王城-010 手枷を嵌められた
サテンは、ララルーアの宮へ戻った。村のことが不安で、戻って来たと宮の者たちは思っていた。サテンは何も言わなかった。されるがままに、バウンによって手枷を嵌められた。宮の広間の裏には、貯蔵庫へ下る階段があった。貯蔵庫の脇に、行き止まりの壁があり、大きな樽が置かれていた。バウンは、地下へサテンを連れて降りると、足にも枷を嵌めた。サテンは、されるがままだった。
バウンが家人達に樽をどけさせると、とっ手のついた床板が現れて、板を開けるとサテンを押して、中へ落した。真っ暗な闇の中、下へ落ちた音がした。家人達は顔をそ向け、目をつぶる。バウンは何も云わず、板を戻して南京錠をかけると樽を据えた。
「誰も樽に触るな。触った者は、サテンと同じ運命をたどることになる。わかっているな?」
家人達は無言だった。青ざめた顔で、バウンを見ている。返事はない。しかし、バウンは確かめたと言うようにうなずいて、戻れと顎を振ると、家人たちは恐怖のためか、後ろも見ずに階段を駆け上がって行った。バウンは彼らを見送った。家人の気配が消えたのを確かめる。それから、バウンは、しゃがみこんで樽の脇に片膝をついた。
「聞こえるか? お前の村に兵をやるよう指示をいただいた。今までのような監視じゃない。傭兵だ。何をしたのか知らないが、ララルーア様は非情な方だ。謝れるのなら謝れ。こちらに様子をご覧にいらっしゃるだろう。声もなく近づく気配がしたら、ララルーア様だと思え」
バウンは、しばらくしゃがみこんだまま下の気配を探っていた。サテンは、うちどころが悪かったのか、落ちた拍子に気絶したのか、気配は全く動かなかった。バウンは立ち上がって、
「生き延びたかったら、床の水でも啜れ。壁の苔や土を喰らえ。引きずりだした時に生きていたら、ララルーア様も考えなおされるかもしれない」
と言った。床下の気配はやはり動かなかった。バウンはしばらく見下ろしていたのだが、踵を変えて階段を上がって行った。厳しい顔をしていたのだが、どこか失望したような気配があった。言われるがままに手枷足枷を嵌められたのを見て、がっかりしていた。もっと恐ろしいものだったはずだ、と思うと、自分の勘が外れたことにいらだった。
ただ、表情のない顔に、穴を見てもまったく動じていなかった目を思い出すと、それほど村が大事なのかと思い、また、それとも、穴牢を軽く見ているだけで無知なだけかと思い。哀れだなとさえ感じた。ただ、サテンの背中を押した時に感じた、言い知れない空気に、自分の気持ちとは別に、そこはかとない恐怖が湧き上がり、背筋の産毛が逆立った。
階上の気配が消えた。
サテンは静かに身体を起こした。落ちた時に足をひねったのか、膝をさすった。節々が痛むのか、腰で床をするようにして後ろへ下がる。背中がじめついた壁にぶつかり、ため息をつく。見上げると、四角い扉の影が見えた。縁が白く、光が漏れる。真っ暗と言うほどでもない、とサテンは思った。しかし、樽のある廊下も、蝋燭がなければ見えないほど暗かった。どう見ても、光の欠片もないはずだった。なのに、光が見えてしまう。サテンの目は、普通ではないようだった。
サテンは、あくびをすると、そのまま、うつらうつら眠りだした。湿った固い床が腰を痛める。背中や肩が、壁からしみ出た水に濡れる。それでも、眠気を我慢できないのか、とろんとした目で天井を見ていたのだが、すぐに瞼が落ちてきた。
天井は高く、立ち上がって飛び上がっても、とどかない。四、五メートルはあった。床は堅い石で、隅には水たまりがある。立ちあがって三歩も行くと行き止まりになる。狭い穴だ。サテンは、壁からずれ落ちると、床に横になって、本格的に眠り込んだ。




