高くなった場所がある。遠目に見ても分かるほど、大きな大理石の椅子が一客あった。
椅子の背は天井に届き、上に人が立てるほどのひじ掛けが見えた。ひじ掛けには、絨毯と同じ色の真紅の布が、巨大な椅子の中央には、ちんまりと座る小さな姿があった。紅の布は、その人物のマントで、座っていたのは、小さな痩せほそった老人だった。輝く宝石の縁取りのある庇のない帽子をかぶり、その帽子の上に重たげな金冠を乗せている。
椅子が大きすぎてひじ掛けに腕が届かない。細い腕は、代わりに置かれた大きなクッションの上に置かれ、指よりも大きい宝石の指輪をしていた。足は床に届かず、台置きの上に置かれている。小さな靴は刺繍に富んだ室内履きのようにも見える。王は、謁見だと言われて、マントをかぶって部屋から出てきただけではないかと思わせた。
しかし、身じろぎ一つせず二人を見つめる目は、違っていた。まっすぐに人を射るようなまなざしで、兵士の後ろで気おくれしていたバイローンは、その目に気づいて手足が固くなり躓きそうになった。
しんと静まり返った広間に、どこからともなく音が聞こえだし、楽の音だと分かると、徐々に大きく荘厳に響きだす。
正面の椅子に近づくと、男は小さいがそれ以上に椅子が大きいのだとわかった。柱の陰からは楽隊の一団が現れて、その脇に、重厚な紫色のマントの中年の男と、黒いドレスのララルーアと、濃緑色のマントの若いチェラック・カエランラが立っていた。反対側にはドレスや華やかな衣装に身を包んだ王族や貴族達が立ち並んでいる。
気がつくと、王の脇に一人の細身の男が立っていた。台座の後ろから階段を上がり、王の傍へよって王の言葉に耳を傾ける。白髪の目立つ男で、王の齢に近かった。王が何かささやくと、男はうなずき正面を見た。
「第二十三代ワイルラー王国国王シィル陛下よりお言葉を賜る」
見かけと違った、張りのあるよく通る声だった。さらにつづけて、
「第五皇子の無聊を慰めるため、龍の王国から使者として参った者へ、人間の国を統べる者として、謝意を表したい」
王が顔を傾けると、男は素早く後ろに向かってかがみこみ王の言葉を聞く。男はじっと耳を傾けていたのだが、顔をあげて王を見る。王は指を振って、男へ早く話せとせかすような仕草をした。
「歓迎の意として、人間の世界へ住まいを賜る。王領のプッシュナートを龍の住まいとして与える」
ひそやかなざわめきが生まれた、ララルーアの目が見開かれ、頬が紅潮する。台上の男は、さらに大きく響く声に変え、
「今後、未来永劫プッシュナートは龍の住まいとして、他の人間が領地とすることを禁ずる。陛下が、狭すぎなければよいのだが、というお言葉を添えておられる。龍の使者としての意義をこの王宮でつづがなくこなされることを祈る」
バイローンは震える膝を曲げた。唐突に、王の一言で領主になってしまった自分が信じられないようだった。見ていた王族達はささやきを止め、声高に話はじめた。怒りと戸惑いと、正面にいる二人へと言うより、二人の背後にいるはずの者達への憤怒が混ざりあい、中には聞えよがしに、
「売女の差し金か!」
という声も聞こえた。




