王宮-011 みなさまがお待ちです
女官に連れられ、柱の中央を通り、岩の端へと到達する。
再び橋があった。隣にさらに巨大な岩山があった。
橋は、岩山へ渡りながら、上へと続く階段になっていた。階段は、岩山の庇の中に吸い込まれていた。階段の手前では、巨大な岩山の縁に、テラスや張り出した部屋や窓が見え、中から笑い声が聞こえてくるように感じた。岩山は見降ろすと何層にもくりぬかれた巨大な建物だった。見上げると、庇の上に塔が見えた。
「みなさまがお待ちです」
女官は立ち止まった二人に声をかけ、石段を上がるように即した。サテンが歩き出し、バイローンも慌てたように後に続いた。橋を渡る。上へ続く階段を見上げながら、
「なのに、第五皇子はあの宮殿に住んでいるんだ」
と小声で言った。これほど立派な王宮があり、王族達がここで暮らしていると言うのに、あの第五皇子だけがのけものなのか、という意味だった。言葉の隅に怒りがあった。サテンは答えた。
「静かで住みやすそうだったが」
「裏のテラスにしか日が差し込まない、四方が壁の神殿を改造した建物だ」
バイローンの口数が戻りだす。
「それに、誰も訪ねてくる人がいないんだ。会話は陰気な家人が、用事を確認する時に一言二言話すだけだ。遊びは、何年も前に王に渡された四神の物語伝記を読むことくらいしかない。剣で身体を動かすこともなければ、ゲーム盤もなければ、勉強のための書物も、しなければならない日々の用事も何もないんだ」
最後はやるせなさが滲む。しかし、声は静かで押し殺している。
「それが、十八の少年に渡された人生さ。叫びだしたくなったって誰が不思議に思う? 叫びだしたくならない方が異常じゃないか!」
「母親の話だけが楽しみ」
「そうさ。王に冷たくされたせいで、母親の縁者だったら優しくしてくれるかもしれないと、思いつづけているのさ」
「そこにつけ入ったわけか」
「ララルーアが、付け込んだんだ」
バイローンは吐き捨てるように言い返す。女官は先に立って歩き出した。裾を軽く持ち上げて階段を上がって行く。それが礼儀なのか、聞こえたそぶりは見せない。本当に離れていたから聞こえなかったのか、小声だったから聞こうともしなかったのか。それとも、こっそり盗み聞きしているのか、わからなかった。顔は上を向けたまま。毅然として、揺るぎがない。二人は、女官を追って、階段を上がり始める。
「ねえ君。こんなところで、龍のまねごとなんかしていないで、本物の龍に仕える気はないかい?」
バイローンがささやくように言った。サテンは聞こえていないような顔をしている。
「こんな、龍の末裔だと吹聴している王家ではなく、本物の龍だよ。人々を救い、人々を守る、人々の平和のために戦う龍だ。僕が紹介してあげようか?」
「人間の平和のために戦う龍なぞ見たことがない」
ぼそっとサテンが答えると、バイローンはここぞとばかりに言葉を継いだ。
「と言うことは、どこかで見たことがあるんだね? 僕もだよ。僕も、本物の龍の仲間に会って、それから人生が変わったんだ」
サテンはその言葉で立ち止まった。女官も同じように立ち止まる。二人を見下ろしているのだが、バイローンは全く無頓着に先を続ける。
「人間ではだめだ。この世界を任せることができない。だから、僕は彼らの為に働くんだ。龍王の為に。大いなる力の為に。だから、君も。龍として、僕らの仲間にならないかい?」
サテンは穏やかな声で答えた。
「龍王がこの世界にいると言う話は聞いたことがない」
「それがいるんだ」
「いれば分かる」
とにべもない。が、バイローンは力をこめて、
「信じてみれば、そこに龍がいるんだよ。本当に、本物の龍が、君にだって見えるんだ。だから」
「見る必要はない」
「人生を変えたくないのかい? こんなペテン師まがいなことをしてまで、媚を売ってどうする? 第五皇子を見ただろう? あの皇子みたいに、邪魔になれば誰だって容赦なく追い出されてしまうんだ。こんな不安な世界にいるより、僕の仲間になって、そして、世界を導こう! 僕らとともに。僕は誓うよ。一緒に、大きなことをしよう」




