王宮-003 おまえは龍。そうでしたね?
バウンは、サテンを階上へ追い立てた。
家人を急き立て、サテンを風呂に入れ、服を着せて、髪を梳いた。するとまるで、この五日間の地下牢はなかったかのような華やかさになった。手に残る枷の傷は薄いレースの指のない手袋と腕の革ベルトで隠してしまった。足の傷はブーツで見えない。
ララルーアは、サテンの姿を見るとソファーから身を起こし、満足そうにうなずいた。
「サテン。おまえは龍。そうでしたね?」
サテンが見下ろし無言でいると、
「そう。そのふてぶてしい顔が必要よ。これは、わたくしの勝ちかもしれないわね」
とララルーアは笑った。龍だと名乗る男にだまされた、と言うあらすじは、サテンを見たとたん止めたらしい。もしかしたら、まだ健在で、どちらにするのかその場で決めるつもりかもしれないのだが、そんな危険も気づかないのか、サテンは表情もなく、興味もない顔で、ララルーアを見下ろしているだけだった。
ララルーアは、地下牢に突き落としたことなんか、すっかり忘れてしまったかのように、上機嫌にサテンの手をとると、ソファーから立ちあがる。
「良い? 陛下がお前に会いたがっておいでよ。光栄でしょ? わたくしがこの王宮へお前を連れてきてやったからよ。わかるわね? 村から引き出してやったのはわたくし。そして、そのわたくしがおまえの為を思って、陛下へおとりなしをしてやったのよ。だから、おまえも、しっかりと私への感謝を示しなさい。陛下には、第五皇子を龍だと証明するのよ。陛下は、龍の御子に夢中なの。だから、第五皇子も龍でなければならないわ」
「他に龍の子がいるのか?」
「いるものですか! 陛下の龍は第五皇子のみ。わたくしたちの皇子だけが、陛下の龍よ。陛下が、今度こそ、あの第五皇子を見て、これこそは、と王位をお考えになるのよ。王家の血筋を引く者はすべからく龍の血を引く。それを、おまえが証明するのよ」
「王の血を引くものなら、龍の血を引いてはいまい」
と言ったとたん、ぴしゃっと甲高い音が響いた。ララルーアがサテンの頬をレースの手袋の手で叩いていた。サテンは表情もなく、ララルーアを見下ろしている。ララルーアは真っ赤な頬でサテンを睨み挙げてから、
「おまえは龍。そう言ったのはわたくしよ。そして、陛下は龍。そう教えたのもわたくしだわ。第五皇子は龍。これも、同じ。わかるわね? おまえはそれほど頭が悪いのかしら? わたくし、まだ、村へ向けた兵に、村を襲えと命令はしてないのよ。包囲せよ、と言っただけ。大事でしょ? おまえの村が? 大事じゃないの?」
「大事な村だ」
サテンの声は、どこか遠くで響くような声だった。しかし、ララルーアは興奮していて気付かない。
「なら、おまえが話すべきことは分かるわね? 第五皇子は龍の子よ。気高く優雅な、誰もが憧れるような龍になる子。それが、第五皇子の未来であり、全ての人が思う事実よ!」
「それがおまえの本心か。そうなってほしいと望んでいるのか」
「そうなるとわかっているのよ! わたくしが見込んだ者に、はずれはないわ」
サテンは黙った。見こまれた自分のことを思いあぐねていたのか、それともその強気に一瞬見惚れてしまったのか。
「言える? 第五皇子は龍だ、って」
「言えば良いのだな」
「そうよ。言えばいいのよ」
と言って、ララルーアは満足そうにほほ笑んだ。
もしサテンがそう言えば、その瞬間に、ララルーアは泣き崩れるのだ。陛下の足もとで、あんな男にだまされたのだ、と。そうすれば、ララルーアの身の安全は保障される。逆に、陛下がサテンの嘘を本気にすれば、第五皇子の立場が上がり、本当に第五皇子が王の椅子に座ることになるかもしれない。どちらに転んでも、ララルーアにとっては悪くない話だった。
後は、カエランラの連れてきた龍を追い落とし、カエランラが後ろ盾になっている第一皇子を引きずり落として、そして、自分が絶対の地位に昇りつめたら、王が亡くなった後も、憂い一つなくこの国に君臨できる。ララルーアは万全の未来を思って深い微笑みを浮かべた。




