王宮-008 そこでサテンに花を持たせた
本物の重い銀を、髪に巻かれて下げられた。
サテンが首が痛くなりそうだ、と思ったところで、刺繍と美しい織り目で彩られた長四角の布地が広げられた。肩から腕へ、腕から背中へ、そして、腰から脚へと巻きつけられて、銀の輪であちこち留めだした。腰には銀糸刺繍の布ベルトを巻き、足には太い銀の輪を嵌め、腕には細い何重にも重なる銀の輪を手首から肘近くまで重ねられ、動けないほど締め付けられた。サンダルだけが軽やかだった。もちろん、刺繍と宝石に彩られた美しい革だったのだが、銀糸刺繍の服とあちこちに止められた銀の輪のことを思えば、軽やかなものだった。
サテンは細面で、きめ細やかな肌だった。洗って蒸しあげたおかげで、文句のつけようのない肌になっていた。クリームや粉を用意していた女官達は長い間、話し合っていたのだが、結局、唇に銀と青を混ぜたルージュを重ね、目元に濃紺のラインを入れるだけであきらめた。肌以上に美しい色が出せそうもない、と言うのが彼らの出した結論だった。
サテンは立ったまま、言われるがままに腕を動かし、命じられるままに頭を下げて、彼らの動くにまかせた。逆らうことなど無駄だった。できないどころか、相手にもされないだろうと思わせた。
女官達は、踏み台を用意して、互いに助け合っては、前から後ろからサテンの周りを回って着せかけた。サテンの身体も、着せつけた服も、飾りも宝石も、全てが、王の住まいにふさわしい物にするためのもので、女としての恥じらいなどは皆無で、美しいできになるかどうかが問題だった。
老女官が、数歩下がってサテンを見つめた。化粧の指揮をとっていた女官がペンを手に踏み台を降りると、
「いかがでございましょう? 薄いピンクを頬に刷けば優しげな気配になりますが」
「この目の厳しさと釣り合わぬ。小細工は見ていて醜いものじゃ」
「しかし、これほど表情のない顔に、この化粧では。不遜な雰囲気になりませんか?」
「へりくだるような面構えではないの」
そう言い放ち、老女官は右に左に身体を傾け、さまざまな角度からサテンを眺めた。
「そうよな。目が銀色なら、いっそ小気味いいほど人間離れして良いのだが。中途半端に人間くさい色をしているわい」
「ガラスをはめ込みますか? 銀の目とはいきませんが、青みがかった灰色ならございますが」
「ガラスでは意味がない。この顔に造り物は似合わぬ」
老女官も女官も黙り込んだ。他の女官達も、片づけ始めていたのだが、着せつけの為の紐や蒸し風呂の布を手にしたまま動きを止める。上官達の最後の仕上げを真剣な目で見入っている。
「よし。花を持たせよう。茎の長い花びらの大きな花が良い。白をベースにし、中に二つ青を混ぜよ。緑の茎には薄い黄色のレースのリボンを巻いて」
そう言って黙り込み、サテンを睨んだ。化粧をしていた女官が、脇の女官に小声で命じた。命じられた女官は手にした布を隣の女官に押し付けて飛ぶようにして出て行った。それから、しばらく時が流れる。誰もしゃべらず、動かない。サテンが軽く欠伸をした。女官達がとがめたような目つきになって、老女官がちらりと見た。それだけだった。
飛び出した女官が抱えるほど大量の花を手に駆け戻ってきた。長いドレスのお仕着せで、水色が基調で白いポケットの多いボレロの上着を着ているのだが、そのポケットからは、さまざまな種類の黄色いリボンが噴き出している。
「庭にある花を一通りそろえてまいりました。数については、引き続き備えておくように指示してあります」
「ありがとう」
指揮をとっていた女官が言うと、いくつか花を手に取った。老女官は腕を組んだままサテンを見ている。指揮をとっている女官は、濃い青のドレスを着ているのだが、それよりも濃い青の上着のポケットから鋏を出して手際よく花とリボンを整え、サテンの傍へ歩みよった。
「いかがでしょうか?」
サテンには持たせず、前に合わせて老女官に聞く。
「青より紫がよいな」
女官は素早く紫に変える。
「リボンを長く巻きつけるようにして、大ぶりの花のようなリボンに結いなおすのがよい」
老女の指示のままに、女官は花束を整える。素早い手際は慣れたものだ。
「そうよな。そんな感じじゃ。そして」
と老女官はしばらく考えていたのだが、
「青石を、革紐で首に留める。チョーカーにするのがよかろう」
と言い、どこから用意してくるのか、今度はすぐに手元に石と紐が取り出され、サテンの首に括られた。
指揮をとる女官がそこでサテンに花を持たせた。




